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今月の花(十二月)冬紅葉

caffe kigosai 投稿日:2021年11月22日 作成者: koka2021年11月23日

「もう紅葉も終わりでしょう」という門下の話に、せめて名残の冬紅葉が見られるだけでもと期待した帯広でした。

地元はもちろん全国で有名なお菓子の店の本店に併設されたギャラリーで、私の門下のSさんが彼女の六人の生徒とともにいけばな展を開催することになりました。

Sさんは東京のいけばなの本部や私の教室にも時々勉強に上京。しかし、この二年近くはそれもかなわなかったのですが、事態が少し好転したのを見極め、展覧会の開催を決断しました。「こちらの花屋さんにある花材もこの季節になってくると大したものもないし、先生どうしましょう!」との電話に、一年ぶりに飛行機に乗り帯広に向かいました。

機体の降下がはじまると、わずかに黄色の葉をつけた樹々が視野に入り、せめて冬紅葉には出会えるかもしれないと少し希望がわいてきました。

今回のように目的がある時だけでなく休暇でもたびたびここ帯広に来るのは、実は私の好きな温泉があるからです。

モール温泉と呼ばれる独特の温泉で、同じ性質の温泉は今では他にも発見されましたが、初めは主に帯広を中心とする十勝地方とドイツの「バーデン バーデン」の周りが知られるだけでした。ちなみにバーデンとはドイツ語で温泉のこと。

北海道のこの地方の温泉は、アイヌの方たちが薬の沼と呼んでいたそうです。番茶色ではあるもののお湯は澄み、匂いがなく、時々白い一ミリ位のものが浮かんでいます。それは植物の化石が溶け出したものという説明が脱衣所にありました。

十勝地方には古くから葦などが生えていたようですが、それらの植物が長年の間に泥灰(moor=モール)の中で腐植物となり、その有機物質の層を通ってくるお湯はアルカリ性に近くじんわりと体が温まります。

見上げれば空っぽの梢を風が吹き抜けていきます。その代わり、足元には赤や黄色、茶色の色鮮やかな葉たちが厚みのある織物を拡げてくれます。手帳の中に一枚、しおりにと拾いはじめましたが、どの一枚をとっても個性的な色の配置で決めかねました。

この葉たちも土に帰っていき、何万年、いやもっとだろうか、やがてあの豊かなお湯を生む母体の層の一部となるのでしょうか。冷たい風の道を歩いていけば、永遠の端にちょっと触れてみたような、そんな思いに駆られる初冬の北国でした。(光加)

浪速の味 江戸の味(十一月) 葱鮪鍋【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2021年10月21日 作成者: koka2021年10月22日

葱鮪鍋は、字のごとく葱と鮪のシンプルな鍋です。鮪は江戸時代末期に広く食べられるようになりましたが、足が早く、赤身は「漬け(ヅケ)」にして江戸前寿司の重要なネタとなりました。脂身(トロ)は醤油をはじいてしまうので漬けにはできず、肥料にされるか破棄されていたそうです。

そのトロを江戸の庶民が工夫したのが葱鮪鍋です。より簡単に吸物仕立てにした葱鮪汁も好まれました。鍋はとてもシンプルで、鮪の相方はほぼ葱のみ。江戸の周辺には千住をはじめ葱の産地が多かったことも、手軽に作れる助けになったことでしょう。

江戸落語に「目黒の秋刀魚」と同じ作りの「ねぎまの殿様」があります。この落語には江戸庶民の姿が生き生きと描かれています。「ねぎま」を早口で言うので殿様には「にゃっ」と聞こえたり、ぶつ切りの葱を熱いのも構わずかぶりつくので熱々の葱の芯が飛び出して大騒ぎしたり(葱の鉄砲)、鍋を囲んで座るのは醤油樽だったり。

東京には浅草や深川などに葱鮪鍋を出す店があります。深川の汐見橋にほど近い店のご主人は、葱が鉄砲にならないように斜めに切るなどこだわりの葱鮪鍋を出しています。

木枯らし1号の話題が出はじめた東京、少し冷たくなった川風に吹かれながら、葱鮪鍋をいただきに出かけましょうか。
  
喧嘩も恋も膝つきあはせ葱鮪鍋  光枝

今月の花(十一月)冬の菊

caffe kigosai 投稿日:2021年10月21日 作成者: koka2021年10月21日

「社長は埼玉までいっているので何時に帰ってくるかわかりませんねえ」

オンラインのデモンストレーションを頼まれ、社長に花材をお願いしようとなじみの花店にかけた電話の返事でした。

店先での販売もしていますが、家元や門下の作品撮影など特別な時は花材を近郊に探しに行くこの花屋さんは、普通の町の花屋さんとは少し異ります。例年なら晩秋は展覧会が多く、花材集めに社長自らトラックで走り回る時期です。

前もってこの植物のこのくらいの長さの枝を、と注文しておくと、いきなり電話がかかってきます。「今 目の前に先生の注文にピッタリと思う木がありますがそれでいいですか?いま写メ送ります」。古くからの知り合いの山を持っている人に頼み山中に入り枝を切らせてもらったり、栽培している農家の庭やそのまた知り合いの家で調達。

2か月先の展覧会に着色した花材を注文すると「先生、この間見に行ったらまだ枝が伸びきってないので今は切れません。いい塩梅になったら切ってきますから。それから枯らせて着色します」という返事。このお店とは、先代と亡き私の師とのお付き合いが社長と私の代に至っています。
 
昨今はネットで花を注文することも多くなりました。しかし花材が到着してみると思った色や、花や葉の付きぐあいではなかったり品質が今一つ価格に釣り合わないということもあります。その点この店の2代目は週3回、早朝から花市場に出向いて数十年の経験から自分の目で確認の上落札するので私は全幅の信頼を寄せています。

この店から届いた小菊は、陽だまりを集めたような優しいピンクで季節の輝きを放っていました。成長の軌跡を示す微妙な曲線の茎を確かめつつ、枯れた大小の葉をとっていくと埃が指につきました。潜んでいた小さな虫に刺されたのか、手がかゆくなり指の一部が腫れました。

菊はデモンストレーションでいけて、自宅に持って帰りました。10日以上もたった今も次々と小さな花を咲かせています。たくましい冬の菊です。

富士山の冠雪が報じられ、いよいよ本格的な冬の到来です。(光加)

今月の花(十月)蘇鉄の実

caffe kigosai 投稿日:2021年9月22日 作成者: koka2021年9月22日

花屋さんで珍しいものをみつけました。

扁平な卵型のオレンジ色の実が大小六個。柄からは薄い茶色のビロードの羽根のようなものが、実を守るようにくるりと一枚。どこかで見たはずと、記憶をたどりながら丸缶に無造作に入っているものをながめていると「蘇鉄の実ですよ」と花屋の社長さんから声がかかりました。

その一言で私は、何十年も前に一瞬で引き戻されました。小学校のクラスメイトで、勉強ができ先生のお気に入りと言われていたその子は、おじい様がとても偉い方だと子供たちの間で噂されていました。

ある朝、その子はくしゃっとした紙袋から一つの植物を出して、黒板の前の先生の机の上に置いたのです。「なにこれ?」と女の子たちが集まりだしました。朱赤の実は、長いところが3センチくらいで、産毛のようなものでおおわれていました。

「蘇鉄の実なんだって、南の島の植物の実」。父上かおじいさまが南に出張した時に入手され、珍しいから学校に持っていって友達にみせたら、と言われたのでしょうか。

種にはサイカシンという有毒物質がある一方、食用にでんぷんが取れます。毒を抜いてでんぷんを取るにはコツがあり、何度も水にさらすなど手間と時間がかかるそうです。株は雌雄あり、中央に花が咲くまで10年位待たなければなりません。雌の株に種ができるのは、秋が進んだ10月ころ。

日本の蘇鉄は九州南部 沖縄 奄美諸島などが産地で、恐竜が闊歩していた時代からあったと言われます。葉を曲げてみるとその強さが手に伝わってきます。高さは2メートル~4メートルで、鱗状の幹は葉柄の基が残ったもの。1メートルにもなる葉は少しカーブを描き柄には深緑で光沢のある細くとがったたくさんの葉がついています。四方八方にのびのびと葉を伸ばした姿を、海岸などで見かけます。場所を取るからでしょうか、お寺や大きなお屋敷によく植えられています。

先日、オンライン講座でこの蘇鉄の実を使いました。竹の籠についてのレクチャーと、籠を使って蘇鉄と花をいけました。世界各国から200人以上の方が同時に見てくださり、蘇鉄の実は「fruit of Sago Palm」と英語で説明しましたが、「あれは何ですか?」という質問は講座の後からも寄せられました。

私の思い出の中の蘇鉄の実が 何十年かけて世界にデヴューしたような気がしました。(光加)

今月の花(八月) 実桃

caffe kigosai 投稿日:2021年7月20日 作成者: koka2021年7月20日

お雛様に飾る桃の花より、桃の実の方をより好む方も多いでしょう。桃は中国原産ですが、実を楽しむ桃は明治の終わりには水密系の桃に改良が重ねられ、白桃や黄桃など甘みの増した桃が次々とでてきました。 

避暑で毎夏訪れた蓼科の山間の小さな寮の前の谷川。西瓜は買ってきたビニールの網にいれたまま、冷たい流れに冷やしていました。一緒にいれたジュースの缶の文字が水の中でゆれ、時たま小さな魚が走っていきました。

桃だけは沢の水をためた小さなアルミの桶の中に、(そっとね)という母の声を聞きながら沈めました。薄桃色の肌の、赤ちゃんの産毛のような毛茸あたりから透明な泡が立ちのぼりました。十分冷えた頃とりだし、皮をぺろりとむく間も惜しくかぶりつくと、母が(おいしそうな音を立てて食べるのね)と笑いました。あれは白桃だったでしょうか。

桃の紅茶を初めて飲んだのは30年前、イタリアのフィレンツェ郊外のある家に泊めてもらった時でした。庭のテーブルに座っていると、女あるじが水差しから甘い香りのお茶をグラスに注いでくれました。

「何かしら?」それはテ アッラ ぺスカ(桃の紅茶)でした。ガラスの水差しの底には切った桃が沈んでいました。桃を切って熱く出した紅茶に入れて冷蔵庫で何時間か冷やしただけ、砂糖もいれて、と彼女は説明してくれました。

イタリアでは暑さの増すこの季節に飲まれるようで、庭のパラソルの下での冷たい桃の紅茶は喉に心地よくしみていきました。ヨーロッパではこの時期、日本ではあまり見かけない蟠桃という平たい桃をよく見かけます。この時の桃はそれではありませんでした。

イタリア語の「pesca」は、英語では「peach」、学名は「Prunus persica」。 どこかにペルシャを思い起こす名前です。もともと中東を通ってペルシャに入ってきたので、ペルシャ原産と思った人たちが 「ペルシャのりんご」と呼んだことによります。

邪気を払うと言われる桃の力に基き、桃太郎伝説が生まれました。ここらへんで現代の桃太郎さんに登場していただき、今の世界にはびこっている鬼たちをぜひ一気に退治してもらいたいものです。(光加)

今月の花(七月) 青芭蕉

caffe kigosai 投稿日:2021年6月17日 作成者: koka2021年6月17日

梅雨入りのころ、そろそろ夏の花材が見かけられるころとなりました。

この状況の中で、オンラインのデモンストレーションをお引き受けすることも多くなりました。対象は国内だけでなく、中には北に位置する国もあります。先日はドイツを中心とするヨーロッパ、来週はヨルダンのアンマンの支部に向け東京の本部からデモンストレーションで発信です。

「日本の旬の花材も見たいので使ってください」と言われ、その土地であまりみかけず、日本らしい旬のもので喜んでいただけるには何がいいかしら、と考え花屋さんに注文します。

北の国に向けて、例えば芭蕉の葉を使ってはどうでしょうか。

日本の芭蕉の北限はどのへんでしょうか。意外にどこでも見受けられます。私たちがせいせいとした気持ちで見上げるのは今から。葉の巻きがとけ、涼しげで青々しく、手にすれば風が渡ってくるような軽やかさのある、時には二メートルを超す大きな平たい葉。思わず扇いでしまいたくなります。丁寧に扱わないとすぐに則脈にそって横に切れてしまいます。直角に交わっている主脈も柔らかいのでこれも取り扱い注意です。

水が滴るような緑の葉の茎にハサミを入れるとサクッという音とともに切れ、その伝わってくる手ごたえから、これなら水も空気も通す構造と納得をするのです。

空気を通す、といえば私のあこがれは芭蕉布。琉球糸芭蕉から作られます。琉球糸芭蕉は、地下から出ている茎が折り重なって葉のようになっていくのですが、これを偽茎と言い、その繊維で糸が作られます。今では織り手も少なくなり高価なものとなったようですが、暑い東京でまとってみたらどんなに涼しいでしょう。

また美人蕉の愛らしい赤い花をいけるのもこの頃。姫芭蕉といって芭蕉とは近縁です。

近縁でいえば、実芭蕉が私たちの食生活に最も近いかもしれません。改良を重ねられたものがバナナです。八月、パプアニューギニアの祭りで、道端に売っていたバナナの数えきれないほど房の付いたものを、いけばなの花材として使いました。首相夫人も迎えたデモンストレーションでしたが、翌日の地元の新聞に「IKEーBANANA ’いけばなな’」バナナといけばなをかけてユーモアを交えて紹介されていました。現地では甘くなく料理としていただくバナナがよく食卓に上るのだそうです。

最大の歓迎として、地を掘って豚を一頭埋めてバナナの葉をかぶせ、野菜やスパイスなどとともに蒸し焼きにしてくださった地元の方たちのことを、芭蕉の葉を手にすると懐かしく思い出します。

小さいものから大きなものもある幅広い芭蕉の葉。せっかくなので使った後は乾かして再度使います。乾かしすぎて秋、冬を迎える頃には手に取ると、ぱらぱらと形がなくなるほど破れてしまいます。芭蕉はやはり夏のものだと思う瞬間です。(光加)

今月の花(6月)山法師

caffe kigosai 投稿日:2021年5月20日 作成者: koka2021年5月21日

峨眉山ヤマボウシ

新築のビルの角に一本の木を見つけました。

2メートルほどの高さの木の元は、そこだけ土が掘り起こされ湿っていたので新築を機に植えられたばかりなのでしょう。葉が少しついている木の元には、新しい角材の短いものに「峨眉山ヤマボウシ」とありました。どんな花が咲くだろうか、峨眉山という記述にこれは特別なヤマボウシかと興味を持ちました。

生け花でも、先のとがった4枚の白い花びらのようなものをびっしりとつけたヤマボウシをいけることがあります。花びらと見えるものは実は総苞片で、中央にある小さな丸い形のものが頭上花序、小さな花が集まり球体となっている花です。

はじめ薄い緑色の苞はだんだんに真白になります。やや濃い目の緑の卵型の葉もこの白でおおってしまうように平たく咲きます。僧が白い頭巾をかぶったように見えたところから山法師(山帽子)という名が付いたといわれています。ピンクの紅ヤマボウシもあります。

ヤマボウシは、少し前の季節に咲くハナミズキと間違えられることがあります。同じミズキ科ですがアメリカハナミズキはアメリカ原産、ヤマボウシは日本原産と言われています。ヤマボウシが花苞の先端がとがっているように見える一方、ハナミズキは花苞の端の中央が少しくぼんでいるのでそれが各々を見分ける目安のひとつです。

みずみずしく保つには、水の中で枝の元を切り、切ったところを割ったり、表皮をわずかに削って水揚げをよくします。しかし先日使ったヤマボウシは、3本のうち枝の張った大きなものは水あげが効き6日ほどきれいに保てましたが、2本は見る見るうちにしおれてしまいました。水あげのタイミングを見るのがとても難しいようです。

秋には赤い丸い実をつけ、さくらんぼうのように下がります。表面がごつごつしていて食用にもなり山ぐみと呼ぶところもあります。

前述のビルの前を通った一年後、少し伸びたあの木は葉を茂らせ、2~3輪のややこぶりの白い峨眉山ヤマボウシを咲かせました。秋には紅葉もするようなので楽しみにしています。(光加)

今月の花(5月)王冠百合

caffe kigosai 投稿日:2021年4月13日 作成者: koka2021年4月13日

ロンドンの門下から「王冠百合が咲きました」と写真が送られてきました。

王冠百合は瓔珞百合(ようらくゆり)とも呼ばれ、茎を高く伸ばしたその先にたくさんの花をつけます。同じような姿の竹島百合はユリ科の百合属ですが、片や王冠百合は同じユリ科でも百合属ではなく貝母属だと知りました。貝母や黒百合の仲間です。

それにしてはこの百合は茎が1メートルにも伸び、貝母や黒百合に比べると花も大きく瓔珞百合という名前も優雅な響きがあります。瓔珞とはインドの王族が身に着けた珠玉や金銀を編んだ装身具のこと。この花はトルコからインドにかけての高地で育ち、中世の末にヨーロッパに渡り日本には明治時代にもたらされたといいます。

どこかで見た記憶はあるのですがどうにも思い出せず、写真を送ってくださったIさんに問い合わせてみました。彼女は私の属している流派のロンドンの初代支部長で、渡英以来いくつもの園芸学校に通って研鑽を積みました。お宅にお邪魔したときは、この植物にはこの土地の土は合わないので庭の一部を1メートル掘って周囲2メートルの土を入れ替えました、というほどガーデニングに力をいれていました。出身国である日本の植物も市場にたまたまあれば手に入れて育て、私は英国でのデモンストレーションの時、調達できない植物を丹精したこの庭から切らせていただきました。私は最近『A Pssion for Ikebana』という本を出しましたが、その英語名と学名の監修は迷うことなく彼女にお願いしました。

I さんによれば、ヤン・ブリューゲルの絵に多く描かれているという王冠百合は、17~19世紀のダッチ・フレミッシュ時代のフラワーアレンジメントではシンボル的な存在らしかったのですが、今では一般の花屋で見かけることはないとのこと。NAFASの資格習得のコースに在籍していた折、ダッチ・フレミッシュ時代のアレンジを再現する課題にこの花を使いたかったので、何個か球根を買い植えたのが二十年前のことだそうです。

花後のさやも見ごたえがあるなどIさんにいろいろ教えていただきながら、学名がFritillaria imperialis と聞き、かすかに記憶がよみがえりました。そう、私はこの花の名前をフリテイラリアと教わりました。なんでもカタカナにしてしまう今の風潮ですが、王冠百合のほうがずっと印象深いのにと残念でした。英語名は、Crown imperialでまさに王冠を意味するのです。

写真を送ってくださった日の翌日、エリザベス女王の夫君、フィリップ殿下が逝去されました。王配というお立場では王冠を付けることをはなかったでしょう。けれども地上ではこの季節、殿下の旅立ちを王冠百合がお見送りしたことを私はこの花を見るたびに思い出すことでしょう。(光加)

今月の花(4月)アスパラガス

caffe kigosai 投稿日:2021年3月23日 作成者: koka2021年3月23日

「アスパラガスのお浸しを作っておきました。どうぞ!」といわれ、出されたのは薬指くらいの太さのきれいな緑のアスパラガス。家の近くでつんできたということでした。

イタリアの初夏のオルヴィエート、世界遺産で有名なこの町でよく冷えた緑のアスパラガスにふわりと削り節をかけていただくとは予想外でした。

長くイタリアに住み、オルヴィエートでワインとオリーブオイルを作り、日本にも輸出をしているTさんとは実は初対面。日本で姉上からぜひイタリアに行ったら弟を訪ねてください、という言葉に甘え、フィレンツェから1時間ちょっとのこの街にローマ行きの列車に乗ってやってきたのでした。

野生ならではの深い香りがひろがるアスパラガスの若芽はお湯にちょっと通したくらいでも柔らかく、どこかほろ苦く、これが本来のこの野菜の味なのだと思いました。イタリア料理も大好きな私ですが「なんだかほっとしました」というと、Tさんはこの時期、日本からの客人にはこうしてアスパラをふるまうということでした。

アスパラガスは緑のものと白いものとがありますが、実は同じもので白は光を遮断して作られたもの。そのため時には横穴や洞窟などを利用して栽培されることもあります。しっかりした株になるまで2年は待ち、3年目の春に出た新芽を収穫し始めるといわれます。その後10年は収穫可能なのだそうです。

その時私はフィレンツェ郊外の古い修道院を改装したペンションに泊まっていたのですが、庭にふわふわとした緑を付けた1.5メートルくらいの草のようなものがあり、棒を四隅に立ててひもで囲ってあり、名前を聞くとアスパラガスでした。葉のように見えるのはもともとは細かく分岐した茎です。

この旅の初めにまずミュンヘンで最盛期の白アスパラをごちそうになったのですが、食用のアスパラガスはヨーロッパ原産。花材に使用するのは南アフリカ原産と聞きました。

アスパラガスとはアスパラガス属をさす名前で、いけばなの花材にも多く使われます。アスパラガスプルモーサス、天門冬、スプレンゲリ、スマイラックス、ミリオン、アプライト、アスパラガスルツィイなど、アスパラガスの種類は豊富です。

「冷蔵庫で保管するには先を立ててください」という説明書がついたアスパラガスが北海道から送られてくる季節ももうすぐです。(光加)

今月の花(三月) 花桃

caffe kigosai 投稿日:2021年2月19日 作成者: koka2021年2月19日

五節句の一つ、桃の節句に用いられる花桃は園芸種で八重咲です。

華やかでぽってりとしたピンクの花はお雛様を飾り付けた緋毛氈のひな壇によく映えます。生産地では桃の節句をめがけ切り出した後黒いビニールに包み、蕾の膨らみ具合を見ながらバケツの水につけて出荷を待ちます。

何で黒いビニールで?という問いに、花屋さんの2代目の社長は、葉が出るのを極力遅くするため光をあてないように調整すると話してくれました。

日本人の感性には、待ちかねた春の陽をうけていかにも暖かそうなあの桃色やコロンとした蕾のかたちを目立たせるためには、葉が出てしまってはこの花独特の雰囲気がそがれてしまうと感じるのでしょうか。

細い紐でところどころ縛られた花桃の枝の束は、上から下、または下から上に順番に鋏をいれて紐を切っていきます。その時もう一方の手でしっかりと束の先を持ち、枝が跳ねて蕾や花を散らしてしまうのを防ぎます。

稽古でいける際、枝を曲げて使おうとするとぽろぽろとおちてしまうため、桃の節句のお稽古は花桃は使わず持ち帰ります、というベテランの生徒さんもいるほどです。

花桃は紅色や薄紅色の他、白い花桃もあり、大きな八重咲で「寒白(関白)」と呼ばれる江戸時代から知られる種類もあります。花弁の白は清々しく、薔薇やストック、スイートピー、ラナンキュラスのような洋花でも、菊や菜の花などの和花の色にも合い、相手を引き立ててくれます。

またピンクの細い花びらがたくさんついて一輪となる菊の花のような菊桃もあります。源平咲きといわれる桃は、濃いピンクと白、時には白い花びら一枚にピンク色が混じるなど、これらが同じ枝に咲き揃い、しだれ咲きの場合などは美しい合戦をしているように賑やかです。

弥生時代の遺跡から見つかった実桃の種もあり、奈良時代には鑑賞用として花が飾られたという桃ですが、それは近頃のように華やかな園芸種ではないでしょう。桃は中国から渡来と言われていますが、もともと日本に自生していた桃もあったのではという説もあり桃の花に魅せられる日本人は今も変わりません。

花屋さんの社長によると、売られている花のピンクが少し紫色がかってくると陽にあたってしまった証拠で葉が出始め、花が長持ちしないかもしれずご用心ということでした。念のため。(光加)

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • 第二十七回 2025年6月14日(土)13時30分(原則第二土曜日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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