大阪の北部に箕面(みのお)があります。阪急電鉄の宝塚線特急で、梅田駅から石橋駅へ行き、箕面線に乗り換えて終点箕面駅まで行くのに30分ほどという便利な場所でありながら、箕面山周辺に箕面国定公園があり、ハイキングコースにもなっている自然豊かな土地です。西国街道が通っていたので、江戸時代には箕面地方の主要な村には本陣や旅籠屋が立ち並んでいたそうです。昔から滝と紅葉の名所として知られていました。
夏目漱石の『彼岸過迄』に次のような文章が出てきます。「僕は昨日京都から大阪へきました。今日朝日新聞にいる友達を尋ねたら、その友人が箕面という紅葉の名所に案内してくれました。・・・渓川があって、山があって、山の行き当たりに滝があって、大変好い所でした。」
漱石が述べているように、箕面駅前から渓流沿いに滝道を40分ほど歩くと箕面大滝があります。落差33メートルで古くから名瀑として知られています。役行者が修行中に瀧神に出会った場所とされ、松尾芭蕉も見物したようです。元禄5年夏の連句「破風口」(破風口は家屋の両側面の屋根の切棟がさがって山形をしている板のあたり)で、「箕面の滝や玉を簸らん」と詠まれています。(『芭蕉連句集』岩波文庫参照)簸るは、箕で穀物などをふるうことです。
後藤夜半が「滝の上に水現れて落ちにけり」と詠んだのも箕面の滝です。小学生のころ、遠足でこの大滝に行きました。迫力満点の大滝を飽かず眺めていたものです。
箕面は紅葉の名所で、11月末から12月初めまでが見ごろです。お土産の菓子に「もみじの天ぷら」があります。1300年前、箕面山で修行していた役行者が、紅葉の美しさを称え、修験道場を訪れる旅人に灯油の油(菜種油)で、もみじの天ぷらを作ったのが始まりと言われています。
紅葉の季節に、大切に育てられた「一行寺楓」(5~9裂)のもみじの葉を一枚一枚手拾いで収穫し、水洗いをした後、変色を抑え、アクを抜くため塩漬けにし、一年置きます。その後、流水で塩抜きしたもみじの葉に、小麦粉、水、砂糖、ゴマで作った衣をつけて揚げます。一枚20分もかけて丁寧に揚げ、しっかり油を切ります。かりんとうのようなかりっとした食感で、もみじの形がかわいい箕面の名物です。塩漬けのもみじを使うので、一年中食べられますが、紅葉を見ながら、もみじの天ぷらを食べるのは格別です。
紅葉狩もみぢの天ぷら翁にも 洋子