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今月の季語(9月) 台風

caffe kigosai 投稿日:2022年8月11日 作成者: masako2022年8月16日

梅雨のころから台風が到来する昨今です。しかも来れば必ずといってよいほど列島を縦断し、隙をつくように新たな被害をもたらします。まるで人間の浅智恵を嘲笑うように。

台風を充ちくるものゝ如く待つ        右城暮石

先んじて風はらむ草颱風圏             遠藤若狭男

颱風の白浪近く箸をとる              山口波津女

暮石は接近中の台風の威圧感を全身全霊で受け止めているようです。逃げようもなく、また挑みようもないものを「待つ」と表現し、刻々と濃くなる存在感を表しています。どこか期待感に通じる感覚かもしれません。

台風には風台風も雨台風もありますが、いずれの場合も先払いのように吹いてくる強い風があります。若狭男は颱風の圏内に入ったことを草の姿態で感じ取っています。どちらの句も怖がっているわけではありませんが、台風を強く意識しています。

対して波津女(山口誓子の妻)は台風が来てしまう前に食事を済ませておこうとしています。人の営みが滞らないように、さまざまな準備を整えてもいることでしょう。台風より日々の暮らしのほうに意識が向いています。さ、あなたも、と誓子も妻に促されて食事をとったかもしれません。

台風はtyphoonの音に漢字を当てていることからも明らかなように、比較的新しい季語です。対して〈野分〉は王朝和歌にも登場している歴史を感じさせる季語です。文字通り野を分けて吹く秋の暴風のことですが、風台風のことだと捉えても間違いではないでしょう。

鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな        蕪村

野分中つかみて墓を洗ひをり          石田波郷

吹かれ来し野分の蜂にさゝれけり      星野立子

何か事件があったのでしょうか。画家でもあった蕪村は、緊迫感を視覚的に描いています。

波郷が洗っているのは親しい人の墓石でしょうか。つかんで洗うという荒々しい振る舞いが二人の親密度を表しているようです。野分を突いてその日に来なければならない理由があったに違いありません。

立子の句は、蜂にさされたといいつつどこかユーモラスです。蜂も当惑して八つ当たりするしかなかったのかもしれません。

おとろへし親におどろく野分かな      原 裕

野分来ることに少年浮き浮きと        岩田由美

かつては私も、台風接近中の父母の行動に大人への憧れのような感情を抱いたものでした。おそらく裕もそうだったのでしょう。時を経て、密かに着々と進行していた親の「おとろへ」に気づいてしまったのです。

かつての少女も、周囲のいつもとは異なる慌ただしい雰囲気に、客人を待つような昂りを覚えたものです。少年と感じ方が異なっていたかどうかは、少女でしかなかった私には本当のところは分かりませんが、句としては、いずれ「波津女」の立場となる少女より少年のほうが「浮き浮き」の純度が上がる気もします。もっとも今後のジェンダー差については与り知りませんが。

長靴に腰埋め野分の老教師             能村登四郎

脚をすっぽり覆うほどの長さかもしれません。職業によっても野分感が異なりそうです。

家中の水鮮しき野分あと        正木ゆう子

「野分あと」は台風一過のこと。「家中の水」の捉え方に鮮度があります。

台風も野分も天文の季語ですが、時候の章にも類する季語があります。

島畑のかんかん照りや厄日前          岸田稚魚

田を責める二百十日の雨の束          福田甲子雄

〈二百十日〉は立春から数えて二一〇日目、今のカレンダーでは九月一日ころを指します。早稲の花が咲くころにあたり、農家は大風大雨を恐れました。〈厄日〉ともいいます。できる対策はすべて施し、あとは祈るだけという気持ちがひしひしと伝わってきます。(正子)

カフェきごさい「ネット句会」(8月)互選+飛岡光枝選

caffe kigosai 投稿日:2022年8月6日 作成者: mitsue2022年8月7日

【連中】涼子 桂 すみえ 良子 都 隆子 酔眼 光尾 雅子 利通 裕子 光枝
 
≪互選≫
都選
噴水に疲れみえたり午後三時 すみえ
緑の葉付けて供さる新生姜 雅子
背泳のそのまま星の裏側へ 隆子

良子選
一時の華やぎとなれサングラス 桂
噴水に疲れみえたり午後三時 すみえ
山ひとつ氷室蔵して静かなり 光枝

すみえ選
山ひとつ氷室蔵して静かなり 光枝
炎天の橋を渡れば秋かすか 裕子
ブーゲンビリア藍深々と島の海 雅子

雅子選
燕の子初めての天怖るるな 桂
仲見世のあかりの中へ初浴衣 すみえ
ブーゲンビリア影まき散らし風の中 隆子

裕子選
仲見世のあかりの中へ初浴衣 すみえ
惜しみなく体重預けヨット行く 都
山ひとつ氷室蔵して静かなり 光枝

光尾選
戦争のニュースに慣れて蚊遣かな 光枝
告げぬ恋ただザクザクとかき氷 桂
花かぼちゃ噂話をしつつ行く 良子

涼子選
仲見世のあかりの中へ初浴衣 すみえ
山ひとつ氷室蔵して静かなり 光枝
背泳のそのまま星の裏側へ 隆子

利通選
山ひとつ氷室蔵して静かなり 光枝
朝顔や笛工房は路地の奥 良子
炎天の橋を渡れば秋かすか 裕子

桂選
山ひとつ氷室蔵して静かなり 光枝
背泳のそのまま星の裏側へ 隆子
炎天の橋を渡れば秋かすか 裕子

隆子選
仲見世のあかりの中へ初浴衣 すみえ
灼熱化山椒魚も動き出す 光尾
炎天の橋を渡れば秋かすか 裕子

酔眼選
告げぬ恋ただサクサクとかき氷 桂
撫肩の咳ひつそりと水中花 利通
ブーゲンビリア藍深々と島の海 雅子

≪飛岡光枝選≫
【特選】
惜しみなく体預けてヨット行く 都

自分の体ひとつで操縦するヨット。句はその様子をしっかり描き、波を蹴って疾走するヨットが目に浮かびます。「惜しみなく」にヨットと一体化するという思いが伝わります。原句の「惜しみなく体重預けヨット行く」は体重をかけて操るという、より側物的な句となります。

花かぼちや噂話の長々と 良子

軽い噂話の楽しさ。季語「花かぼちや」が上手い。原句「花かぼちや噂話をしつつ行く」でも様子はわかりますが、散文的でパンチに欠けるでしょうか。

【入選】
朝顔や笛工房は路地の奥 良子

「笛工房」とあると、その涼し気な音色が思われます。

大花火日本の空にナイアガラ 涼子

中七下五の思い切りが一句を大きくしました。原句の上五「花火の夜」は、説明になってしまったのが残念。

告げぬ恋ただサクサクとかき氷 桂

「ただ」が全体の説明になってしまったのが惜しい。消す工夫をしてみましょう。「告げぬ恋匙サクサクとかき氷」などなど。

噴水に疲れみえけり午後三時 すみえ

午後三時が絶妙。噴水は同じように上がっているのに。原句は「噴水に疲れみえたり午後三時」。

灼熱化山椒魚の動き出す 光尾

温暖化どころではなく、灼熱化でさすがの山椒魚も動く。原句は「灼熱化山椒魚も動き出す」。

背泳やそのまま地球の裏側へ 隆子

海での背泳ぎでしょうか。まるで海を背負って泳いでいるような、季語を大きく捉えた夏らしい一句。原句は「背泳のそのまま星の裏側へ」。

怖いなあ夏は稲川淳二かな 酔眼

何十年もテレビで見ない夏はありませんでした。原句は「怖いなあ……季語は……稲川淳二かな」。

撫肩の咳ひつそりと水中花 利通

水中花をそっと見ている様子がよく描かれています。

雲の子はあれよあれよと雲の峰 すみえ

ぐんぐん育つ夏雲。「雲の子のあれよあれよと雲の峰」もある。

ブーゲンビリア藍深々と島の海 雅子

よく描かれていますが、少々単純でしょうか。今一歩深く。

起し絵やがたんごとんと都電ゆく 裕子

起し絵の中の懐かしい風景。原句は「都電の通りし街は起こし絵の中」ですが、言葉が多くごちゃついてしまいました。

☆次回の「ネット句会」は10月です。みなさまどうぞお元気で、ますますのご健吟を!光枝

ネット句会(8月)投句一覧

caffe kigosai 投稿日:2022年8月2日 作成者: mitsue2022年8月2日

8月の「ネット句会」の投句一覧です。
参加者は(投句一覧)から3句を選び、このサイトの横にある「ネット句会」欄(「カフェネット投句」欄ではなく、その下にある「ネット句会」欄へお願いします)に番号と俳句を記入して送信してください。
(「ネット句会」欄にも同じ投句一覧があります。それをコピーして欄に張り付けると確実です)

選句締め切りは8月4日(木)です。後日、互選と店長(飛岡光枝)の選をサイトにアップします。(店長)

(投句一覧)
1 朝顔や笛工房は路地の奥
2 燕の子初めての天怖るるな
3 仲見世のあかりの中へ初浴衣
4 この星の巨大クレーター原爆忌
5 早起きの朝顔に空晴れわたり
6 天使魚永遠に夜をひるがへる
7 戦争のニュースに慣れて蚊遣かな
8 一時の華やぎとなれサングラス
9 納涼バスお台場の海突き抜けて
10 惜しみなく体重預けヨット行く
11 花火の夜日本の空にナイアガラ
12 告げぬ恋ただサクサクとかき氷
13 噴水に疲れみえたり午後三時
14 緑の葉付けて供さる新生姜
15 大南風洗濯もののフラメンコ
16 木漏れ日にけんけん遊び汗の子ら
17 進んではすこし流され水馬
18 灼熱化山椒魚も動き出す
19 山ひとつ氷室蔵して静かなり
20 風死すか台北街のアーケード
21 背泳のそのまま星の裏側へ
22 炎天の橋を渡れば秋かすか
23 片蔭やアイコンタクト道譲る
24 海山がきそうて誇る日焼の子
25 ブーゲンビリア影まき散らし風の中
26 男水たたら踏みして滝轟轟
27 怖いなあ……季語は……稲川淳二かな
28 ブーゲンビリア咲ひて南国日和かな
29 花かぼちや噂話をしつつ行く
30 撫肩の咳ひつそりと水中花
31 青幻の母芭蕉布の紡ぎ唄
32 雲の子はあれよあれよと雲の峰
33 マルエフと頼むランチョン生ビール
34 水草の陰を伸び伸びイモリかな
35 ブーゲンビリア藍深々と島の海
36 都電の通りし街は起こし絵の中

「カフェきごさい」ネット句会(8月)のお知らせ

caffe kigosai 投稿日:2022年7月29日 作成者: mitsue2022年7月30日

三年ぶりに開かれた「祇園祭句会」で京都を訪れました。極力人混みを避けるため、遠くから祇園囃子を聞いていましたが、祭りの街の熱気が伝わる熱い(暑い)京都でした。

「カフェきごさい」ネット句会8月の締切は8月1日(月)です。どなたでも参加可能です。サイトの「ネット句会」欄から3句ご投句ください。

・このサイトの右側に出ている「ネット句会」欄より、3句を投句ください。

・8月2日中にサイトへ投句一覧をアップしますので、8月4日までに参加者は3句を選び、投句と同じ方法で選句をお送りください。

・後日、参加者の互選と店長・飛岡光枝の選をこのサイトへアップいたします。

夏の「ネット句会」、みなさまの力作をお待ちしています。(店長)

朝日カルチャーセンター「カフェきごさい句会」六月

caffe kigosai 投稿日:2022年7月28日 作成者: mitsue2022年7月28日

新宿朝日カルチャーセンター「カフェきごさい」句会。今月の兼題はサイトより六月の季語「梅の実」、花「芍薬」、江戸の味「飛魚のくさや」です。

【特選】
飛び魚や海も空もおのがもの  和子

胸をはって大空を飛ぶ飛魚の心意気(!)を感じさせる爽快な一句。中七(六)の字足らずが勢いに欠けるので工夫したいところ。「大海も空も我がもの飛魚かな」など。

【入選】
定年の男手帳に梅仕事  勇美

梅干しや梅酒を作る作業全般をさす「梅仕事」という言葉は、ここ数年テレビなどでもよく耳にするようになりました。歳時記にはまだ載っていないと思いますが、もう載ってもいいかもしれません。そのためには歳時記に載るような名句が必要(!?)。句は定年を迎えた男性を少しからかっています。現役時代の癖でまだまだ手帳が手放せない様子。手帳に呼応する「仕事」が活きています。

縦走の足に優しきチングルマ  和子

長い尾根歩きで疲れた足とチングルマを詠んでいます。中七は少々無理があり伝わりにくいのではないでしょうか。しっかり伝わる表現を工夫したいところ。「縦走の靴の重たしチングルマ」など。

しなやかにゴーヤ伸びゆく校舎かな  勇美

「校舎かな」とした俳句の形は立派ですが、「しなやかに」がこの句の場合は弱い。色々置けますので、中七下五がより活きる言葉を探してみてください。

来し方のやがて煌めくなめくぢり  勇美

「やがて」が句を間延びさせてしまっているのが惜しいですが、「煌めく」は思いきりました。阿波野青畝に「来しかたを斯くもてらてらなめくぢら」があります。

東京に生まれ育ちて飛魚とぶ  光枝

 

カフェきごさい「ネット投句」7月 飛岡光枝選

caffe kigosai 投稿日:2022年7月24日 作成者: mitsue2022年7月24日

【入選】
異界へと誘ふ宵闇さるをがせ  和子

針葉樹林に垂れ下がる様子が独特のさるおがせ。風にゆれる様を眺めていると、いつの間にか何処かへ連れ去られそうです。原句は「異界へと誘う宵闇サルオガセ」。

荒梅雨や道に川あり谷のあり  和子

原句は「梅雨荒れぬ道に川あり谷もあり」ですが、散文的で言葉が流れてしまっているのが残念。言葉をよりしっかりと印象的に置いてみましょう。

浪速の味 江戸の味(八月)谷中生姜【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2022年7月21日 作成者: mitsue2022年7月22日

東南アジア原産といわれる生姜は、その栽培、収穫方法から根生姜、葉生姜、矢生姜に分類されます。通年出回るのは秋に収穫する根生姜で、辛味が強く薬味に適しており、根生姜を初夏に収穫する新生姜は、筋が少なく生食に適しています。

葉生姜は、根茎が小指程度の大きさの時に葉を付けて収穫されます。味噌をつけて生食したり、料理の付け合わせ、甘酢漬けなどにして楽しみます。

葉生姜の一種「谷中生姜」は、江戸時代から谷中本村(現在の東京都荒川区西日暮里付近)で栽培されていました。かの地で栽培が盛んになったのは、水に恵まれ、排水も良く、西日に当たらないという、葉生姜の栽培に適した土地だったからと言われています。関東ローム層の黒土も生姜栽培に適していたようです。

谷中本村で栽培された葉生姜は筋がなく香りも良いので、お盆の贈答品としても使われました。ちなみに江戸っ子は「谷中生姜」を「盆生姜」と呼び、夏の食欲増進によく食べたそうです。

東京都港区の芝大神宮の秋祭りには、境内で「谷中生姜」が売られ、そこの「生姜市」は秋の季語になっています。江戸時代には、二町四方に盛られた生姜の山が三日のうちに売り尽くされたほど賑わったそうです。

谷中での生姜栽培は、都市化が進んだ昭和には各地へ移り、現在都内で売られている「谷中生姜」は千葉県産が多いようです。

居酒屋などで品書きに「やなか」とあれば、「谷中生姜」に味噌などが添えられた一品。青々とした葉を従え、うっすら紅をさした「やなか」をつまみに、暑気払いといきましょうか。

谷中生姜青々と葉のはみ出せる 光枝

今月の季語(八月) 秋果

caffe kigosai 投稿日:2022年7月20日 作成者: masako2022年7月21日

立秋を過ぎると暑さを〈残暑〉と呼び、いつまでも続く暑さを〈残暑見舞〉で労りあいます。夏の暑さより、秋の残暑がしんどいのは、疲労が累積してくるからでしょう。

ですが夏のまっとう暑さがそのあとに出回る果実を甘くみずみずしく育て、残暑に喘ぐ喉を潤してくれます。秋の果実をおいしくいただくことも、自然の巡りに身を委ねることなのかもしれません。

秋果盛る灯にさだまりて遺影はや                       飯田龍太

〈秋果〉は秋の果実類の総称です。実際には個々の名前を季語として詠むことが圧倒的に多いです。具体的に見ていきましょう。

まず夏ではなく秋の季語だと知って驚く代表として〈西瓜〉。果物か野菜か問題は脇へ置くことにしましょう。

風呂敷のうすくて西瓜まんまるし           右城暮石

泣いてをり肘に西瓜の種をつけ               中嶋鬼谷

風呂敷に包んだ西瓜は手土産でしょうか。切り分けていない西瓜を見ることのほうが少なくなった昨今です。後句は誰にも覚えがあるでしょう。結局泣くのだから喧嘩しなければいいのに、と思うのは大人になってしまったからですね。

〈桃〉も「え、秋?」といわれる確率が高いです。種類が多く、早くから出回るからでしょう。

妻告ぐる胎児は白桃ほどの重さ               有馬朗人

指ふれしところ見えねど桃腐る               津田清子

ほら、今このくらい、と妻から白桃を手渡され、初めて父たることを実感した作者かもしれません。また桃はデリケートな果物です。傷みやすいこともあって、貴重品のように扱います。

葡萄食ふ一語一語の如くにて                   中村草田男

昨今は南半球の葡萄が春のころから店頭に並びますが、日本とは季節が逆であることを考えれば、やはり葡萄は秋のものでしょう。

勉強部屋覗くつもりの梨を剝く               山田弘子

水分たっぷりで、剝いてあれば手も汚さず食べられて、子どもの様子を見に行くにはぴったりの果実かもしれません。

よろよろと棹がのぼりて柿挟む               高浜虚子

柿うましそれぞれが良き名を持ちて       細谷喨々

柿も品種の多い果実です。渋柿が圧倒的に多いですが、渋を抜かずに食べられる柿がこの時期には詠まれているようです。棹を伸ばしているのは近所の悪童どもでしょうか。

星空へ店より林檎あふれをり                   橋本多佳子

空は太初の青さ妻より林檎うく               中村草田男

保管技術が進み、ほぼ年中食べられるようになりましたが、穫れたてのみずみずしさは秋のものでしょう。星空も青空も秋の高く澄んだ空です。

栗の毬割れて青空定まれり                       福田甲子雄

胡桃割る胡桃の中に使はぬ部屋               鷹羽狩行

甲子雄は山梨の人。栗が熟すころに、盆地の空は高い秋の空になるのでしょう。狩行の句は、向田邦子のエッセイにも登場します。発表当時を私は知りませんが、話題になったのかもしれません。

実石榴を割れば胎蔵曼陀羅図                 木内彰志

いちじくを割るむらさきの母を割る       黒田杏子

石榴や無花果は流通に乗りにくいのか、メジャーとは言い難い存在ですが、コアなファンがいる果実です。

蜜柑はまだ青いです(青蜜柑=秋/蜜柑=冬)が、柚子、酢橘、金柑、檸檬、……柑橘類が次々に旬を迎えます。柑橘好きの私としては、垂涎の季節の到来です。(正子)

 

今月の花(八月)ブーゲンビリア

caffe kigosai 投稿日:2022年7月18日 作成者: koka2022年7月18日

蔓状の枝に小さな花をたくさんつけるブーゲンビリア(ブーゲンヴィレア)を身近で楽しもうとしても、東京ではワイヤーで組まれた土台に蔓が巻かれた鉢植えを買ってくるのがせいぜいです。

花といいましたが、じつは三枚の花びらのようなものは苞(ほう)です。それぞれの苞の元から出ている筒状の先の白いものが本当の花なのです。葉は先のとがった楕円形で蔓には棘があり、切るとすぐにしおれるので作品として長くいけておくのは困難です。

日本でも南、それも沖縄までいけば、ピンク、赤、白、黄色、オレンジ、赤紫、白にピンクのはいったものなど、華やかなブーゲンビリアが見事な放物線を描き、競い合うようにその美しさを見せています。

今では世界各地で栽培されていますが、ブーゲンビリアの原産地は中南米です。中米メキシコの首都メキシコシティでは女流画家のフリーダ・カーロの住んでいた家の、独特のブルーに塗られた塀からその色に負けない鮮やかなピンクの苞をつけた枝をのぞかせていました。

政情不安なパキスタンに行ったときは、舗装をしていない道の傍で、行き交う車の埃の中、黄色い苞をつけた枝が揺れていました。

ブーゲンビリアのこのうえもなく冴えた色に出合ったのは、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーの青い空の下でした。あの色は土の性質によるのか、あふれる光のせいなのでしょうか。

この海域にはブーゲンビル島という島があります。この島を訪れたフランス人の探検家ブーガンヴィュ(1729-1811)にちなんで、ブーゲンビル島と名付けるられたといわれています。植物のブーゲンビリアはそのブーガンヴィュがブラジルにいった時、同行の植物学者が珍しいこの木を発見、属名にその名をつけ、それがブーゲンビリアをさすようになったということです。

パプアニューギニアとその近海は、第二次世界大戦では日本と連合軍との激しい戦闘の中におかれました。今も日本から慰霊の旅行団を迎えるこの国で、ブーゲンビリアは、ここで散っていった幾多の魂に深い鎮魂の思いとともに、命の意味と重さを問いながら瑞々しく鮮やかな色で咲き続けていくに違いありません。
(以上は、2014年8月の「今月の花 ブーゲンビリア」に加筆修正したものです)

この話を書いた後、夏になると近所の道に園芸用品の緑の棒をくみ上げたブーゲンビリアの小さな棚が出現。その華やかな色合いが太陽の光に揺れている様子を楽しんできました。

先日、アフリカの日本大使館にいる門下からメールがありました。今回の元総理の事件で弔問においでの地元名士の方も多いとのこと。「花屋さんから白薔薇と白百合は入手できるけれど、薔薇は棘があるから黒枠のお写真のそばには使えませんよね」と聞いてきました。「白いブーゲンビリアならたくさんありますけれど、もちませんし」とも。ブーゲンビリアは切ってすぐに水の中に入れてもどんどん萎れていきます。百合だけでもいいのではとアドバイスをしましたが、白いブーゲンビリアは公邸の庭にあるので、萎れたらすぐ庭から切ることになったようです。

パプアニューギニアにしても、今回の白いブーゲンビリアにしても、人が人を殺める、その慰霊の場面でこの花が使われることを残念に思います。

華かな色を振りかざすような丈の長いブーゲンビリアが元気に風に揺れてているところを見ると、これ以上ブーゲンビリアに悲しい思い出のイメージを重ねてほしくないと思います。次に見るときは楽しい陽気な場面でと願うのです。(光加)

新刊絵本のお知らせ

caffe kigosai 投稿日:2022年7月2日 作成者: mitsue2022年7月3日

こどものとも012 
「なぜ なくの?」  杜今日子:作(福音館書店)定価440円

「カフェきごさい 花仙の会」で美しい墨書を披露してくださっている日本画家杜今日子さんの新作絵本『なぜ なくの?』が刊行されました。「こねこが ミャア ミャア なぜ なくの?」呼びかけるようなことばと生き生きした子猫の絵に惹かれてページをめくると・・・。かわいらしい動物がつぎつぎと登場する、子どもと会話しながら親子で楽しめる一冊です。ぜひご覧ください。(店長)

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カフェ_ネット投句とネット句会

・ネット投句は、朝日カルチャーセンター新宿教室(講師_飛岡光枝)の受講者が対象になります。
・毎月20日の夜12時が締め切りです。
・選者はカフェ店長の飛岡光枝、入選作品・選評は月末までに発表します。
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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。朝日カルチャーセンター「句会入門」講師。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。句集に『玩具』『花実』。著書に『子どもの一句』。和光大・成蹊大講師。俳句結社「藍生」所属。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょうよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。

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