蝋梅科の植物はさほど多くはなく、その中で見かけることが多いのは年末から咲き始める黄色いコロンとした蕾を持つ蝋梅でしょう。葉の出る前にぽつぽつと付く蕾が開き始めると、その甘い香りにもうすぐ春が来ると実感するのです。
私にとって楽しみなのは季節もすすみ、そろそろ花木も終わりそうな頃に現れる蝋梅科の黒蝋梅です。
同じ蝋梅科でも属がちがい、黄色の花が咲くのはロウバイ属、チョコレート色の花をつける黒蝋梅はクロロウバイ属です。アメリカ蝋梅ともいい北アメリカが原産地。日本に入ってきたのは明治時代だそうで、庭木などに植えられました。花のまわりに小さな葉をつけ、枝はわずかな曲線を描く黒蝋梅をはじめて見た時、蝋梅と近縁とは思いませんでした。
花の形と色が楽しめるのは新緑から梅雨に向かっていく頃です。花店で見かけることはあまりありません。お稽古の花材としてめずらしいのは、この木は高さもなく、主に庭木として植えられているということでしょうか。
たまたま手にすることがあると、どんな花にも相性のよい雰囲気を持つこの花にいろいろと違った花材を合わせてみたくなります。何本も使っていけるのもよし、アクセントに登場させるもよし、と時間を忘れてしまいます。
学名はCalycanthus fertilis といい、主に実に毒があります。Calycanthus という言葉から推測されるかもしれませんが、カリカンチンという物質が葉や枝にあり、実は特に気を付けなければなりません。やはりきれいな花を咲かせるものはこうして自分の身を守るのだ、という事実を思い起こさせます。
毒があってもやはり魅かれるこの花、年に一回もいけられないこともあるので、入手した時はいつにもまして心を込めていけあげ、あとは必ず手を洗ってこの季節ならではの花を楽しみます。
都会のマンション暮らしでは鉢に植えても育つかどうか、まして庭に植える楽しみは望めません。「先生用」とマジックで書かれた古新聞に包まれた数本の黒蝋梅は、そのことを知っている花屋さんのうれしいプレゼント。感謝しながらあれこれと棚から花器を引き出しては何にいけるか決めかね、豊かな時が過ぎていくのです。(光加)