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今月の花(二月) 連翹

caffe kigosai 投稿日:2021年1月19日 作成者: koka2021年1月19日

春を告げる花木(かぼく)を一月にいけるのなら、私は瑞々しい黄色の花をつける花木からいけたいのです。黄色の花をつける花木なら年末にも蝋梅がありました。しかし年が変わるともう花屋からは消えています。

新しい年に待ってました、とばかり店先に現れるのがまず連翹、次に山茱萸 万作 と続きます。中国原産といわれているモクセイ科の連翹は、葉の出る前に先が四つにわかれた2~3センチの黄色の花をつけます。木の高さは2~4メートルほどになり、枝が地に着くとそこからまた根が出るほどの生命力を誇ります。

連翹の「翹」という字は雉の羽を意味しますが、その中でも尾羽をさし連翹の弧を描く線が思いだされます。種類は多く、チョウセンレンギョウは緩く湾曲しますが シナレンギョウは枝が立ちぎみです。ヤマトレンギョウ、小豆島レンギョウなどは日本特産のものですが花の付き方はよくないようです。今日本で私たちが見かける鮮やかな黄色のレンギョウは交配による園芸種が多いと聞きました。

連翹には連翹空木という別名があります。枝の節のところは固いのですが、枝の中の髄は空洞となるので空木という名前が付け加えられるのでしょう。いけばなのクラスで生徒さんに「この枝はためられますか?」と聞かれるのですが、自分で矯めてみては?ということにしています。曲げようとすると「ぽきっ」と折れてしまうこともしばしば。花材はそのままを生かした方がいいものもあると手が学習をするのです。

ゴールデンベルという英名を持つ連翹は、世界中多くの場所で見ることができます。冬のヘルシンキ、車から降り雪の上を足元に気を付けながら着いた花市場。市場の中も寒く思わず襟をすくめたのですが、花々の並ぶ隅に数本の連翹の花の鮮やかな黄色を見つけた時、一瞬寒さを忘れさせてくれました。

日本への渡来は江戸時代とも平安時代初期ともいわれています。春はあけぼの、やうやう明けゆく中にーーその時この連翹があったら清少納言は紫たなびく雲から目を転じると、すぐそこに黄色の花が咲いていることに気が付いたでしょうか。(光加)

今月の花(十一月) 冬林檎

caffe kigosai 投稿日:2020年10月17日 作成者: koka2020年10月17日

お稽古の時に手にしたのは姫林檎。秋も深まりつつある10月のはじめでした。

枝から垂れたたくさん柄の先につく姫林檎の実は、頂上はへこんでいないものの林檎をごく小さくしたような形で2~2.5センチくらいの大きさです。赤にうっすら緑色が残る実が特徴です。乾いてしまった葉は整理して実が下がるようにいけたら、と初心者には提案をしました。姫林檎の盆栽をみて、アメリカやヨーロッパの方は園芸種のクラブアップルに近いと言われました。

姫林檎が下がると、いよいよ林檎も本格的な季節を迎えます。

夏の太陽をたくさん浴びた「サンつがる」にはじまり、最後は11月から12月に収穫する「サンふじ」までが栽培の期間。ことに「サンふじ」は初めは少し青く熟度が十分でないものの2月くらいから甘味も増してくるので春先まで楽しめるとは、長野で林檎農家をしている方のお話でした。そのため適度な温度と湿度で管理した冷蔵保管が必要です。

その若いご夫婦は外国各地での生活ののち、リンゴ栽培をこの地で始めました。果樹を剪定した枝や稲わら、果物や野菜のくずを用いる規格外農産品の有効活用など環境を考え、長く林檎を味わってほしいということで栽培する林檎の種類は豊富です。

晩秋の林檎はいただいてみるとほかの時期のものよりずっしりとして、やや控えめの香りに対し、密な造りが口の中で確かめられます。冬林檎と聞くと私は孤高なイメージを持っていましたが、中身は季節と時間をめぐってきた記憶がにぎやかに混在しています。

アップルパイや焼き林檎にクリームやアイスクリームをのせて暖炉の前でいただいたらさぞおいしいだろう、そんな光景を勝手に想像していた頃、2018年のシードルがそろそろ飲み頃ときき早速オーダーしました。若いころをパキスタンで過ごした奥様が考案した、しょうがやカルダモン、シナモン、ナツメグを加えたリンゴのジャムと一緒に。

林檎の誘惑に負けるのはアダムとイヴ以来まったく変わっていないのです。(光加)

今月の花(十月)桐の実

caffe kigosai 投稿日:2020年9月21日 作成者: koka2020年9月22日

「あれは 桐の花?」「そうみたい。桐の花ではないかしら」
パリから1時間と少しのフライトで降り立った街リヨン。いけばなの友達とオペラハウスに向かう途中の事でした。見上げると7~8メートルもあろうかという樹に、薄紫色の花が緩い弧をえがいた枝の先にびっしりとついていました。リヨンは石の建物が連なる堂々とした街です。その中の小さな公園の、釣鐘型の優しい薄紫の花をつけた立派な木の佇まいを今でも時々思い出します。

桐は成長が早く、夏に高いところに咲く花は花屋さんに運んでくるまでに落ちてしまうので作品としていける機会はほとんどありません。いけられるのは、茶色い短い毛が集合したようなビロード状の萼に包まれた丸い蕾が付く秋のはじめからで、長さ20センチ以上になる卵型の葉はやがて落ちていきます。この蕾は実と間違われることがあります。実は先がツンと尖っていて初めは緑色、そして茶色から褐色となり先が割れると中には細かな種が潜んでいます。枝に同時に実と蕾が付くことで、家が代々続いていき、子孫繁栄を表しているようだということで慶び事にも使われます。。

かつては女の子が生まれたら、お嫁に行くときに桐の箪笥を持たせるため桐が植えられました。下駄や大事なものを入れる箱、琴や琵琶などの楽器などが作られるのも桐が軽くて火にも強く丈夫だからです。

日本の家紋には様々な桐の紋があり、私の着物の紋は五三の桐。500円玉を裏返せば桐があり、先だって新首相の会見の時も演台に桐の刺繍がされた布がかけられ、総理府の印となっています。

清少納言は『枕草子』の中で中国で鳳凰がとまる格式の高い木として桐をあげ、『源氏物語』の光源氏の父は桐壺帝、母は桐壺の更衣で庭に桐が植えられていたとして、紫式部はこの名前をつけたのでしょう。

リヨンで桐の花をみて驚いたのは桐が日本あるいは東洋の独特の高貴な植物という認識を私が持っていたからでした。しかし桐の学名のPaulownia は、鎖国時代長崎の出島のオランダ館にきていたドイツ生まれの医師、フィリップ フランツ フォン シーボルトに関係しています。彼が持ち帰った日本の物の中にはたくさんの植物の標本や種があり、桐の種もその中に含まれていたのです。桐の学名はPaulownia tomentosa、英語で(princess tree)。 王女の木 また(royal paulowna)と呼ばれるのは、彼のパトロンでもあったオランダの王女、Anna Pavlova(1795-1865)にちなみ、後につけられたといわれています。
あの石の街リヨンに華麗に威厳をもって立っていた桐が思い出されます。(光加)

今月の花(七月) 合歓の花

caffe kigosai 投稿日:2020年6月23日 作成者: koka2020年6月23日

そろそろ汗ばむ日が多くなる6月末くらいだったでしょうか。陽が落ちかけた頃、通りかかった道端の木にピンクの花がぼおっと数輪集まって咲いていました。糸のような花の元の部分は白く、いくつもの小さな扇のようにも見えました。「可愛い!」と思わず駆け寄り手に取ろうとすると「触っちゃだめよ、お花はこれから眠るのだから」と前を歩いていく母に言われました。

じつは。眠るのは花ではなく葉で、花はやっと目覚めたばかり、というのがその時刻の合歓の木の正しい情況なのです。かすかな甘い香りがあります。褐色の木を見上げると子供の私には途方もなく背の高い木に見えました。マメ科の合歓の木は成長すると10メートルにもなるものがあるそうで、この木に生る平たい豆は10センチ近くの長さになって下がります。

葉は柄を挟んで規則正しく並び、大きな柄からまた左右に対生している小さな葉は夜になると両側から中に向かって合わさります。その後垂れることから中国で夫婦円満を意味する合歓という字がこの木にあてられました。

合歓の花の白からピンクへの色のグラデーションは少し蒸し暑くなった気候のなかで、眠気を誘います。葉が閉じたり開いたりする「就眠運動」と呼ばれる行動は、葉のもとの内部の圧力の変化のため、といわれますが、今一つ合点がいきません。

私は日本だけでなく世界各地で珍しい花をいけることがありますが、合歓の木をいけたことはありません。落葉樹であり冬はいけることは不可能です。ではいついけることが出来るのでしょうか?咲いた花も繊細なのでいけておいても長く持つとは思えませんし、夜に向かって咲くなら写真に収めて残すしかないのでしょう。小葉は夜閉じて下を向いてしまうのなら、昼間に花が開いていない状態でいけるしかないのでしょうか。

花の付いた合歓のたっぷりとした葉つきの枝は、きっと夢の中でしかいけられないのかもしれません。(光加)

今月の花(六月)金宝樹

caffe kigosai 投稿日:2020年5月22日 作成者: koka2020年5月22日

坂道を上り、信号をこえて右折したその路地に入ったのは外出自粛になる前でした。

角を曲がった途端、目に入ってきたのはたわわに枝垂れる枝に鮮やかな赤い花をたくさんつけた3メートルほどの木でした。その木は隣家の塀とその家の階段の間で少し窮屈そうでした。金宝樹、別名ブラシの木はユーカリと同じフトモモ科に属し、英語でもそのままbottlebrushと呼ばれます。細長いブラシのような花の形ですが、美しい色は雄蕊の集まりで数日で色あせます。花の軸は伸びていきまた花をつけます。いけ花の稽古にこの花材が来るときは花は終わっていて、枝の周りに何個も茶色の実がついた尖った細い葉はかたいのです。初めてこの花を見たのは、パキスタンのイスラマバードの知人の家の庭にあった4メートルくらいの木でした。その後ピンクの花も見ました。

その見事な咲きっぷりを見上げているうちに私は、3日後にインスタグラムを通じてのデモンストレーションを草月の本部の教室から発信する依頼をされていたことを思い出しました。午前中、花材の予約のため連絡して訪れた馴染みの花屋さんは店を閉めていて使いたい花材はすこしだけでした。午後は近くの花屋さんも見てみようと、この街にあるチーズ屋さんに買い物がてら登ってきたのでした。

その時、2階の窓から顔を出した女性がいました。「このおうちのかた?」思わず大きな声をかけた私に怪訝そうにうなずいたその人に、間髪を入れず私は自身もびっくりするような行動にでました。
「この枝 一本いただけないかしら」
「いいですよ。今降りていくから」
その方は何と鋏をもっておりてきてくださり、花がいくつもついている長い枝を2本えらび、大きな高い枝切までもちだし惜しげもなく見ず知らずの私に切ってくださったのです。

はじめてのインスタグラムを通じてのデモンストレーションは日本ばかりでなく、チュニジア インド アメリカ フィンランド ドイツ イギリス 南アフリカ など予想をはるかに超える国の方達からも反応がありました。こんな時期に花をみて癒されたというツイートが画面上にハート印と共にたくさんわきあがりました。金宝樹をいけながら語りかけた入手のいきさつは面白かったといってくださる方もあり、坂の上の金宝樹は世界の花になりました。

私にとって今年一番印象に残るのはこの花ではないでしょうか。(光加)

今月の花(五月) 鉄線

caffe kigosai 投稿日:2020年4月20日 作成者: koka2020年4月20日

初夏の風に「鉄線」の花が気持ちよさそうに揺れています。「クレマチスでは?」と思われる方もあるでしょう。キンポウゲ科センニンソウ属の学名がクレマチスで、「鉄線」や「風車」はクレマチスが属する種の名前です。「現代いけばな花材辞典」によると、「鉄線」は安土桃山時代にはすでに中国から渡来しており、原種の白い花は先が尖った花弁が六枚。また、日本や大陸の一部に自生していた「風車」は元は白や薄紫の花弁が八枚で、江戸中期にはすでに栽培されていたそうです。

今では花びらが四枚、六枚、八枚のもの、また色も白の他、紫、ピンク、ブルー、赤、黄色など交配された園芸種が数限りなく生まれています。固く細い茎をもち、天を仰いで平たく花びらを広げるものや八重咲きのもの、また、ヨーロッパや中央アジア原産の真直ぐのびた茎に小さなベルのような花が下を向いて咲くベル鉄線のような種類も花店でみかけるようになりました。

半世紀近く前、アムステルダム郊外の運河の多い街に知人の友人を訪ねた時、小さな堀を渡る自宅の玄関に何十と花をつけた薄紫のクレマチスが茎をぐるぐると鉄の線の円柱にまきつけて咲き誇っていました。日本ではまだそんな光景は見たことはありませんでした。花が盛りのころ、静岡県三島市のクレマチスの丘に立つとその時のことを思い出します。

クレマチス類を長くもたせるためには、茎が固く細いものは必要な長さに切った後、切り口をたたいて水にたくさん触れるようにします。「いける時は数が多いと茎をたたく時間がもったいなくて、奥歯で噛んだものだよ」と昔、お花屋さんの番頭さんが教えてくれました。

せっかく水が上がっても花弁はやがてはらはらと一枚また一枚と散っていきます。花が散った後に残す種も個性的です。属名になっているせんにんそう(Clematis temflora)は四枚の白い小さな花弁があり、終わって花柱の先につく長い毛状のものが仙人の髭に似ているからという説があります。

クレマチスはそれぞれ独特な実をつけます。髪を振り乱したようなもの、台風が移動していく図のような右周りや左回りのものもあります。日本や大陸に生育する「風車」の名前は、ふっと花に息を吹きかけたり、風が吹いた時を想像した命名と思っていましたが、たくさんの実の形からも名づけられたかもしれず、どちらにしても名を考えた昔の人の発想に大いに共感したのです。(光加)
 

今月の花(四月) 山葵

caffe kigosai 投稿日:2020年3月24日 作成者: koka2020年3月24日

お取り寄せで利用する修善寺の湯葉やさん。湯葉をひきたたせる山葵は葉つきのものを注文します。やわらかい曲線を描く茎についている薄緑の葉が、春の陽のぬくもりを感じさせます。山葵はアブラナ科に属し、緑の葉に映える小さな白い花は同じアブラナ科の菜の花に似ています。

山葵田のまわりは空気も爽やかで、流れ行くせせらぎの音に思わず耳を澄ませます。生育には豊富な伏流水のような清らかな水を必要とするのです。この環境の中で育っていく山葵はあたりのすべてを浄化し、食用すれば殺菌作用があるのは当たり前と思えてきます。山葵田で山葵を育てるのには十~十五度あたりの一定の温度が必要で、暑ければ日差しを遮るなどして育てます。

「お子さんには山葵はぬいときましょうね」と寿司職人が声をかけます。つん、と鼻に来る山葵は子供には刺激が強く食べさせてはもらえません。いわゆる(さびぬき)ではないお寿司がいただけるようになった時、お蕎麦にはなくてはならないものとなった時、山葵漬と暖かいご飯の組み合わせはやっぱりいいと思った時、金気を嫌うといわれているのでセラミックの器具を使って山葵をおろせばこれでやっと通な大人の仲間入りという気がしたものです。

山葵とひとくくりにしますが 清流が育む沢(本)山葵に対して畑山葵があり、これは水を使わない栽培方法で畑でつくられるということです。

山葵漬に代表されるように山葵は根はもとより葉、花、茎も食べられる日本原産の世界に誇れるハーブのひとつです。世界各国のシェフも「WASABI」と日本語をそのまま使います。日本の国際線のコンコースではチョコレートをはじめとして、山葵入り、または山葵風味と書かれたスイーツや食品が外国人にも人気です。

日本のお土産は何がいい?と聞くと、長い間の門下生であるフィンランド人のリーサは「チューブ入りの山葵マヨネーズ」といって私をびっくりさせました。現地にも輸入されているけれど日本から直接のほうが賞味期限が長いものが手に入るので、ということでした。ホースラディッシュでは代用できないピリッとした独特な味が素晴らしいというのです。リーサは続けて「重ければ山葵の味付け海苔ね」。時には外国人に教えられる、日本の味です。(光加)

今月の花(三月)花蘇芳

caffe kigosai 投稿日:2020年2月21日 作成者: koka2020年2月25日

花蘇芳は葉が出る前の枝にびっしりと紅紫の花がつきます。一輪は大きくても二センチほどですが、満開を迎えた時はひしめきあって咲く花たちのさざめきがきこえてきそうです。

春も浅い頃、固そうな茶色の蕾の塊に気づきます。前年の葉が落ちたところや古い枝のもとにかたまってしがみついているかのような姿に、もしや小さな昆虫の卵かしらと思ったものです。

花芽が膨らんで蘇芳色の花弁の先を見せる時、春は一気に進んでいきます。花が終りにさしかかる頃、花の間から葉が出てつややかな緑のハート型の葉へと成長します。春の終りには花がすでに豆になっているものもあり、さやえんどうのような五~六センチの平たい豆がさがります。

同じマメ科の花、たとえばスイートピー、萩の花、エニシダの花などを想像してください。これらの花は蝶形花と呼びますが、花蘇芳の花の場合は上の中心にある花びらが両側の花びらより内側にはいっています。

花蘇芳の花の色は同じマメ科の蘇芳の木の枝から採れる染料の色に似ているため「花」蘇芳と呼ばれます。本来の蘇芳の花はこの赤紫の色ではなく黄色いのだそうです。

十二単の重ね(襲ね)の色の中に、何通りも他の色との組み合わせがある蘇芳の色ありますが、染料をとる蘇芳は花蘇芳とは別のものです。花蘇芳が中国からもたらされたのが十七世紀末といわれていますので平安時代にはなかったものです。蘇芳から採れる染料の色に花の色が似ているので名づけられたのでしょう。

花蘇芳は同じ形の花で白い花をつけるのもあります。いける時は注意をしないと手を触れると花がぱらぱらと落ちてしまいます。水揚げも枝の元に割りをいれて長持ちさせます。

そのほか 花がやや小ぶりの北米原産のアメリカ花蘇芳もあります。また十メートル以上の高さにも成長する西洋ハナズオウは英語や他のいくつかの言語でも「Juda’s tree」、ユダの木と呼ばれます。キリストの十二人の使徒の中でキリストを裏切ったユダがこの木の下で亡くなったということからつけられたそうで、花も花蘇芳に似ている愛らしい西洋ハナズオウには迷惑な名前です。(光加)

今月の花(二月)山椒の芽(木の芽)

caffe kigosai 投稿日:2020年1月21日 作成者: koka2020年1月22日

山椒は日本の代表的なハーブのひとつです。春は葉、そして秋に取れる実も料理に使われます。

ミカン科の山椒の木は山の中で育つと高さ三~四メートルにもなり、実や葉は口に含むとほろ苦さとともに柑橘系の清々しい味と香りがひろがります。鮮やかな緑の葉を料理にあしらうと、画竜点睛のごとく見た目も引き締まり、料理の格まであがるような存在感があります。葉が育ちすぎると風味が落ちてしまうため、新芽の頃の葉が好まれます。

ある時、長くロンドンに住んでいる知人の家に日本の方々が集まりました。その一人がなにやらプラスチックの容器のふたを開け「お土産!」といって取り出したもの。透明なフィルムにくるまれた湿った紙を取り除くと、中からは瑞々しい山椒の新芽があらわれました。

「家の庭にあるのよ。やっと葉が出て使えるわ」という彼女に、ロンドン在住の人たちから「いいわね!」とうらやましそうな声があがりました。新鮮な木の芽は外国では入手が難しいのでしょう。

「今日はばら寿司だけど折角だから使いましょう!」という声に、彼女は葉の一枚を手のひらにとってパチンとたたきました。かすかなレモンのような香りがたちのぼりました。

そのとたん私の頭の中に、このパチンという音をたてる動作が面白くて自分もやってみたいとせがんだ頃のことがよみがえりました。すり鉢で木の芽をすり、白みそを加えて筍とあえる時「雑にかきまわさないのよ、そっとね」と言われたことなどが次々と浮かび上がってきました。母もいなくなり、そんな料理からはすっかり遠のいているレシピのあれこれを英国で思い出したのです。

手早く香りを出すというこの方法は、家庭ならでこそ許されるのかもしれません。それにしても人の手でたたかれてこそ実力を発揮する葉やハーブはほかの国の料理にもあるのでしょうか。イタリア料理などに使うバジリコや東南アジアの料理ではパクチーなど、そういった使い方は聞いたことがありません。

いけばなには登場することのない山椒の小枝を、料理に添えられるようなごく小さないけばなにいけてみたい。この時の音からまたひとつアイデアを頂いたのでした。(光加)

今月の花(一月)寒牡丹

caffe kigosai 投稿日:2019年12月21日 作成者: koka2019年12月21日

そのあたりほのとぬくしや寒牡丹  高浜虚子

寒牡丹はもともと一年に二回咲く品種を、秋から冬に美しく咲くように作りあげたものです。晩秋、外では大きな花がだんだんと少なくなる中、公園などで藁囲いされた寒牡丹が咲いていると、そこだけ陽だまりが出来ているようです。初夏に咲く牡丹に比べると、丈は短めで葉は極めて少なく、花も少し小ぶりです。原産地が中国の牡丹はtree peony と英語で呼ばれるように木ですが、これに対して芍薬は草の部類に属します。秋、落葉樹の牡丹は葉をおとしていきますが、寒牡丹の茎はいかにも固そうで、その中で花を咲かす努力がされている秘めた力を感じさせます。

別名花王という名がいかにもふさわしい牡丹、その薄ピンクの一輪を生けたのはある年の五月、テレビの収録の時でした。この咲き加減なら大丈夫だろうとまだ芯も隠れているあでやかな一輪をえらびました。収録が終わり、はい、お疲れさまでした!とデイレクターから声がかかった途端、薄い花弁がはらりと一枚、また一枚と散りだしたのです。スタジオのライトの熱もあり、私が知らない間に急速に咲いた牡丹はタイミングを見ていたのでしょうか。

牡丹散つてうちかさなりぬ二三片 与謝蕪村

そんな思い出がある牡丹ですが、牡丹の生産で有名な島根県の大根島の冬牡丹をいける御縁をいただきました。十一月末の東京での展覧会の花材として現地から送ってくださるというのです。花を持たせる方法は?と聞くと初夏の牡丹のように切り口を炭化するまで焼く必要はなく、水の中で切りなおしただけで良いとのことでした。展覧会の二日間をめがけて調整して一番きれいな状態で咲かせるよう栽培してくださった切り花は、花弁の元が濃紅色の黄色いもの、そして白いものが合計十本届きました。

完成した作品に近づくと初夏の牡丹と同じく香りが漂っていました。黄色い花は大きく咲いたのですが すぐに花弁はくしゃりとしてしまいました。白の花はもうこれ以上は開けないと言わんばかりに黄色い芯を見せて反り返り、青々とした葉もしっかりとつけ、二日目が終わるまでその状態でした。これが人の手をかりて温室などで温度調整を重ねてしあがった冬牡丹です。

冬のこの時期、季節の到来を人工的に調節して花に錯覚をさせた冬牡丹と外でたくましく育った寒牡丹の花の違いを見くらべたくなり、花屋さんではなかなか入手できない寒牡丹を新しい年には生けてみたいという思いに駆られたのです。(光加)

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • • 第二十八回 2025年7月19日(土)13時30分(今月は第三土曜日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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