写真の男の子は門下のひとり、小学2年生です。のびのびと黒文字の枝をいけてくれました。(個人情報保護のため顔半分の写真で失礼!)。
この時期は、繊細な線の先にまだ固い茶色の蕾を付けた黒文字をいけることが多くなってきます。同じクスノキ科の青文字も直径3ミリほどの薄緑の実のような蕾をつけます。
青文字は茎も枝も緑色ですが、黒文字は枝に黒い斑のような模様が入っています。それが文字のように見え、この名がつけられたと言われています。
青文字は花を包む薄緑色の皮をつぶすと柑橘系の香り、また黒文字も枝を切って鼻を近づけるとよい香りがして、春の鼓動を感じるのです。
この枝達が花材として出始めると、春の到来をいち早く確かめたくて切ったりつぶしたりして香を楽しみます。和菓子を頂くときの楊枝に使うのはこの芳香も関係しているのかもしれません。
黒文字は爪楊枝にも使われています。いまでこそ歯間ブラシなどがありますが、つい数十年前まで食後はもっぱら爪楊枝が使われていました。前家元の外国出張に、通訳兼秘書として随行した折(先生は東京の専門店のこのサイズの爪楊枝をお使いなので必ず荷物に入れるように)という伝達事項がありました。普通の楊枝より細く強くしなやかだからということで、黒文字で作られたものでした。この店は今でも東京にあり、たくさんあった楊枝専門店も今では全国にここだけということです。
「植物を口の中へ」ということで思い出す、不思議な光景があります。サウジアラビアのリヤドのマーケットで男性数人が口の中に木の細い棒を突っ込み、チツチツと磨くような動作をしていました。(あれが買いたい!)と私と助手は短い棒のようなものが数本輪ゴムで束ねられたものを市場でお土産に買いました。その木の枝は口の中で柔らかくして歯ブラシ代わりに使うと説明を受けました。乾いた薄茶色の木は何の木なのか、という疑問がずっと残りました。でも、自分で口の中にいれる勇気はなくそのままになってしまいました。
「歯木(しぼく)」というものがあり、お釈迦様に深く関係していて柳の枝などが使われているそうです。おつとめの前に口の中も清潔にということなのでしょう。また江戸時代に使われていた房楊枝は、黒文字や柳の小枝の先を煮て叩いて割り、かみ砕いて歯ブラシ代わりにしていたということを考えると、リヤドでみた光景は日本のあの時代の歯磨きと同じなのかと思いました。楊枝という字は確かにやなぎの枝の意味です。そして今でも房楊枝が残っている国があるそうです。
黒文字の話がとんだ話になりました。プラスチック由来の廃棄物が地球を汚すと危惧されている今日、人の生活に密着した植物素材の物はさらに注目を浴びることでしょう。黒文字も口の中を清潔にするのにお役に立とうと、さらなる登場の機会を狙っているかもしれません。(光加)