針葉樹林に垂れ下がる様子が独特のさるおがせ。風にゆれる様を眺めていると、いつの間にか何処かへ連れ去られそうです。原句は「異界へと誘う宵闇サルオガセ」。
荒梅雨や道に川あり谷のあり 和子
原句は「梅雨荒れぬ道に川あり谷もあり」ですが、散文的で言葉が流れてしまっているのが残念。言葉をよりしっかりと印象的に置いてみましょう。
山道で思いがけなく出会った、咲き残る花への驚きと懐かしさ。「一輪」「白さ」が秀逸。原句は「一輪の余花の白さよ山深し」。
【入選】
飛魚の羽の光るや防波堤 裕子
防波堤から飛魚の飛ぶ遥かな海を臨んでいるのでしょうか。夏の波のきらめきと、飛魚の羽のきらめきと。原句は「飛び魚や羽光るるは防波堤」。
紫陽花の川と流るる電車道 和子
走る電車の中から沿道の紫陽花を眺めているのでしょう。とりどりの色が混ざり合い流れていくという、動きのある紫陽花の句は新鮮。ごちゃごちゃしそうな内容が、思い切った言葉の運びですっきりした一句になりました。
砲声の響く湖霧深し 和子
砲声も湖も霧のなかに溶け込んでいく、現代の不安感をも感じさせる一句。原句は「砲声の響く湖夏の霧」。実景は原句通りなのだと思いますが、作品に仕上げる段階で「夏」が季語として効いているかどうかを考えたいところです。
新宿朝日カルチャーセンター「カフェきごさい句会」。五月は数年ぶりに「新宿御苑」での吟行句会を行いました。初夏の爆発するような緑のなか、泰山木、薔薇の花に出会いました。
【特選】
とりどりの薔薇と競つて花帽子 勇美
イギリスの競馬場の一場面のよう。薔薇の花の間を浮き沈みしながら行く花帽子が見えるようです。原句は「とりどりの薔薇と競ひて花帽子」。
蛇の衣のこして父は逝きたまふ 勇美
箪笥に入れておくと服にこまらない、財布に入れておくとお金が貯まると言われる蛇の衣(抜け殻)。遺品整理の折でしょうか、父上が仕舞っておいた蛇の衣が。身近にいる人でも、実はその思いはよくわからないもの。「蛇の衣」という少し不気味な存在感が活きた一句です。原句は「蛇の衣のこして父の逝きたまふ」。吟行の折、高い木にぶらさがる蛇の衣を見つけました。
【入選】
ひとときの風を楽しみ黒揚羽 和子
夏の蝶、黒揚羽ならではの堂々とした存在感。
ご長寿が木陰で昼のビールかな 勇美
美味しそうなビールですが、上から下まで散文のように述べてしまったのが残念。「木の陰で昼のビールや寿」など。
新緑や今が一番いい二人 裕子
若い恋人同士でしょうか。老婆心ながらというところですが、目に染みるような新緑に託す思いが感じられます。原句は「新緑よ今が一番いい二人」。
目を閉じて若葉のうねり海に似て 裕子
初夏の緑に身をまかせる作者。思いが句に収まりきっていないのが残念。「目を閉じて若葉のうねる海のなか」など。
ビー玉の中に逆さの虹かかる 勇美
ビー玉の中の光は句材として新しくはありませんが、情景をしっかり言葉で表現できています。原句は「ビー玉の中に逆さの夏の虹」。この句の場合は、夏の季語にあえて夏はいりません。
風の色仄かに見ゆる蛇の衣 和子
「風の色」で切れるのか、「仄かに見ゆる」で切れるのかが曖昧。仄かに見えるのが風の色なのか、蛇の衣なのかをしっかり描きましょう。
泰山木ここにありとぞ花開く 和子
泰山木の大きな花が空で見得を切っているようです。泰山木ならではの一句。
松の芯ドコモタワーを遠景に 勇美
新宿御苑の森の向こうに、松の芯のように尖るドコモタワー。
蛇いちご遠いむかしの帰り道 光枝
【連中】守彦 都 良子 桂 すみえ 裕子 雅子 涼子 光尾 隆子 利通 酔眼 光枝
≪互選≫
良子選
飛魚や帰省の船をまへうしろ 隆子
菖蒲田の光分け行く小舟かな 桂
己が道図太く生きよ牛蛙 都
裕子選
老鶯の背山妹山季(とき)問はず 利通
飛花落花狐六法なほ高く 酔眼
イカロスの落ちたる海の飛魚かな 隆子
桂選
老鶯の背山妹山季(とき)問はず 利通
飛花落花狐六法なほ高く 酔眼
三年を眠りし梅酒封を切る 雅子
光尾選
菖蒲田の光分け行く小舟かな 桂
歯の治療をへて安堵の夕薄暑 裕子
今年またおんなじ父の夏帽子 良子
雅子選
微笑みて吹かれてをるや蛇の衣 光枝
飛魚や帰省の船をまへうしろ 隆子
山芍薬雲の白さに花開く 涼子
すみえ選
風くれば金魚泳ぐや江戸風鈴 雅子
三年を眠りし梅酒封を切る 雅子
柿若葉子供みこしの一休み 裕子
都選
父の日やひとり居の父爪を切る すみえ
飛魚や帰省の船をまえうしろ 隆子
まぼろしのひまわり畑子の遊ぶ 光枝
涼子選
風くれば金魚泳ぐや江戸風鈴 雅子
菖蒲田の光分け行く小舟かな 桂
山峡の風も運んで新茶着く 光尾
利通選
風くれば金魚泳ぐや江戸風鈴 雅子
泰山木花のつぼみの朽ちゆくも 光枝
菖蒲田の光分け行く小舟かな 桂
隆子選
老鶯の背山妹山季(とき)問はず 利通
菖蒲田の光分け行く小舟かな 桂
今年またおんなじ父の夏帽子 良子
酔眼選
父の日やひとり居の父爪を切る すみえ
婚礼のくさやとならん飛魚とぶ 隆子
ところてん話し上手に聞き上手 良子
山芍薬の咲く山の澄んだ空気が感じられる一句です。「山芍薬雲の白さの花開く」。
今年またおんなじ父の夏帽子 良子
「今年またおんなじ」で切って読みます。日焼けした古い帽子を大切にされている父上。新しいのがあるのに、と家族に言われても我関せず。そんな父上を好もしく見守る作者です。
グレイヘヤーさあ楽しまん髪洗ふ 雅子
原句は「グレイヘアーさて楽しまん髪洗ふ」。新しい夏の新しい自分の勢いをより出しては。「髪洗う」の新鮮な一句です。
丸き山いくつ超えたか遍路笠 守彦
讃岐地方にはぽこぽことした丸い山が続きます。遥かゆくお遍路さんへ心を寄せた一句。「遍路笠」が上手い。
【入選】
飛魚や帰省の船をまへうしろ 隆子
ふるさとへはやる気持ちを飛魚に託した一句。夏の季語「帰省」をどうするか。「飛魚や帰郷の船のまへうしろ」。
独裁者自ら落ちる蟻地獄 都
戦争のニュースに心痛む日々。原句は「独裁者自ら落ちろ蟻地獄」。気持ちはわかりますが、作品として「蟻地獄」の存在がより生きるようにしたいところです。
絶妙な母の間合ひや新茶汲む 裕子
具体的にはどういった状況かはわかりませんが、絶妙なタイミングで美味しい新茶を振る舞う母上。新茶の力でその場がより和やかになったに違いありません。
菖蒲田の光分けゆく小舟かな 桂
絵葉書の風景に落ち着かずに、「光分けゆく」と動きを出して上手くいきました。
仕事場に父が坐りし夏の夢 守彦
仕事をするお父上の後ろ姿でしょうか。「坐りし」で作業の様子が目に見えるようです。短夜の夢の一端。
蚕豆のつるんと出でて夕べかな 酔眼
晩酌の蚕豆でしょうか、夏の日の終わりのほっとする時間。原句は「蚕豆のつるんと出でてくる夕べ」。
山峡の風も運んで新茶着く 光尾
山間に育った新茶でしょうか、封を切る時のうれしさが思われます。言葉の運びに無理がなく心地よい一句。
胡椒餅旨し外つ国の夜店かな 都
屋台の胡椒餅が美味しそう。言葉に少々無理があります、素直に。「胡椒餅香る台南夜店かな」など。
己が道図太く生きよ牛蛙 都
牛蛙の大きな鳴き声に勇気をもらいます。取り合わせの句ですが、季語の「牛蛙」が内容と合い過ぎているのでもう少し間のある季語を考えてみましょう。
亀の子は鼻突き出して夏の川 桂
少し淀んだ夏の川の様子。「鼻突き出す」が具体的で句をいきいきとさせています。原句は「亀の子は鼻突き出すや夏の川」。
柿若葉子供みこしの一休み 裕子
やわらかな柿若葉の下、お神輿を下して一休み。涼しい風が吹いていることでしょう。
6月の「ネット句会」の投句一覧です。
参加者は(投句一覧)から3句を選び、このサイトの横にある「ネット句会」欄(「カフェネット投句」欄ではなく、その下にある「ネット句会」欄へお願いします)に番号と俳句を記入して送信してください。
(「ネット句会」欄にも同じ投句一覧があります。それをコピーして欄に張り付けると確実です)
選句締め切りは6月5日(日)です。後日、互選と店長(飛岡光枝)の選をサイトにアップします。(店長)
(投句一覧)
1 老鶯の背山妹山季(とき)問はず
2 風くれば金魚泳ぐや江戸風鈴
3 父の日やひとり居の父爪を切る
4 父の日の夜に入りて来る子の電話
5 姫女苑地蔵のごとく並びおり
6 微笑みて吹かれてをるや蛇の衣
7 飛魚や帰省の船をまへうしろ
8 飛花落花狐六法なほ高く
9 肥え野良がドヤ顔で行く春の昼
10 独裁者自ら落ちろ蟻地獄
11 湯の町の夕風匂ふ花みかん
12 東京に虹や汐留辺りより
13 泰山木花のつぼみの朽ちゆくも
14 絶妙な母の間合ひや新茶汲む
15 青梅の産毛きらきら昨夜の雨
16 新緑の葉陰にどっこい赤椿
17 菖蒲田の光分け行く小舟かな
18 女教師に鈴蘭そつと差し出す子
19 歯の治療をへて安堵の夕薄暑
20 紫蘭なほ弥勒のごとく立ちて母
21 仕事場に父が坐りし夏の夢
22 蚕豆のつるんと出でてくる夕べ
23 山芍薬雲の白さに花開く
24 山峡の風も運んで新茶着く
25 三年を眠りし梅酒封を切る
26 婚礼のくさやとならん飛魚とぶ
27 今年またおんなじ父の夏帽子
28 胡椒餠旨し外つ国の夜店かな
29 己が道図太く生きよ牛蛙
30 幻のひまはり畑子の遊ぶ
31 蕎麦の花風にゆれてる開墾地
32 亀の子は鼻突き出すや夏の川
33 丸き山いくつ越えたか遍路笠
34 柿若葉子供みこしの一休み
35 ところてん話し上手に聞き上手
36 ダダダダと戦争ごつこ梅雨深し
37 たかんなの昂さする蹠かな
38 グレイヘアーさて楽しまん髪洗ふ
39 イカロスの落ちたる海の飛魚かな
天を突く落葉松若葉晴れ晴れと 和子
落葉松は落葉が印象的ですが、高い空に誇らしげに芽吹く若葉が気持ちを開放してくれるような一句です。
【入選】
水分けて出逢ふ太藺や鯉の昼 裕子
原句は「水分けて出逢う太藺を見上げるや」。太藺の水に棲む生き物になって詠んだ句と思いますが、要素が多く句の焦点が定まらないのが残念。「水分けて」はたいへん涼し気でけっこうなので、その上五をより生かし、焦点が合うよう工夫してみましょう。
新緑の海に真白き浅間山 和子
なだらかな稜線の浅間山ならではの句。浅間山に集約した言葉の運びが心地よい、しっかりした一句です。
河鹿笛亡き人恋ふて夜もすがら 和子
平安の和歌のような端正な句。こちらも句の形がいい。
新宿朝日カルチャーセンター「カフェきごさい句会」。四月の兼題はサイトより、今月の季語「鳥の巣」、花「ユーカリ」、江戸の味「桜えび」です。
【特選】
桜えび朝日におどる天日干し 裕子
広い干場に桜海老を撒いていく様子。「朝日におどる」が新鮮な桜海老を思わせます。原句は「桜えび朝日におどり天日干し」。
桜海老煎餅割つて飛び出さん 和子
桜海老を焼き込んだ香ばしい煎餅。煎餅から飛び出さんばかりの桜海老とは美味しそうです。原句は「割りて」ですが、「割つて」の勢いがほしいところです。
【入選】
君待てば天道虫がブローチに 勇美
初々しい恋心。天道虫がブローチのようだという発想はあるので、より普遍的に詠みたい。「君待てば天道虫が胸の上」など。
巣箱揺るる砲声二発湖の上 和子
砲声が巣箱を揺らすようだという発想は新鮮ですが、色々入れ込んで句がごちゃついてしまったのが残念。自分が何を言いたいのかに焦点を当てたい。「一発の砲声に揺れ巣箱かな」など。
ユーカリの風をはらむやサンシェード 勇美
「ユーカリの風」が涼し気です。
春スキー滑り下りれば花の里 和子
雪の山から花の里へ、一気に変わる風景は春スキーならではです。「花の里」が少々平凡なので、より印象的な情景でよりダイナミックな一句にしたいところ。「春スキー滑り下りれば桃源郷」など。
ユーカリの香り纏ひて山の道 和子
ユーカリの香りに洗われるよう。
新材で競ふ個性や鴉の巣 勇美
ハンガーなど様々な素材を集めて巣を作る、都会の鴉ならではの愉快な一句。新材を具体的なものにしてもより楽しくなるか。
富士山のすそ長々と桜えび 光枝
新宿の朝日カルチャーセンター「カフェきごさい句会」。三月の兼題はサイトより、今月の季語「万朶の桜」、花「スイートピー」、浪速の味「雛あられ」です。
【特選】
転んでも離さぬ袋雛あられ 裕子
たぶんこの子は泣きべそをかいていることでしょう。でも手の雛あられはしっかりと握って。「雛あられ」の明るさで悲惨(!)な状況も明るい一句となりました。大人になった時には毎年ひな祭りの笑い話になることでしょう。原句は「転びても離さぬ袋雛あられ」。
交差する光と影やつばくらめ 勇美
燕の直線的な飛翔の様子を光と影で言い留めました。交差する光の句はよくありますが「影」とまで踏み込んで鋭い一句となりました。原句は「交差する光と影のつばくらめ」。
【入選】
飛び込まん遥かな空へ春スキー 和子
春スキーの明るさ、解放感が感じられます。「飛び込まん」を上五に置くことで句全体に勢いと動きがでました。
息吹けばスイートピーの蝶ゆれる 裕子
スイートピーを蝶に例えた句はたくさんありますが、「スイートピーの蝶」と言い切ったところがいい。原句は「ふとふけばスイートピーの蝶ゆれる」。
舟一艘浮かぶ湖風光る 和子
舟に焦点を当てるこどで、しんとした早春の湖の様子が思い浮かびますが、季語「風光る」のいきいきしたものが感じられないのが残念です。
千代紙の器を折つて雛あられ 勇美
小さな器に入れた小さな雛あられ。雛祭りを楽しむ心が感じられる一句です。原句は「千代紙の器を折らむ雛あられ」。より生き生きと詠みましょう。
ちり紙に包んでもらふ雛あられ 光枝