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今月の花(八月)桔梗

caffe kigosai 投稿日:2026年7月30日 作成者: mitsue2026年7月30日

今月の「花」は、2018年8月のアーカイブをお届けします。どうぞお楽しみください。(店長)

 
桔梗の蕾を手に取ると私はなぜかつぶしてみたくなります。

 秋の木の実の場合だと中に何がはいっているか、種はどんな形か見てみたくなり、指先でつぶすということはあります。それに比べてこれから花開く蕾をつぶしてみたいというのはどう考えても許されるとは思えません。
 
 桔梗の蕾は上から見ると五角形です。横から見ると風船のようで、どこかで見た形だと見つめていると空に浮かぶ熱気球を思い出しました。英語名のひとつは風船をさすballoon flowerです。中心をきちんと閉じた蕾の中は雄蕊や雌蕊のほかは空気しか包んでいません。紫の花がどこか透明感があるのはそのためでしょうか。繊細で上品なこの花の蕾はやがて開くと先端は五つにわかれます。

 山上憶良の詠んだ秋の七草の最後に挙げられる朝顔の花が、実際はどの花かいろいろな説がありますが桔梗という意見が大半です。野にある桔梗に出会える機会は年々少なくなっていますがその代りに園芸品種は早くから作られ、白、薄ピンク、八重咲、また斑入りや丈の短いもの、平らに開くものなど様々です。高さは1mにもなることがあり、葉は細い卵型で、裏はやや白く 花のついている先端の茎は細く花は横を向くか、やや下を向いて咲きます。

 日本の家紋は植物が多く、そのひとつに桔梗紋があります。五角型の花の形は紋のデザインにもってこいなのでしょう、多くの知名人もこの紋を用い、明智光秀はその一人。加藤清正や太田道灌や大村益次郎の家紋は桔梗をもとにしてデザインされています。

 古くは陰陽師として知られる安倍晴明の晴明桔梗紋で、晴明神社にはこの紋が見られます。デザイン化された紋は星の形のようです。五芒星(ペンタグラム)といわれるこの印は魔除けともいわれエチオピアやモロッコの国旗にも似たような形がとりいれられています。これらの国には桔梗はあるのでしょうか。

 平昌オリンピック、フィギュアスケートで連続優勝をなしとげた羽生結弦選手の振り付けは、この陰陽師、安倍晴明をテーマにしていました。そういえばすらりとした姿、長い首、透明感のある羽生選手にどこか桔梗のイメージを重ねるのは私だけでしょうか。(光加)

今月の季語 八月 七夕

caffe kigosai 投稿日:2026年7月13日 作成者: masako2026年7月20日

〈八月〉は季感の取り方が難しい時期であり季語ですが、それ以上に悩ましいのが〈七夕〉です。

これまでは(新暦の)カレンダー通りに、七月七日に雨の七夕を詠むのも一興と考えてきましたが、今年は歳時記に則って文月七日(二〇二六年は八月十九日)に詠んでみようかと思っているところです。八月十九日にもなれば、さすがに梅雨は明けています。空模様はその日次第ですが、雨になったらなったで〈催涙雨〉だと思えばよいのですから。

文月や六日も常の夜には似ず        芭蕉

『おくのほそ道』の旅の途次、明日は七夕という夜に芭蕉が詠んだ句です。このあとにはかの有名な、

荒海や佐渡に横たふ天の河          芭蕉

が続きます。元禄二(一六八九)年の七夕は晴れていたようです。

みちのくの雨に七夕かざりかな      小澤 實

東北地方にはひと月遅れの八月上旬に七夕の行事を行っているところがあります。たとえば今年の「仙台七夕まつり」は八月六~八日の開催。この句もおそらくひと月遅れの、本来の七夕に近い日のできごとでしょう。

人住めぬ町に七夕雨が降る          高野ムツオ

これもまた「みちのく」の句でしょう。放射能により「住めぬ町」となったところへ、住めなくなった人々の涙雨が降り継いでいるのです。

 

私が文月七日にこだわってみようと思ったのは、我が家が完全に老人世帯となったからにほかなりません。小中学生が身近な存在であったころは、どこやらから笹を都合してきては、自宅でも短冊や折紙細工で飾り付けをしていました。成人したのちも「子」と名のつく存在が家うちにいたころには、そうした記憶の尾を捕まえることがたやすかった気がします。

七夕竹切りし飛沫を浴びにけり      能村登四郞

女の子七夕竹をうち担ぎ             高野素十

星合の世のいきいきと筆硯           後藤比奈夫

♪ささのは さ~らさら と歌われますが、笹のみでは季語とはならず〈七夕竹〉とします。江戸時代には〈七夕竹売〉がいたようです。竹のほかに短冊や飾り物など、必要なもの一式を取りそろえていたそうですが、さてどんな節回しで売り歩いたのでしょうか。

梶の葉の文字瑞々と書かれけり      橋本多佳子

芋の葉の露を硯に移して、紙ではなく〈梶の葉〉に書くこともあったとか。今では七夕の設えをしている神社などへ出かけないと見られなくなりました。

そうしたところには〈願(ねがひ)の糸〉が懸けられていることがあります。短冊を吊す糸のことではなく、楸(ひさぎ)の葉に刺した金銀の針七本のそれぞれに通した〈五色の糸〉のことです。

爪立ちて願の糸を高く懸け          下村非文

ともあれ、身を置く環境がかくも変わっていたことに、ある日愕然と気づいた次第。

子を連れて子が来る七夕竹伐らな    大石悦子

次は、健やかにこうなることを願いつつ。(正子)

「カフェきごさいズーム句会」7月句会報告 飛岡光枝選

caffe kigosai 投稿日:2026年7月11日 作成者: mitsue2026年7月11日

第四十回「カフェきごさいズーム句会」(7月11日)の句会報告です(  )は推敲例。この句会はどなたでも参加できます。参加希望の方は右の案内からどうぞ、見学も大歓迎です。

第一句座              
【特選】
へなへなと撓む形代納めけり       葛西美津子
鎌倉はみどり滴る茅の輪かな       葛西美津子

【入選】
シルバーカー行けども行けども夏木立   赤塚さゆり
(シルバーカーひたすらに行く夏木立)
あざやかに寄れば飛び散る熱帯魚     伊藤涼子
(あざやかに寄りては散りて熱帯魚)
子カマキリレモン葉の上照り映える    立花武
(子かまきりレモンの葉の上照り映ゆる)
ひそかなる花の盛りやゆきのした     鈴木勇美
ゴッホ展上野の山の茂りかな       早川光尾
藍壷に藍たつ今宵星祭          藤倉桂
ふくらめる熱き想ひを花ざくろ      花井淳
黒髪のハイビスカスは恋の花       伊藤涼子
あと少しからが本番登山かな       斉藤真知子
できたての豆腐一丁冷奴         斉藤真知子
素麺は父渾身のおもてなし        赤塚さゆり
太陽に負けじと咲くやハイビスカス    藤井和子
(太陽に負けじと開くハイビスカス)
水たらす鬼灯市の鉢抱へ         斉藤真知子
(水しとど鬼灯市の鉢抱へ)
早苗田を揺らす蛙の歌う声        藤井和子
(早苗田を揺らし蛙の声ひびく)
鮎釣りて青蘆そよぐ帰り道        立花武
(鮎釣りて青草そよぐ帰り道)
手の平に夫のトマトや地球めく      飛岡佐恵子
どこまでも水ひろびろと平泳ぎ      高橋真樹子
(平泳ぎどこまでも水ひろびろと)

扇開くたびに母の香あふぎけり  光枝

第二句座(席題・水中花、草笛)
【特選】        
水中花娘の心揺れ帰宅せり        飛岡佐恵子
(水中花娘の心揺れ通し)
けふもまた変はらぬあはれ水中花     葛西美津子

【入選】
藻の花にちさき金魚隠れおり       立花武
(藻の花に小さき魚隠れをり)
四六時中目にさらさるや水中花      藤倉桂
(四六時中目にさらされて水中花)
水中花恋に終はりのあるやうに      葛西美津子
(水中花恋に終はりのあるものを)
草笛の予期せぬ音に驚きぬ        藤倉桂
水中花この家のことみな知りて      斉藤真知子
草笛や遠くゆうゆうトンビ舞う      立花武
(草笛や遠くいういうトンビ舞ふ)
人間の嘘聞いてゐる水中花        斉藤真知子

東京の水を纏ひて水中花   光枝
  

今月の花(七月) 竹

caffe kigosai 投稿日:2026年6月25日 作成者: mitsue2026年6月25日

竹は東洋では生活用具や、食用、建築など、生活の中で使われています。筍として生え、成長した幹を多く利用します。一方で根を張り巡らすのが早く、放置されている空き家などでは、畳を突き破り家の中にまで竹が生えてくることもあるそうです。

そんな竹の処理を頼まれる千葉にあるNPO法人にお邪魔しました。ここではその竹を使いコンポスト作りや竹炭を焼いたり、竹灯籠の作り方や子供たちに竹トンボの作り方を教える活動をしています。

私が帯広で竹を使った作品を作る時、北海道では真竹や孟宗竹は育たず入手不可能のため、ここから竹を何度も送っていただきました。

今回、東京での展覧会では何を使おうかと思っていた時、ふと、竹箒で地をはくとき手に返ってくる感蝕、先の細い枝が集まったところが出す音を懐かしく思い出しました。私の暮らす集合住宅などでは今や使うことのない竹箒の竹の枝先を集めて作品作りができないかと考えました。

NPO法人の理事長のKさんとはメールや電話で連絡は取っていましたが、お目にかかるのは今回が初めて。駅にお迎えに来ていただき、20分かけて廃校になった幼稚園を使っている作業所兼事務所にお連れくださいました。

切っておいていただいた7メートルの竹からサンプルを切り、作品のデッサンをお目にかけ、同じようなものを数本、切って送っていただくようにお願いしました。

後日送られてきた段ボールの中の丸く巻かれた竹の枝は、ほとんど葉がとられていました。「丸く巻いて送るしかなかった」と言うKさんに、「作品の大きさに規定がありすぐ丸めないと形が付かないので手間が省け大変助かった」と申し上げました。早速いい具合に美しい曲線が付いた枝を選び、切って重ねて束ねて円を作っていきました。

数日後、まだ残っていた葉が乾いて落ち、中から薄緑の小さな葉が次々と顔をのぞかせたのには驚きました。生きている!可哀そうとは思いましたが、全部取り除きました。伐って一週間以上も経つのに7メートルの枝先に潜んでいた小さな薄緑の葉、その生命力に感動しました。

写真は私の作品です。花屋さんに指定して取り寄せた葉先が美しい夏ハゼ、赤い花は蘭の一種のレナンセラ。擬宝珠の葉と一緒にステンレスの自作花器にその竹をいけました。

ホトトギスの鳴き声に耳をそばだて、竹林を吹き渡るきれいな空気を胸いっぱい吸いながらの竹箒作り。初夏の同じ頃またあの竹林に行きたくなりました。(光加)

加賀の一盞(7月)能登牛

caffe kigosai 投稿日:2026年6月20日 作成者: mitsue2026年6月20日

自宅から歩いて2分くらいのところに石川県で有名な能登牛を食べさせるステーキレストランがある。食事に利用しまた町内の催し物などでも使うところ。独自の牧場を持つ直営店なのでいつも美味しく頂いている。今回はその能登牛についてご紹介したい。

全国的には馴染みが少ないと思うが、能登牛は肉脂肪中のオイレン酸含有量が高く、とろけるような柔らかさで定評がある。年間1000頭ほどの出荷と少なく幻のブランド和牛と称されている。一つには海が近いので牧草に塩分が入り、それを飼料にすることで肉に旨味が増すとも評価される。

それでは賞味することに、この季節何といっても醍醐味はバーベキュー、大胆にガッツリ能登牛を頂く。用意したのは深いサシが入ったロースと厚みたっぷりのヒレ、炭火の加減もよく網に乗せるとすぐに脂身が解け出し煙が上がる。

場所を変えて火の当たり具合を調節、数分で返し更に数分で出来上がり。内部は程よい温まりのレア、外はこんがりと焼き目がつきジューシーさを閉じ込めている。ロースは歯応えとサシのバランスが最高、ヒレは柔らかさと旨味が舌に絡みつく。至福の時とは正にこの事と実感する。

さらに冬の料理と言えばすき焼、これぞ能登牛が最も本領を発揮する料理。深いサシが鍋に入れる前から感じ取れる。柔らかい肩ロース肉のスライスはご存じ金沢の旨味ある大野醤油と石川の地酒と共に鍋へ、その香りだけでもお酒二合くらいいけそう。言葉では表現できないほどの味、ご想像頂きたい。

金沢は海の幸への関心に偏りがちだが、能登牛はそれを覆すほどのおいしさ。リピーターの方にはおすすめ。もちろんステーキや焼肉、すき焼にも石川の地酒は能登牛の美味しさをしっかり受け止めて相性抜群であること付け加えたい。

バーベキューの燻は能登の狼煙なり 淳

今月の季語 七月 夏の風

caffe kigosai 投稿日:2026年6月17日 作成者: masako2026年6月18日

〈風光る〉は三春の、〈風薫る〉は三夏の季語として歳時記に載っています。風に光より香りを感じるようになるのはいつかと考えると、それはきっと初夏でしょう。〈風薫る〉は五月に使うと最も鮮度が高くなりそうです。

ではそのあとの長い夏の間は、どのような風が吹くのでしょう。今月は〈夏の風〉についてみていきましょう。

夏の風は、南もしくは南東から吹くことが多いです。〈南風〉はそのまま「なんぷう」「みなみかぜ」と読んで夏の季語ですが、「みなみ」「はえ」という読み方もあります。強く吹くときには「大」を付けて〈大南風〉(おほみなみ)といいます。

南国に死して御恩のみなみかぜ             摂津幸彦

黒潮の行き渡る南風強ければ        伊藤通明

各地に固有の風の名前もあります。〈まじ〉〈くだり〉〈ひかた〉〈あいの風〉〈だし〉〈やませ〉など。実感を伴うことがあったときに使ってみましょう。

能登人があい吹くといふ日和かな    村山古郷

やませ来るいたちのやうにしなやかに       佐藤鬼房

色で呼び分けることもあります。梅雨を呼ぶ風を〈黒南風(くろはえ/くろばえ)〉、梅雨明けの風を〈白南風(しろはえ/しろばえ/しらはえ)〉といいます。

黒南風の辻いづくにも魚匂ひ        能村登四郎〈仲夏〉

白南風やマストにかはるがはる鳥    土肥あき子〈晩夏〉

色といえば〈青嵐〉もはずせません。三夏の季語ですが、若葉より青葉と呼びたくなるころの強風と捉えて使うと、〈風薫る〉同様、鮮度が高くなりそうです。

紀の川を吹きてくもらす青嵐        右城暮石

植物の名前が付いて明らかに期間限定の風もあります。

茅花の穂綿がほころびるころの風を〈茅花流し〉、筍の旬の風を〈筍流し〉、麦秋のころの風を〈麦嵐〉〈麦の秋風〉といいます。

遅れゆくひとりに茅花ながしかな    片山由美子〈初夏〉

月山の裾の筍流しかな               水内慶太〈初夏〉

鶏の群麦の秋風に吹かれゐる        松瀬青々〈初夏〉

白い穂綿を吹きなびかせる風と、金色に熟れた麦畑を吹き渡る風―これらも色のある風といえましょう。

「熱さ」で表す風もあります。

熱風の黒衣がつつむ修道女          中島斌雄

どこからか吹いてくる風を「涼し」と感じて、ほっとすることもあります。いずれも晩夏の季語です。

涼風の曲りくねつて来たりけり      一茶

涼風の一塊として男来る            飯田龍太

断然〈涼風(すずかぜ/りやうふう)〉の用例が多いです。

風がぴたっと止む現象を指す季語もあります。

合はせ酢をつくる厨に風死せり             岡本差知子

朝凪といへども浪は寄せてをり             平井照敏

夕凪を詫び遠来の客迎ふ                   鷹羽修行

どれも暑そう。さてこの夏はどの風を詠みますか?(正子)

「カフェきごさいズーム句会」六月句会報告 飛岡光枝選

caffe kigosai 投稿日:2026年6月14日 作成者: mitsue2026年6月14日

第三十九回 (2026年6月13日)の句会報告です。(  )は添削例。この句会はどなたでも参加可能です。右の案内からどうぞ。見学も大歓迎です。

第一句座              
【特選】
父逝きて誰に託さん竹婦人       矢野京子
(父逝きてもてあましたり竹婦人)
細く長く河鹿の笛の清らけき      藤井和子
まなじりの紅煌かせ祭の子       赤塚さゆり
(祭の子まなじりの紅煌かせ)

【入選】
吹く風に抗ひもせず姫女苑       藤井和子
(姫女苑あさまの風に抗はず)
播磨風まじへ夏の句座に入る      飛岡佐恵子
(播磨の風まとひて夏の句座に入る)
祭笛さても昭和のなつかしき      矢野京子
田植え終え青き夕べに息をつく     飛岡佐恵子
(田植ゑ終へ青き夕べの只中に)
梅雨の傘たたみて仰ぐ大仏       葛西美津子
川風に揺れ通しなる夏のれん      斉藤真知子
黒揚羽どこにも触れず触れられず    高橋真樹子
ひなげしや吾子嫁ぎ行く三百里     藤倉桂
(ひなげしや吾子嫁ぎ行く三千里)
封に蓋らっきょうの香の厨中      田原眞知 
刈草の匂ひを踏んでゆく夕べ      飛岡佐恵子
ヨガポーズおんなの素足うつくしく   矢野京子
早苗饗や出して自慢の一夜干し     飛岡佐恵子
(早苗饗や婆が自慢の一夜干し)
雪解け富士黒さいや増す日暮れ時    藤井和子
(雪解けて黒さいや増す富士の山)

桑の実に口を汚して山賊めく  光枝

第二句座(席題・燕子花、百足)
【特選】        
花無くて葉の切先よ杜若        田原眞知
美しき花あるところ百足をる      矢野京子

【入選】
禅僧のしばらく眺め燕子花       斉藤真知子
(禅僧のしばらく眺め大百足)
百本の足もてあます百足かな      斉藤真知子
(一本の足もてあます百足かな)
かきつばた昨夜の雨つぶ花に葉に    葛西美津子
百足虫頭の中を逃げ惑ふ        高橋真樹子
(百足虫頭のなかを這ひ回る)
杜若棚田の里の雨静か         飛岡佐恵子

沖縄の洞にうごめく赤百足  光枝
  

浪速の味 江戸の味(六月) 笹巻けぬきすし【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2026年6月7日 作成者: mitsue2026年6月7日

江戸時代、江戸前の魚介をつかい庶民の間で人気を博した江戸前寿司。特に名物と謳われたのが「毛抜鮓」「与兵衛寿司」「松が鮨」の江戸三鮓です。

その中でも歴史が古い「毛抜鮓」は、赤穂浪士の討ち入りと同年の元禄十五年(1702年)の創業で、押し鮨を笹の葉で巻いた笹巻鮓が名物です。飯を強めの酢で締め、寿司だねの魚は先ず塩漬けし、それを酢で二度締めるというたいへん手のかかる高級品でした。そのたねを酢飯に乗せ殺菌作用のある笹で圧して巻き、保存性をより高めました。

当時の絵草紙には「御殿勤めの面々が宿下りの折りに家づとして笹巻毛抜鮓を持ち帰る」とあったとのことです。

「毛抜鮓」の屋号の由来は、「色気抜きで食欲をそそるから」「物をくわえてつかむ毛抜きのように人々がよく食うから」など諸説あるようですが、「魚の骨を毛抜きで丁寧に抜いていたから」との説が一般的です。

この店は現在でも「笹巻けぬきすし総本店」として、神田小川町で営業を続けています。冷蔵庫の普及や嗜好の変化で、今では塩も酢も控えめになっていますが、醤油なしでいただける味加減が絶妙です。

今やオフィスビルが建ち並ぶこの界隈ですが、神田囃子が聞こえてくる夏祭りの季節には、ひょいと暖簾をくぐり笹巻鮓の折詰を家づとにとしゃれてみたいものです。

笹の葉のあをく涼しく毛抜鮓  光枝

今月の花(六月) 夏椿

caffe kigosai 投稿日:2026年6月5日 作成者: mitsue2026年6月5日

*今月の「六月の花」は、2014年にアラカルトで掲載した「夏椿」をお届けします。今はまだ蕾のところが多いかと思います。これからの開花を待ちつつ、どうぞお楽しみください(店長)

祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者ひつすいの理(ことはり)をあらはす

平家物語は沙羅双樹の花ではじまります。夏椿という名のほうがおなじみの方も多いことでしょう。ただ、お釈迦様の亡くなられるときに生えていたという、「サラノキ」という植物とは今、私たちの言う沙羅双樹とは異なるといわれています。

葉の元からでている花柄の先に、初夏から本格的な夏にかけて、真ん丸の蕾をつける夏椿。蕾の表面が微かな光を発しているように見えるのは、花弁の外側にごく細く短い毛があるからです。小ぶりの花の五枚の花びらの縁にはわずかにぎざぎざが入り、この季節の花だけがもっているひやりとした触感を感じさせる上品な白です。

光沢のある椿の葉と見比べれば、夏椿の葉は緑色も優しげで、裏返せば葉脈もはっきりしています。葉は先に細い楕円形で、薄いせいか全体に軽やかな印象をあたえます。椿と夏椿はきものでいえば、袷と単衣の違いと言っていいでしょうか。

木の表皮がはがれ、その下から現われるすべすべとした美しい木肌は、庭木や床柱として使われる(ひめしゃら)を思いだします。(夏椿)(ひめしゃら)そして(ひこさんひめしゃら)は、つばき科のなかでも同じ「なつつばき属」に属します。

夏椿の花は一日花で、雄蕊の集合した中心部は茶色になっていき、花びらも生気を失い、やがて花ごと落ちていくのです。しおれて落ちているこの花の周りに漂うはかなさには胸がいたみます。

「浮世の果ては皆小町なり」(芭蕉)

これは凡兆の「さまざまに品かはりたる恋をして」に芭蕉がつけた句です。絶世の美女と言われた小野小町も末は無残にも老いてしまう。誰も例外でありません。夏椿もせめて私たちが気付かない間に、ひそかにたくさんの恋をしてほしいと願うのです。(光加)

今月の季語 六月 蛍

caffe kigosai 投稿日:2026年5月17日 作成者: masako2026年5月19日

今年の梅雨はどうなるだろうと前線の北上が気になるころとなりました。梅雨といえば昔はしとしとと降り続くイメージでしたが、近年は台風並みです。実際に同時に台風が到来することもあります。溢れ、押し流し、被害も甚大です。

六月の夜の楽しみといえば、蛍狩もそのひとつ。天候がこれほど変わってきているのに、蛍だけは昔のままということはあり得ません。原因は温暖化にあると聞けば、ささやかなことであってもできる努力は何でもします、と祈る心持ちにもなります。

草の葉を落つるより飛ぶ蛍かな      芭蕉

暗闇の筧をつたふ蛍かな            許六(きょりく)

川ばかり闇は流れて蛍かな          千代女

うつす手に光る蛍や指のまた        太祇

追はれては月にかくるるほたるかな  蓼太(りょうた)

江戸期の俳人たちは例えばこのように詠んでいます。現代とは異なる当時の闇を飛ぶ蛍を想像してみましょう。

芭蕉の蛍は「落つる」と言っていますが、転げ落ちたわけではないでしょう。草の葉に留まっていた光の粒が、発つとき一瞬沈むような弧を描いたのではないでしょうか。

許六は芭蕉の弟子です(蕉門十哲の一人。〈十団子も小粒になりぬ秋の風〉を「しほり」があると芭蕉に高く評価された)。筧がそこにあることを知っていたかもしれませんが、真っ暗闇となった今は、その音(と記憶)が頼りです。蛍の動きが即ち水の流れだという、闇の中ながら視覚による気づきによって成った句でしょう。

千代女は加賀の人。今でも夜の川は暗闇を押し流しているように感じます。電灯というものが一切無かった当時の川を想像しましょう。

太祇は芭蕉の没後の生まれ。蕪村より少し年長です。手から手へ蛍を移したのでしょうか。蛍の明滅が指の股を照らし出します。手のひらというごく近くで見つめる蛍です。

蓼太は蕪村とほぼ同齢です。蛍の飛翔が月に重なったことにより、位置が捉えられなくなったことを「かくるる」と表現しました。蛍は月の明るい夜はあまり飛ばないそうです。自分の輝きのアピール力が弱まるから。なるほど、ですね。

寝(いね)し家を喜びとべる蛍かな  高浜虚子

霧吹いて数の増えたる蛍かな        阿部みどり女

蛍獲て少年の指みどりなり          山口誓子

近現代の俳人たちも、江戸の人々と同じように詠み上げている例もあれば、

人殺す我かも知らず飛ぶ蛍          前田普羅

ゆるやかに着てひとと逢ふ蛍の夜    桂 信子

蛍の夜老い放題に老いんとす        飯島晴子

自我を反映させて詠む例もあります。

おおかみに蛍が一つ付いていた      金子兜太

姿見にはいつてゆきし蛍かな        眞鍋呉夫

戦場体験を負いながら生きた作家です。言葉の表向きの意味のみを辿っていては、真意を汲み取れない気がします。〈もの思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る 和泉式部〉。平安時代の和泉式部と心の底にある思いは違いますが、蛍を魂になぞらえて詠む日本古来の伝統を、ある意味では踏まえていると言えるかもしれません。

昔の人と通い合う蛍、時代が詠ませる新しい蛍、詠むことを逃れられない蛍、…さてあなたは今年、どんな蛍を詠みますか?(正子)

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • 第四十一回 2026年8月8月(土)13時30分
    (原則第二土曜日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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