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今月の花(番外編) アダンの実

caffe kigosai 投稿日:2024年10月30日 作成者: mitsue2024年10月30日

「田中一村展」が東京都美術館でひらかれています。

東洋のゴーギャンと呼ばれるこの作家の一枚の絵が、私に「アダンの実」を教えてくれました。今回の展覧会のポスターやチケットにはこのアダン(阿檀)の実が描かれた代表作「アダンの海辺」が使われています。1908年に生まれ、1977年に奄美大島で一生を終えた田中一村は、50歳にして絵を描くため首都圏から奄美大島に移住しました。子どもの頃はその画才により神童と呼ばれていました。

東京都美術館の会期は12月1日までありますので、機会があればぜひ足を運んでみてください。植物を中心として、熱帯の島にしかない美しさをふんだんに味わうことができ、島の独特の空気の中、自分の表現を追求しようとする彼の情熱がひしひしと伝わってきます。

私が田中一村の絵を知ったのはずいぶん前の事ですが、アダンの実の実物を見たのは数年前でした。生徒と一緒に開いた展覧会で、お花屋さんに勤めていた一人がこのアダンの実を金色に染めて作品にしたのです。

表面はパイナップルにも似ているけれど、形はパイナップルに比べると丸い。花屋さんの社長さんから、もういらないから持って帰っていいと言われ、色もあまりきれいでなくなったので色を付けました、と彼女。私は熟してオレンジ色になる前の色をみたかったと思ったものです。展覧会の後もらい受けしばらく眺めていましたが、触ると少し柔らかくなり、匂いも出てきたので捨てました。

学名はpanndanus tectorius、タコノキ科、英語でscrew pine。「たこのき」と呼ばれるのは、根がタコの足のように成長していくからだということです。このタコノキ属の名前が「パンダヌス」と言い、同属の小さなものが観葉植物として育てられているそうです。

その一つでしょうか、アダンと同属のパンダヌスの名を冠して売られている葉があります。長さは1.5メートルくらいになり、そのままでは輸送するのに葉が傷ついてはという気づかいからか、鋭角にかくかくと折りたたんでそのままでもいけられるような形にしてもって来られたこともあります。

葉の縁に縦に濃い緑の斑のはいったパンダヌスが、このアダンと近縁だったということを初めて知りました。アダンの実と、このいけばなで使うパンダヌスの関係は、牧野富太郎先生ならずとも「植物学は面白い」と思ったものです。

この十月、年に1回デパートで開かれる展覧会に緑のアダンの実をいけておいでの方がいて「あ、これだ」と観察することができました。お話を聞きたいと思いましたが聞きそびれました。全国はもとより世界から出品者が集まるので、この方も南の島のご出身かなと思ったのです。

南の国の面白い形の実は数えきれないほどあります。田中一村が描き、展覧会でいけられるアダンの実。世界は繋がり広がっていく、と感じる、いけばな作家としてはいけばなをしていてうれしい瞬間でもあります。(光加)

第十八回 カフェきごさいズーム句会 句会報(飛岡光枝選)

caffe kigosai 投稿日:2024年10月5日 作成者: mitsue2024年10月5日

第十八回「カフェきごさいズーム句会」 (2024年9月14日)句会報告です。(   )は添削例。
「カフェきごさいズーム句会」はどなたでも参加できます。ご希望の方は右の申し込み欄からどうぞ。

第一句座              
【特選】
一身を水にゆだねて秋の鮎      齊藤真知子
朝焼けの金をしつぽにキタキツネ   高橋真樹子
(朝焼けや金のしつぽのキタキツネ)
赤き旗上げて舟呼ぶ水の秋      藤倉桂
かふなれば破れかぶれの破芭蕉    斉藤真知子
(かうなれば破れかぶれや破芭蕉)
鶏頭の赤に日暮れの来たりけり    矢野京子
(鶏頭の赤燃え上がる日暮かな)

【入選】
ゑのころや今もできない逆上がり   伊藤涼子
赤とんぼ湧きくる里へ米買ひに    高橋真樹子
しみじみと二人暮しや菊日和     赤塚さゆり
(しみじみと二人の暮らし菊日和)
鈴虫や使ひ納めの硝子猪口      花井淳
桃剝いて桃の香りの中にをり     上田雅子
秋簾ゆかしき昭和の純喫茶      赤塚さゆり
(秋簾ゆれる昭和の純喫茶)
新米やまづはまんまる塩むすび    藤倉桂
梨を剝く半分で済む二人かな     前﨑都
啄木の思郷の歌碑や葛の花      村井好子
(啄木の望郷の歌碑葛の花)
式部の実母なき庭にこぼれをり    前﨑都
(式部の実母なき庭にこぼれけり)
おんぼろの掃除機唸る九月かな    早川光尾
縫糸の絡まってゐる秋暑かな     斉藤真知子
(赤き糸絡まつてゐる秋暑かな)
子かまきりまこと小さき鎌かざし   上田雅子
ごろ寝して我も花野の一草に     高橋真樹子
朝顔の鉢片づけて新学期       矢野京子
日本の秋とぼとぼとまだ見へず    矢野京子
並びゐて細身なれども初秋刀魚    斉藤真知子
あぎとへる鯉の動かす秋の水     前﨑都
触れあうて白桃のこの傷みやう    矢野京子
沈香と妻のおもかげ宵の秋      花井淳
(沈香に妻のおもかげ秋深む)

窓にさす朝の光やマスカット     飛岡光枝

第二句座(席題・鵙の贄、新米)
【特選】         
新米を研ぐ皺の手もいとおしく    高橋真樹子
(新米を研ぐ皺の手のいとほしく)
眼から風抜けてゐし鵙の贄      高橋真樹子
(眼から風の抜けゆく鵙の贄)

【入選】
鵙の贄我は見つけてしまひけり    藤倉桂
もてなしは新米炊く香山の家     藤倉桂
山深き一揆の里や鵙の贄       花井淳
新米と告げて供ふや父に母に     藤倉桂
(新米と告げて供ふや父母へ)
砥部焼の白き茶碗に新米を      前﨑都
(砥部焼の真白き茶碗今年米)
ふるさとの香りも混ざる今年米    赤塚さゆり
(ふるさとの香りの混ざる今年米)
因縁の枝に刺されて鵙のにへ     矢野京子
子供らの指差し騒ぐ鵙の贄      上田雅子

上弦の月あかあかと鵙の贄      飛岡光枝

今月の花(十月) 珊瑚みずき

caffe kigosai 投稿日:2024年9月29日 作成者: mitsue2024年9月29日

門下の「珊瑚みずき」のいけばな

フィンランドのCornus

秋になって紅葉する葉はたくさんありますが、サンゴミズキの場合は枝や茎の独特の赤が映えるようになり、その色から「珊瑚みずき」と呼ばれます。直線の枝は曲げることもできるので、私はクリスマスの壁の飾りに土台を兼ねて枝を曲線にして使うこともあります。いけばなで使うのは白玉みずきの変種であるこの「珊瑚みずき」が多いのです。

6月の中旬、フィンランドにワークショップをしに行きました。グループをまとめている門下のⅬさんは 航空会社のCAとして来日。そのつど東京の私の教室でいけばなを熱心に勉強し、もう30年にもなるでしょうか。定年と同時に母国フィンランドで自分のスタジオを立ち上げ、要請があれば地方の都市にもいけばなを広めに出かけていきます。

彼女とその仲間にとっての大きな問題は、この北の地での枝物の入手です。花市場ではユーカリやヒバなど、何時も同じものばかり。そんな時は、彼女のグループのメンバーの「あそこの土地にいけばなに使えそうな枝がある」という情報が役に立ちます。今回も彼女の片腕で7歳からいけばなをはじめたヘレナが「Cornusが花をつけている」とある場所を教えてくれました。

CornusとはCornus alba Sibrica、「珊瑚みずき」のことだろうか?連れて行ってくれた場所には葉をつけた2メートルほどの高さの枝が固まって生えていました。柔らかい葉の下は浅緑のまっすぐな枝が伸びていて、頭部に小さな白い花が固まって付いていました。

日本で冬が終わった時に「珊瑚みずき」の赤い枝に小さな新芽が出てきた姿を見ていますが、こちらは形は同じでも茎の色が全く違っていました。

「珊瑚みずき」はミズキ科ミズキ属。白玉みずきの園芸種です。英名はSiberian dogwood。この名からわかるように寒い地域にも生えているので、地続きのフィンランドにもひょっとして仲間があるのでしょうか。

私がフィンランドで見たのは「黄金みずき」という種類なのかもしれません。冬になるとこの種類は入手困難ですが、日本の初夏に枝や茎が黄緑色の「黄金みずき」をいけることがあります。もともと白玉みずきは園芸種が多く、葉に斑がはいるエレガンティッシマという種類もあり、実も変わったものや、赤い色のより鮮やかなものもあるそうです。

九月、東京の教室で門下が色づいた曲げやすい「珊瑚みずき」をいけました。夏の終わりがやっときて秋というにはまだまだの気候ですが、それでも冬が遠い先にかすかに見えてきたような気がしました。

フィンランドの、どこまでも青い夏の空を懐かしく思い出しながら、あの柔らかな茎をもった植物は本当に「黄金みずき」だったのかと時々思います。正解がでないまま、気がつけばクリスマスのシーズンに突入していそうです。(光加)

浪速の味 江戸の味(十月) 梨【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2024年9月26日 作成者: mitsue2024年9月26日

新高(左)とあきづき

全国区で活躍している梨の妖精「ふなっしー」は船橋市のゆるキャラです。船橋市のある千葉県は梨の収穫量、栽培面積とも全国一で、栽培が盛んな臼井市、市川市、鎌ケ谷市などでは8月から10月にかけて数種類の梨が収穫され、多くの人が梨狩りに訪れます。

千葉県の梨栽培は江戸時代の1700年代後半から広まったと言われています。水はけのよい火山灰の土壌は梨の栽培に適しており、温暖な気候も味方して、大消費地である江戸で高級品として喜ばれました。農家の女性が高下駄を履いて頭上の梨を収穫する古い絵が残っています。その後土壌や品種の改良を重ねて一大生産地に発展していきました。

千葉県の梨は、7月下旬の「幸水」に始まります。私が訪れた9月は1998年に登録された新しい品種の「あきづき」が最盛期でした。「幸水」「新高」「豊水」という人気の三品種を掛け合わせた「あきづき」は溢れるほどの果汁と糖度の高さが特徴です。

また、鳥取県産が知られる「二十世紀」も、実は千葉県松戸市で発見された苗木から栽培が始まったそうです。

江戸の梨は、落語「佃祭」にも登場します。佃祭を舞台に、昔、命を助けた女性に今度は自分が助けられるという古典落語。当時、歯痛に悩む人は、歯の神様として知られる戸隠神社へ祈りを捧げ、梨を川へ流す風習を行っていました。この風習が「佃祭」のサゲに登場するのですが、現代ではあまり知られていないのでサゲの前で噺を収めることが多いようです。

因みに、戸隠神社に祀られている神様、九頭竜大神は梨が大好物で、歯痛に悩む人は竜神様へ梨を供え、三年梨絶ちをすれば必ず治ると言われていたそうです。ジューシーな梨は確かに竜神様が好みそうですし、甘い梨の実は虫歯を誘いそうではあります。歯磨きに励みながら秋の日射しを受けて実った梨を堪能いたしましょう。

顔に熱き日射しや梨を捥ぐ  光枝

第十七回 カフェきごさいズーム句会 句会報(飛岡光枝選)

caffe kigosai 投稿日:2024年8月29日 作成者: mitsue2024年8月29日

第十七回「カフェきごさいズーム句会」(2024年8月17日)句会報告です。(  )は添削例。
「カフェきごさいズーム句会」はどなたでも参加できます。ご希望の方は右の申し込み欄からどうぞ。

第一句座              
【特選】
いつの間に椋鳥の樹となりにけり     斉藤真知子
黒揚羽揺れる木漏れ日泳ぎゆく      早川光尾
(真昼間の木漏れ日泳ぐ黒揚羽)
墓洗ふ会つたことなきはらからの     前﨑都
魂もバツタになりしファブールかな    周龍梅
(魂のバッタとなりてファーブルかな)
秋立つや男の家事をひとつづつ      花井淳

【入選】
うなぎ食うて女の一生長々し       葛西美津子
六分の一切れを買ふ初西瓜        上田雅子
けさ秋の一舟川を下りゆく        斉藤真知子
開校と閉校の碑や晩夏光         村井好子
朝顔のゆゑに家居と決めにけり      たきのみね
(朝顔の咲きつぎ家居と決めにけり)
首里城の槌音高し沖縄忌         上田雅子
(首里城の槌音高く沖縄忌)
喜雨休み煙管ぷかぷか山守は       前﨑都
(山守は煙管ぷかぷか喜雨休み)
蜩や五輪応援午前五時          村井好子
墓参り藪蚊一匹つれ帰る         矢野京子
夏終わるオンザロックの氷コロン     早川光尾
(夏終はるオンザロックの氷コロン)
終戦忌けふの日記を書き終はる      矢野京子
梨を食ふ父の時代の名の梨を       たきのみね
(梨を食ふ父の時代の二十世紀)
黒葡萄夜のしづけさに熟しをり      伊藤涼子
(黒葡萄夜のしづけさに熟しゆく)
若き父ビールの髭で子をあやし      鈴木勇美
納涼会銀座に潮のかをりかな       鈴木勇美
(納涼会銀座は潮のかをりして)
しばらくはとまらせてをく蜻蛉かな    斉藤真知子
真夏日や電柱の陰バスを待つ       早川光尾
炎天や四天王像顔歪め          赤塚さゆり
ぽつぽつと叔母語りくれ広島忌      たきのみね
(広島忌叔母ぽつぽつと語りくれ)

朝顔や母はむらさき父は白        飛岡光枝
  

第二句座(席題・枝豆、馬肥ゆる)
【特選】         
天高く肥ゆるものあり吾と馬       斉藤真知子
朝取りの枝豆掛ける勝手口        赤塚さゆり

【入選】
馬肥へて牧夫に鼻を寄せにけり      伊藤涼子
(馬肥えて牧夫に鼻を寄せにけり)
枝豆の最後のひとつ子に譲り       赤塚さゆり
枝豆や母ほどうまく茹でられぬ      たきのみね
(枝豆や母ほどうまく茹でられず)
里山を離れぬ祖母や月見豆        藤倉桂
(山里を離れぬ祖母や月見豆)
接待やたんとゆがきてだだちや豆     矢野京子

枝豆を飛ばすや好きな人の前        飛岡光枝

今月の花(九月) パンパスグラス

caffe kigosai 投稿日:2024年8月28日 作成者: mitsue2024年8月29日

小さな実をたくさん付け、弧を描く「野茨」の枝、丸い葉と蔓の間に薄緑の丸い実をつけた「山帰来」がそろそろ花材として現れるころ、暑さのためにしばらく休みにしていたお稽古を再開しました。

花材として届けられた中に「パンパスグラス」がありました。包みの中から、若い緑色のまっすぐな茎が出ていて、先に行くにつれて細くなり、瑞々しく、勢いを感じさせる秋の花材のひとつです。長さは1メートルをはるかに超えます。

丸い鞘の周りに、鋏で注意深くやや深めの線を入れていき一周させます。この線の一か所に鋏の先をあて、鋏の片方の刃をさしこみ一気に線を入れます。すると鞘を作っている表皮が落ち、花があらわれます。

どこに線を入れるかにより、穂の長さが決まってきます。現れた少し青臭い銀緑の花穂に「あら、きれい!珍しいからもうこのままの長さで切りたくない」、出てきた花穂を傾けて下がり具合を見ながら「どの花器にしようかしら」、曲げられないまっすぐな線を見ながら「立派ね。このまま剣山に刺しても安定するかしら」などなど、教室のあちこちで声が上がります。

パンパスグラスはイネ科です。原産地は南アメリカですが、今ではニュージーランドなどの水はけのいい、温暖な気候の地域でも見かけます。ひとつの株からたくさんの茎を出す多年草で、大きいものは3メートルの高さにもなります。羽のようにふさふさとした花序が集まって一斉に揺れる様はなかなかいい光景で、風に揺れればその存在がぐっと増すことでしょう。それは気持ちよい秋風の様子でしょう。

すこし紅色がかったものもありますが、改良品種でしょうか。明治に日本に入り、庭などに植えられたそうです。いけばなで使う、乾かして着色をしたイタリアンパンパスもこの仲間です。

パンパスグラスは雌雄異株で、立派な花序をつけるのは雌株なのだそうです。この名は英語名ですが、もともとパンパスグラスはスペイン語で大草原〔pampa(パンパ)〕の草という意味だそうです。

そう、昭和の方ならおそらくご存じの、アルフレッド・ハウゼ楽団の「さらば草原よ」というタンゴの名曲がありました。こちらはスペイン語で(Adios Pampa Mia)。秋今宵、お稽古であまったパンパスグラスをいけて、風そよぐ銀色の花穂が揺れる大草原に思いを馳せてみましょうか。何十年か前に聞いたこの曲を、今はネットで探して。(光加)

第十六回 カフェズーム句会 句会報(飛岡光枝選)

caffe kigosai 投稿日:2024年8月3日 作成者: mitsue2024年8月3日

七月十三日のカフェズーム句会句会報告(飛岡光枝選)です。(   )は添削例。
カフェきごさいズーム句会はどなたでも参加いただけます。右の欄よりお申込みください。

第一句座              
【特選】
初めての糸瓜咲きけり黃鮮やか     たきのみね
(金色に初めての糸瓜咲きにけり)
首のべて亀の噛みつく大暑かな     葛西美津子
鰭ゆらし夏のよどみへ金の鯉      葛西美津子
三伏のま白き鳩の歩み来る       葛西美津子

【入選】
雲の峰マンタと泳ぐ太平洋        藤倉桂
夏を告ぐほほづき市や空青し      前﨑都
おさがりの今年ぴつたり夏帽子     矢野京子
(今年ぴつたりおさがりの夏帽子)
ベランダのトマトを添えて夏料理    早川光尾
(ベランダのトマトを捥ぎて夏料理)
サングラス親指ぐいと踏み出しぬ      村井好子
犬用の合羽も干され梅雨晴間      赤塚さゆり
早苗田の影悠然と浅間山        藤井和子
(早苗田に影悠然と浅間山)
老い二人ほどよき間合ひ冷し酒       前﨑都
(老い二人ほどよき間合冷し酒)
茄子漬の白き切り口雨あがる      たきのみね
取取のマカロン並ぶ梅雨晴間      赤塚さゆり
(取り取りのマカロン並ぶ梅雨晴間)
心太割箸の香もすすりけり       高橋真樹子
(割箸の香をすすりけり心太)
金魚鉢ちがふ景色に移さるる      斉藤真知子
梅雨しとどグロリオーサは赤増しぬ   上田雅子
トンネルを抜け青田波青田波      村井好子
(トンネルを抜けて押し寄す青田波)
異国語は音楽めきて夏の夜       鈴木勇美
おのづと手を合はせてをりぬ滝の前   前﨑都
(おのづから手を合はせけり滝の前)
海の日や新日本丸の風受けて      花井淳
(海の日や新日本丸風受けて)
母のゐし夏の夕暮れ琥珀羹       葛西美津子
この星を焼き尽くさんと酷暑かな    藤井和子
(この星を焼き尽くさんと油蝉)
神鳴や我が夜我が街撃ちぬきて     鈴木勇美
青い目の少女うるはし浴衣かな     伊藤涼子
月明に似たる糸瓜の花一輪       たきのみね

飛岡光枝出句
どぢやう鍋ポンポン船の遠ざかる

第二句座(席題・登山、鰻)
【特選】 
鰻やのメニュー松竹梅とかいろはとか  上田雅子      
(うな重や松竹梅とかいろはとか)
うな重やちょつと寄り道鰻塚      藤倉桂
(うな重やちよつと手を合はせ鰻塚)

【入選】
女郎蜘蛛住んでをるらし登山小屋    伊藤涼子
山登りケルンに積みし石ひとつ     斉藤真知子
不忍の池見下ろして鰻食ふ       上田雅子
(鰻食ふ不忍の池見下ろして)
登山口熊に注意の六ヶ条        高橋真樹子
近江町はうなぎ鰻の熱気かな      花井淳
(近江町うなぎ鰻の熱気かな)
一献や鰻白焼きあればよし        矢野京子
リハビリの後の一鉢うなぎかな      前﨑都
百寿まで生きると決めて鰻喰ふ     高橋真樹子

飛岡光枝出句
富士登山父母かくも若かりき

浪速の味 江戸の味(八月) 鰻の蒲焼(落鰻)【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2024年7月31日 作成者: mitsue2024年7月31日

土用の丑の日に鰻を食べて精をつけ夏を乗り切る。平賀源内が広めた鰻の宣伝文句と言われていますが、近年の猛暑でその思いは強くなり鰻の人気はまさに鰻上りです。

古来から日本人の大好物だった鰻。万葉集には夏痩せにいいという歌で登場。その後の時代も味噌を付けたり膾などにするなどして食べられていましたが、ほぼそのまま輪切りにしていたようです。鰻の輪切りは中国旅行で経験しましたが生臭く、食いしん坊の私でも一口食べただけであとが続きませんでした。

江戸時代、蒲焼が登場すると鰻は別格となります。その様子は池波正太郎の『鬼平犯科帳』にも描かれています。

「辰蔵が子供のころは、鰻なぞも丸焼きにしたやつへ山椒味噌をぬったり豆油(たまり)をつけたりして食べさせたもので、江戸市中でも、ごく下等な食物とされていたものだ。(中略)それが近年、鰻を丸のままでなく、背開きにして食べよいように切ったのへ串を打ち、これを蒸銅壺(むしどうこ)にならべて蒸し、あぶらをぬいてやわらかくしたのを今度はタレをつけて焼きあげるという、手のこんだ料理になった。これをよい器へもって小ぎれいに食べさせる。(泥鰌の和助始末)より」

こうして鰻の蒲焼は江戸で大人気となり、鰻がよく獲れた深川を描いた画には「江戸前大かばやき」の幟を立てた露店がよくみられます。

因みに鰻の養殖が日本(世界)で初めて本格的に行われたのも深川でした。明治十二年、川魚問屋、服部倉治郎が深川の池で鰻の幼魚(クロコ)を育てたところからスタートしました。

江戸時代の鰻はもちろん天然ものばかりでした。海で生まれた鰻は川を上り2~3年で成魚になり、8年ぐらいで成熟すると秋、産卵のため川を下り海を目指します。その鰻を「落鰻(下り鰻)」と呼び、秋の季語となっています。その頃の鰻は脂が乗って美味しいとされ、その鰻を簗で捕らえるのが鰻簗です。卵を抱えて下る鰻を獲ると思うと少々切ないですが、季節感も一緒に味わっていたのではないでしょうか。

養殖技術の発展は素晴らしく、鰻を安定していただけることは本当にありがたいことです。あまり欲張ることなく、海を目指す鰻を心に描きつつ、美味しい鰻を食べて残暑を乗り切りたいと思います。               (参考・鰻割烹 大和田「鰻の蘊蓄」)

  闇縫うて一夜落ちゆく鰻かな  光枝

今月の花(八月) 西洋菩提樹の花

caffe kigosai 投稿日:2024年7月28日 作成者: mitsue2024年7月31日

ラクセンブルグの西洋菩提樹(写真の右上に実がみえます)

ウイーンから車で30分ほどのラクセンブルグ(Laxenburg)。広大な公園に犬を連れた人や子供たちと散歩中のご夫婦。樹々の間を渡ってくる爽やかな空気を吸い込みながらゆったり時が過ぎていくと感じるのは、今回のいけばなの仕事の旅がウイーンですべて終わったからでしょうか。

ラクセンブルグ一帯はかつて貴族の狩猟の場でした。またハプスブルグ家にゆかりがあり、エリザベート、つまりシシーがフランツ ヨーゼフ1世と新婚時代をすごした土地です。「ラクセンブルグ ポルカ」もここの宮殿で生まれたルドルフ皇太子にヨーゼフ シュトラウスからささげられた曲で、2008年ウイーンフィルのニューイヤーコンサートにも演奏されました。

草月流のウイーン支部長のヘルガと彼女の門下でオーストリア在住の日本人Fさんと生い茂る樹々を眺めながら歩きました。まだ青い木の実や草むらの花の名前を教えていただいたり、大きな草刈り機にかられ立ち上る草いきれに記憶をたどりました。

リンデンバウムの花

立ち止まったヘルガが、これがリンデンバウム、(別名リンデン)と指さした先は高さ3~40メートルにもなろうかというひときわ大きな木でした。シューベルトの歌曲集、「冬の旅」の中にある(菩提樹)は日本でも知られています。この菩提樹は西洋菩提樹(リンデンバウム)または西洋しなの木という名前です。

私たちが知っている、その下で仏陀が悟りを開いたというクワ科のインド菩提樹とは異なります。また、日本の菩提樹は中国原産のしなのき科です。山地に生える大葉菩提樹もありますが、いずれも高さはせいぜい10~20メートルだそうです。

日本ではお寺などに植えられているからなのでしょうか、菩提樹をいけたことがなかったことに私は突然気が付きました。インド菩提樹の代わりに日本のお寺には日本の菩提樹が植えられているのでしょう。その実は数珠にも使われるそうです。

西洋菩提樹は夏にすこし黄色がかった花をかたまってつけ、蜂が蜜を集めにやってきます。でもこの時は先のやや尖った丸い葉の間にも花は見つけられませんでした。七月になろうとする今年のウイーンは異常に暑かったので、花は終わってしまったのかもしれません。

いつも自宅の庭から花材を切ってくるドイツの方に、お庭にこの木はありますか?と聞いたところ「自宅の庭は小さいからとんでもない。リンデンバウムは大きく成長するので街路樹に多いですね」と言われて納得しました。

ヘルガは「あそこにも若木が、あちらにも」と、すっと立っている1メートルほどのリンデンバウムの若木数本を見つけました。ヨーロッパのリンデンバウムの樹齢は千年近くになるものもあり、植物を大切にしたといわれるエリザベートも、この辺りのリンデンバウムを見ていたのでしょうか?もちろん、波乱に満ちた人生が待ち受けていることは彼女にはその時想像するすべもなく。(光加)

第十五回 カフェきごさいズーム句会 句会報

caffe kigosai 投稿日:2024年6月30日 作成者: mitsue2024年6月30日

2024年(令和六年)六月八日のカフェズーム句会、句会報告(飛岡光枝選)です。(   )は添削例。
カフェきごさいズーム句会はどなたでも参加いただけます。右の欄よりお申込みください。飛岡光枝

第一句座              
【特選】
父の日やカードで開ける父の墓         上田雅子
黒南風や苔を舐めとる鯉の口          葛西美津子
黴にほふ母のバッグの捨てられず        伊藤涼子

【入選】
酒盗ひと口冷酒ひと口八丁堀           花井淳
(酒盗ひと箸冷酒ひと口)
梅雨晴れ間キャベツ千切りシャキシャキシャキ  藤倉桂
(梅雨晴間キャベツ千切りシャキシャキと)
紫陽花の路地の奥なる書道塾          鈴木勇美
洗鯉あかね色の空惜しみつつ          矢野京子
ライラックこの街に住み二十五年 高橋真樹子
幾万の中の五百句夏ふかむ           斉藤真知子
火を恋ふる翅美しや虫篝            上田雅子
(焼き尽くす翅美しや虫篝)
下手な句をまだ捨てられぬ暑さかな       斉藤真知子
めまとひを払ひながらの案内かな        矢野京子
老鶯や筧を走る山の水             葛西美津子
鱚三十天ぷらにまた風干しに          葛西美津子
あぢさゐの道の果なき夫逝きて         花井淳
(あぢさゐの道の果てなし夫逝きて)
柚子の花旅のひと日の芳しく          伊藤涼子
五月雨の神社に赤き芝居小屋
          鈴木勇美
田水張り煙草喫ふ父眩しげに          早川光尾
(眩しげに煙草喫ふ父田水張り)
あぢさゐや傘とほり過ぐ塀の上         矢野京子
麦秋や砲声未だ鳴り止まづ           早川光尾

飛岡光枝出句
舌出すに似て薄羽の天道虫 

第二句座(席題、青梅、アマリリス)
【特選】
家中に籠の実梅の匂ひけり       斉藤真知子
そこいらの竿もて落とす実梅かな    前﨑都

【入選】
青々と瓶に沈めて梅酒かな       上田雅子
(青々と瓶に沈みて実梅かな)
アマリリスけふ開くかと思ひしが    斉藤真知子
つば広の帽子深めにアマリリス     前﨑都
青梅のぷかりぷかりと瓶の中      斉藤真知子
Tシャツの魔女の行方にアマリリス   高橋真樹子
(猫つれて魔女の行方やアマリリス)
アマリリス遠く聞こえて来るロンド   たきのみね
女冥利真夜の厨の梅仕事        藤倉桂
青梅を一つ拾ひていかにせむ      伊藤涼子
ご隠居の自慢の実梅届きけり      赤塚さゆり

飛岡光枝出句
飛梅やいよいよ青き実をつけて

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • 第二十七回 2025年6月14日(土)13時30分(原則第二土曜日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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