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カテゴリーアーカイブ: 今月の花

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今月の花(七月)ブルーベリーの実

caffe kigosai 投稿日:2023年6月20日 作成者: mitsue2023年6月20日

「やっぱりブルーベリーパイにするわ」という親友に思わず「私も!」とウエイターを振り返りました。久しぶりの東京の老舗ホテルのカフェ。ブルーベリーパイはこの店の名物です。

パイの表面の交差したパイ生地の下に見える濃い紫のブルーベリーのフィリングは約半世紀前の開店時から同じレシピで作られているそうで、すこしシナモンが入り酸味とのバランスもよく、甘すぎないところが私たちのお気に入りです。

子供の頃はそんなパイがあるとは全く知らず、ましてやブルーベリーが何なのかもわかりませんでした。いけばなを初めた当時も花材として登場することはなく、ここ数年いけられるようになりました。

今でも都会ではスーパーに売っている実は別として、花屋さんで鉢植えで売っているものを見かけるくらいでしょう。一方長野県をはじめ、ブルーベリーを作っている農家は各地にあり、いちごやリンゴ、ブドウなどとならびブルーベリー狩りを売り物にしている生産農家もあります。

ブルーベリーはツツジ科です。枝に鋏を入れようとすると思ったより硬く、濃い茶色のつつじの枝も切る時は一瞬抵抗されるような感触が手に残り、まさしくブルーベリーはツツジ科だということが納得できます。先が少しとがった葉は紅葉します。たくさん種類がありますが、食用は主に三種類です。

「これは何ですか?」先日のお稽古での初心者からの質問は、新緑が、花屋さんの言葉では少し(固まってきた)、つまりしっかりしてきた状態の葉のついたブルーベリーの枝を前にした時でした。

5~6ミリほどの艶なしの薄緑の実は、多いところは二十個ほどが先端の葉の下についていました。「目にいいというブルーベリーは知っているけれど、枝についているのを見たのは初めて」だそうで「この枝をこのまま陽に当てておくと食べられるような濃い紫に熟すのかしら」と彼女はしばし見入っていました。それは無理かもしれませんが 挿し木で根付くことは多いようです。

「せっかくだから実を目立たせるために葉をすこし取ってみたら」と私はいけかたをアドバイスしました。

早くもこの季節に小さな実をつける植物は、秋の実とはまた違いこれから先の自然の中の日々を想像させる楽しみがあるような気がします。太陽の光をため込みつつ豊かに成長していきやがて濃い紫の実のなる時を待つことにしましょう。(光加)

今月の花(六月) 山法師

caffe kigosai 投稿日:2023年5月16日 作成者: mitsue2023年5月16日

「あら。きれい!!!」生徒さんが思わず声をあげました。連休の後のはじめてのお稽古で、花材を包んであった古新聞をとるとそれは山法師でした。

山法師は、五、六月になると長さ3~6センチの十字の白い苞を付けた花が多数咲き、その枝と濃い緑の葉とが重そうに重なり、こんなとこにあったのかとその存在をあらためて知らせてくれます。

初夏には真白な苞の花を楽しみ、秋に実る直径1.5センチほどの赤い実は食べることができ、紅葉も美しいため、並木としてまた庭木としても植えられます。

十字に見える4枚の花びらのようなものは苞で、横は細く先はとがっています。中心についているのが小さな花の集合体で、これがやがて一個の丸い実となります。小さなサッカーボールのようだと書いてある本がありましたが、くわの実に似ていて山法師の別名は山ぐわです。

「初めて見ました!」という生徒さんの「なんだかこの花(苞)、手裏剣みたいですね」という言葉に笑ってしまいました。都会の花屋さんで花材として届けられるのはごく稀です。

少し前に咲く、同じミズキ科でミズキ属の花ミズキは山法師と似ていますが、苞の形が丸く、先端が少しへこみ、花が出てから葉が出ます。山法師は苞が目立つ頃には葉がすでに茂っています。よく目にするのは白い苞ですが、花ミズキと同じくピンクの苞もあります。葉は枝に対生なので枝を手に取ると表と裏がはっきりしていて、いけるときは枝の方向が決めやすいのです。

大好きな山法師を私も家に持って帰りました。十分観賞した後、花器から引き上げようとすると 苞が柄を付けたままいくつかポロリと落ちました。風が吹いていたらどんな飛び方をするのだろうか、手裏剣ほどくるくると鋭くは飛ばないけれど、先がとがった苞の形はそんな命名もありかもしれません。名前の由来のひとつには比叡山の法師がかぶっていた白い頭巾にちなんだ、というものがあります。

その名前からすると黙して動かずといったイメージを与える山法師ですが、季節が到来すると目に涼し気な苞をかざしてにぎやかににおしゃべりを始める木なのです。(光加)

今月の花(五月) 黒花蝋梅

caffe kigosai 投稿日:2023年4月19日 作成者: mitsue2023年4月19日

蝋梅科の植物はさほど多くはなく、その中で見かけることが多いのは年末から咲き始める黄色いコロンとした蕾を持つ蝋梅でしょう。葉の出る前にぽつぽつと付く蕾が開き始めると、その甘い香りにもうすぐ春が来ると実感するのです。

私にとって楽しみなのは季節もすすみ、そろそろ花木も終わりそうな頃に現れる蝋梅科の黒蝋梅です。

同じ蝋梅科でも属がちがい、黄色の花が咲くのはロウバイ属、チョコレート色の花をつける黒蝋梅はクロロウバイ属です。アメリカ蝋梅ともいい北アメリカが原産地。日本に入ってきたのは明治時代だそうで、庭木などに植えられました。花のまわりに小さな葉をつけ、枝はわずかな曲線を描く黒蝋梅をはじめて見た時、蝋梅と近縁とは思いませんでした。

花の形と色が楽しめるのは新緑から梅雨に向かっていく頃です。花店で見かけることはあまりありません。お稽古の花材としてめずらしいのは、この木は高さもなく、主に庭木として植えられているということでしょうか。 

たまたま手にすることがあると、どんな花にも相性のよい雰囲気を持つこの花にいろいろと違った花材を合わせてみたくなります。何本も使っていけるのもよし、アクセントに登場させるもよし、と時間を忘れてしまいます。

学名はCalycanthus fertilis といい、主に実に毒があります。Calycanthus という言葉から推測されるかもしれませんが、カリカンチンという物質が葉や枝にあり、実は特に気を付けなければなりません。やはりきれいな花を咲かせるものはこうして自分の身を守るのだ、という事実を思い起こさせます。

毒があってもやはり魅かれるこの花、年に一回もいけられないこともあるので、入手した時はいつにもまして心を込めていけあげ、あとは必ず手を洗ってこの季節ならではの花を楽しみます。

都会のマンション暮らしでは鉢に植えても育つかどうか、まして庭に植える楽しみは望めません。「先生用」とマジックで書かれた古新聞に包まれた数本の黒蝋梅は、そのことを知っている花屋さんのうれしいプレゼント。感謝しながらあれこれと棚から花器を引き出しては何にいけるか決めかね、豊かな時が過ぎていくのです。(光加)

今月の花(四月)桜

caffe kigosai 投稿日:2023年3月21日 作成者: mitsue2023年3月21日

数あるバラ科の植物の中で、日本人にとってこれほど特別な意味を持つ花はないでしょう。東京では、靖国神社のソメイヨシノの標本木が五輪以上開花すると開花宣言がだされます。他の国、他の花では聞いたことがありません。

満開の花を見上げて楽しむ人々、散りはじめると東京のあちらこちらで見られる見事な桜吹雪、やがて桜前線は北に上っていきます。そんな報道に接すると、殺伐とした世の中をしばし忘れてしまいます。桜を眺めている人たちの解き放たれたような表情は自分にも移ってくるようで、この時期には近くの桜の名所、千鳥ヶ淵を歩くのが楽しみです。

六年前の桜の頃、詩人の大岡信先生が亡くなりました。何人かの親しかった方たちとご自宅に向かったのは次の日でした。

お体の調子を崩されてまもなく、先生は故郷に引越されました。それまで親しくしていただいた方たちが折に触れては訪れ、桜の季節になるとお花見と称して先生の周りを取り囲み、今の文学の話題や仲間の懐かしいエピソードなどを話して和やかに過ごしました。

その日、周りの杉林の向こうに陽は落ち始め、あたりはだんだんと暗くなっていきました。黒紋付に着替えられ、永遠の眠りについた先生の周りで時々静かに言葉を交わしていた古くからの編集者の一人が、窓の向こうを見ながらつぶやきました。

「西行だね、先生は。ほら、桜が」

どんな光の屈折なのか、小さなサンルームのガラス窓に写りこんだ花の影がもう片方のガラス窓に反射していました。目を凝らすとそれは実際の花ではなく、八分咲きになった桜のピンクの花が何輪も重なってぼおっと映っていたのです。

お住まいの近くには大きな桜が何本かあり年々枝も張りだしてきて、サンルームのガラス窓にも届く桜の枝が何本か花を咲かせていました。集まった方たちは「本当だ」といってその窓ガラスに映った桜に見入っていました。

願わくば花の下にて春死なむ
        その如月の望月の頃

西行のこの歌は、たくさん書かれた先生のご本の中に幾度となく取り上げられています。この夜は満月ではありませんでしたが一週間もしないうちに満月。まさに望月の頃、でありました。

間もなく周りが闇となると、その花の影は消えていきました。先生の宇宙からのメッセージに桜の精も寄ってきたのでしょうか。

さまざまの事思ひ出すさくらかな 芭蕉

永遠の一瞬に立ち会った気がして、芭蕉のこの句に共感する思い出が私の中にまた一つ加えられたのです。(光加)

今月の花(三月) ミモザ

caffe kigosai 投稿日:2023年2月13日 作成者: mitsue2023年2月13日

ロンドンより(Kさんの作品)

ドイツより(Uさんの作品)

1月末のお稽古で花屋さんからの花材の中に、一枝のミモザアカシアがありました。40センチ程の枝の丸い小さな黄色い花が集まった房はそこだけ太陽の光を浴びたような鮮やかさで、やっと春が来ると心が解き放たれたような気がしました。

コロナのため海外に行けなくなった私は現在、世界の国々の門下たちと画面を共有しながら作品を講評するクラスをしています。メンバーは、長年日本のいけばなを勉強し先生の資格を持っている人ばかりです。

コロナ前はたびたび来日してクラスに参加したり、こちらから外国へ出向いてワークショップをしていたメンバーは、日本に一時帰国でお稽古に復帰したという方もいます。まさかこんなに長くこの方法でのレッスンが続くとは思いませんでした。

メンバーの作品に「少し枝を前にもってきて」とか、「花を思い切って短くしましょう」などのアドバイスをしながらレッスンを進めます。英語で話しながら、しかも画面を通した講評がベストではないことは承知しています。でもマイナスな面だけではありません。

1月末、このオンラインのクラスのテーマの一つは(花を主に使っていける)でした。開始数時間前に送られてきた写真には、2人の生徒が色鮮やかなミモザをいけていました。ロンドン在住の生徒と、ドイツのアーヘンの生徒の作品です。

ロンドンのKさんはミモザの葉をすっかり取って、黄色の塊を作っていました。画面上に集まったメンバーが早速、「ずっと寒かったと聞いているけれど、ロンドンでは今ミモザは外に咲いているの?」との質問に「花屋のスタンドにありました」という答え。ドイツのアーヘンに住むUさんは「私も花屋さんで見て、ついほしくなって」とのことでした。

「ミモザはオーストラリアの国花なのよ」と入ってきたのは、南半球のオーストラリアはシドニーのSさん。「でも、今はないけど」と、画面の向こうで彼女は「だって外は暑くて暑くて」と白いタンクトップの肩をすくめました。オーストラリアは夏なのです。

Sさんはたくさんの門下にいけばなを教えていることもあり、いつも斬新な作品を作ります。「ミモザをいけたあなたの作品も見てみたい、写真ある?」と私は聞きました。すると、ミモザは何種類もあり、いつも周りにあるので当たり前すぎて作品はないかもしれない、という返事に他の参加者一同は驚きました。

マメ科のミモザアカシアには1350近くの種類があり、そのうち1000種類近くがオーストラリアにあります。冬に花が咲くものが960種類もあり、残りは他の季節に咲いている、と言われれば確かにこの国の方には珍しくないかもしれません。

この国花は、2000年のシドニーオリンピックの勝者に送るブーケには採用されませんでした。アレルギーを起こす人がいるそうで、実は私もその一人。春が来てミモザがきれいと細かい葉を取りだしたとたん、目がかゆくなってくるのです。

ミモザアカシア、英語名ワットルについてはいろいろと興味深い話があるとのSさんの言葉に、北半球の私たちがますます興味をひかれたのも、オンラインならではの楽しい展開なのでした。(光加)

今月の花(二月)紅梅

caffe kigosai 投稿日:2023年1月19日 作成者: koka2023年1月20日

小さな庭の付いた家に引っ越した時、母は背の丈ほどの紅梅を植えさせました。

塀の向こう側は隣家の台所に面しているらしく、小窓が開いている時は洗い物の音がこちらに聞こえてきました。塀の近くに植えた梅の枝が塀を越したら、隣の台所からも枝先につく花が見えて楽しめるだろうと思ったものです。

ところがある時その家から火が出て、延焼は免れたものの塀をとうに越していた紅梅は煙のせいか真っ黒になっていました。庭掃除をしながら「もうすぐ咲くわね、この蕾」と楽しみにしていた母が「焼けちゃったわ」とがっかりしていたのを覚えています。紅梅は切られ、そのあとに新しい木が植えられることはありませんでした。

お稽古の折、ごくたまに花屋さんから紅梅が届けられることがあります。お願いしている花屋さんは、私の属する流派の本部に代々花材を収めている花屋さんです。私も親先生からの付き合いもあり、時たま珍しいものが一束だけはいっていたりするのです。

紅梅の枝をいけることになった生徒さんには「いまどき都会の真ん中で紅梅をいけるのは贅沢よ」と、独特の枝ぶりや花の付き具合、幹の形をよく観察していけてねとアドバイスをします。

紅梅の枝をのこぎりで切ると、髄がピンク色になっているものが多く見られます。稽古の後、紅梅の太い枝を切った残りが他の枝とともにバケツに捨てられているのを見かけると、しおれて黒ずんでいくのが比較的早い花そのものより、髄の色で紅梅を確認することができます。

白梅は万葉集に一番多く登場する植物とされています。一方紅梅はもっと後になってから文献に登場し、「東風ふかばにほいおこせよ梅の花・・・」と菅原道真が詠んだ梅は、居宅を「紅梅殿」と呼んだところから紅梅ではないかと言われています。

源氏物語の第四十三帖は「紅梅」。紅梅大納言の一家の話で、中の記述にも梅の一枝を折りて・・・というところがありますのでこれも紅梅なのでしょうか。

紅梅には、年末や新年に咲く(寒紅梅)、その名の通り他の紅梅より大きな花を咲かせる(大盃)、中輪の(東雲)などがあります。(佐橋紅)や(紅千鳥)とはどんな紅梅なのでしょう。

今では園芸種も多くみられ、紅色の花で八重咲の野梅系は(八重寒紅)、紅梅のようだけれどよく見れば紅色のほかに白や絞りの花も付いている三月頃に咲く梅は(思いのまま)。このどこか艶っぽい響きの名は、白、紅、白に紅の斑入りなど、人が梅を思い浮かべた時のまさに思いのままの色に梅が答えてくれると言っているのでしょうか。

寒さが少しやわらいだら、今年は梅林をゆっくり歩いてみたいと思います。(光加)

今月の花(一月)結び柳

caffe kigosai 投稿日:2022年12月17日 作成者: mitsue2022年12月19日

生徒たちはお正月花の稽古に松や千両などの花材のほかに、しだれ柳をいけることがあります。柳は緑のほかに金や銀に色を吹き付けられたものもあります。紅白の餅を枝につけた餅花に仕立てられた垂柳は東京でも近頃手に入れることができるようになりました。

あまり柳が長すぎてお稽古でてこずっていると、結び柳にしてみたら?とその長さを利用してくるりと円を作って結ぶことも提案します。中央の枝から出ているたくさんの小枝で小さな円を作ってもいいし、一からげに枝を束ねて結ぶこともあります。

昔ある料亭で、大広間の床柱にしだれ柳が白玉椿といけてありました。大きく結ばれた輪がダイナミックで、床の間に引きずるように先がたれ下がった柳の姿は、しだれ柳の中でも特に長い、六角柳だったでしょうか。

ふすまが開けられると、日本髪で黒紋付お引きずりの芸者さんが数人現れ、舞がはじまり、終わると「おめでとうございます」と主卓に寄ってきました。青竹で作られたお猪口に青竹のひしゃくで床の間を背にした主客からそそがれたお酒を水白粉が塗られた肌が薄いピンクに透き通る手で受けると、くい、と飲みほしました。かんざしは稲穂と白い鳩。その年初めての席の主客に鳩の目を墨で黒黒と入れてもらうのがしきたり、とききました。

「それは松の内だけね。芸者衆のそういうかんざしは」と、昔は粋筋だったと思われる方が教えてくださいました。

硯と筆が持ってこられ、主客が鳩の目を丸く入れていました。主客はひげ紬という、糸をわざと出して織り出した珍しいものでした。そのあとお姐さんたちは挨拶して裾を引きずりながらそそくさと引き上げていきました。次のお座敷があるのでしょう、新年だからかけ持ちかしら、と思ったことが記憶に残っています。数十人いたその晩のお客の中で最年少のひとりだった私は、見られない世界を見たと思いました。

格式の高い料亭の床の間の大ぶりな結び柳から、いけばなの生徒たちが輪に結ぶささやかな柳まで、新しい年がよい年であるよう、結ばれた線をたどれば終わりのない円のように平穏無事な日々が末永く続きますように、丸く収まりますようにという願いをこめ、結び柳として結ばれます。

どうか、皆様新しい年がよい年でありますように。(光加)

今月の花(十二月)寒木瓜

caffe kigosai 投稿日:2022年11月20日 作成者: mitsue2022年11月23日

本来は別の季節のものでも冬や寒とつけば冬の季語として存在する植物があります。たとえば寒椿、冬薔薇、寒木瓜などです。 この季節は実をつける植物は多いのですが、一方花木は少なく、そんな中、寒木瓜(冬木瓜)の花は鮮やかな色でいけばなに賑やかな雰囲気をもちこんでくれる大切な花材のひとつです。

国賓として来日するゴルバチョフ大統領夫人に、いけばなのデモンストレーションをお目にかけることになったのはもうずいぶん昔になります。

観客にむかって何もないところから花材をいけていき、作品が出来上がっていく過程をみせる、というデモンストレーションを大先輩の師範がなさることになりました。夫人の分刻みのスケジュールと聞いた大先輩はいけることに専念したいということで、若かった私が説明係となりました。ゴルバチョフ夫人は、季節の花材を使った作品が次々といけられていくのを、VIPをお迎えする部屋のソファーでくつろいだ様子でご覧になっていました。

木瓜が登場した時、夫人は身を乗り出し(これはなんという花ですか?)と質問をなさり、すぐにロシア語通訳から名前が伝えられました。花の色は淡紅のほか白、紅白の咲き分けのものもあること、いける時は棘に気をつけてーーなどと説明したと記憶しています。花屋がここぞと用意したその木瓜は枝も太く、何より緋色の大きな花は生命感にあふれていました。

会が終わり、夫人のあとから大先輩をはじめ、通訳と私がイヤホーンをつけたSPとエレベーターに乗り込みました。扉が閉まるとライサ夫人が、もう一度あの赤い花の名前を日本語で知りたいというので、(ぼ、け!)私はゆっくりと発音しました。下降するエレベーターの壁に少し寄りかかりながら、ライザ夫人は( ぼ、け。ぼ、け。)と自分の胸にしまいこむように二回繰り返しました。

エレベーターが一階に到着し、扉が開きました。玄関のガラスの向こうにいた警護のSPたちは、夫人を確認したとたん、はじけるように夫人の乗る車の周りを取り囲み低い姿勢で、集まった人々と四方に鋭い視線を走らたのです。夫人の表情は公の人となり、車は警備の車と白バイを先頭にして一時交通遮断された大通りに消えていきました。

夫人の訃報が伝わったのはそれから何年もたっていなかったのではないでしょうか。

今、私も海外からの国賓をはじめ大事なお客様にデモンストレーションをする機会をいただくことがあります。多忙な滞在中、植物の力を借りて少しでもほっとする時間を楽しんでいただけたらーーと願うとき、あのライザ夫人の緋色の木瓜を思い出すのです。

以上の文章を書いて十年が過ぎ、ライザ夫人を本部の会館にお迎えしたのはまたその何十年も前の事になります。

今年の八月、夫君のゴルバチョフ氏もなくなりました。なくなる数年前のゴルバチョフ氏のドキュメンタリーが放映され一種の感慨をもって私は見ていました。

少し不自由になった体、周りを支えるご家族など。それでも声ははっきりとしていました。今ではライサ夫人の傍らで永遠の眠りについています。

こんなバカなことは、一刻も早くやめるべきーーウクライナ侵攻が始まった二月以来そう言っていたといわれるゴルバチョフ氏が、もう少し元気で生きていたら、たとえわずかでも世界は違った方向に進んでいたのではなかろうかと思います。

ついこの間の事、数十年前夫人をお迎えした、まさにその会館の日本間に私は他の花材とともに 寒木瓜をいけました。花は小ぶりで、白い花びらに薄いピンクが時折混じる優し気な更紗木瓜です。

あの真っ赤な華やかな寒木瓜が、夫人の一瞬解き放たれたようなリラックした表情とともに記憶の底からうかびあがり、過ぎた年月の長さを改めて実感したのでした。(光加)

今月の花(十一月) まゆみの実

caffe kigosai 投稿日:2022年10月16日 作成者: mitsue2022年10月16日

向かって左がまゆみの実(福島光加・作)

 
この秋、帯広で門下といけばなデモンストレーションをすることになりました。 現地の花屋さんに花材を発注しましたが出発直前にご不幸があり、札幌の花屋さんなら一日かければ花材を帯広に送れることから、懇意の東京の花屋さんに橋渡しをお願いしました。

 その頃、東京の私の教室には、美しいピンクの実のたくさんに付いた「まゆみ」が届いていました。ニシキギ科の「まゆみ」は、その名の様にかつては弓を作ったほどしなやかで強く、秋には薄いピンクや白の愛らしい実が付きます。その四角の実は割れてかわいらしい赤い種をみせてさがります。この性質からでしょうか、「まゆみ」は女の子の名前に付けられます。

 北の大都市札幌の市場に「まゆみ」はあるのだろうか。あれば水の入ったチューブに枝の元をいれて発送してくれれば日高山脈を越えても鮮度を保てると思い、数種類の花や葉の発注リストの最後に「まゆみ」を付け加えました。この実を秋の花や枝といけたらさぞ美しいことでしょう。

 帯広のホテルには、大きな段ボール箱が届いていました。古新聞に包まれた花材を次々と開けてはバケツに入れていると、薄い緑の葉を多数つけた70センチくらいの枝が10本でてきました。「これがまゆみ?」東京の花屋さんに確認すると、確かに札幌に「まゆみ」を注文したという返事。でも、美しいピンクの実の姿はひとつもありませんでした。
 
 気を取り直して、他の花材と「まゆみ」をホテルのシャワールームに並べたバケツに、元を水の中で切る水揚げをして入れていきました。

 翌日、この水揚げがきいてピンと新鮮な姿になった他の花材たちの中で、葉だけの「まゆみ」はすでに乾燥がはじまり下を向いていました。一昼夜水をつけないで運ぶことを想定して花材を選んだので、実の無い「まゆみ」を注文することはありえません。注文に「まゆみの(実)」と強調すればよかったのでしょうか。

 がっかりしている時間はありません。帯広出身の門下のご実家の農場に9月に下見に来た時に目をつけていて、切るのを許していただいたものがありました。さくらんぼうをつける桜の枯れ枝、エゾ松、そしてアナベルやコキア。アナベルは切るとすぐ元をたたいてミョウバンを刷り込みました。水揚げの悪いコキアは根ごと堀り、土をつけたままバケツに入れて車に積み込みました。

 広い空の下に広がる日高の山々。帯広の碁盤の目のまっすぐな道路を花材を積んだ車は会場へとスピードを上げていきます。

 「待って!!とまって!!」私の目に飛び込んできたのは道路沿いの緑の中の赤い点。駆け寄ると、それはまさに葉の中にピンクの実をさげている「まゆみ」でした。

 「まゆみよ!」「へえ?ここでまゆみなんて見たことがない」。帯広に住んでいる門下は不思議がりました。道路際の持ち主のわからない「まゆみ」の枝を数本いただきました。葉を取っていくと初々しいピンクの実が現れ、「まゆみ」はデモンストレーションのフィナーレに、千葉から送らせた青竹とともにいけられました。竹も北海道で入手するのは困難なのです。

 いけばなのデモンストレーションは帯広では初めてと聞きました。「蕎麦の茎が作品になるのだ」「自分の家の周りに植えているコキアもいけばなに使えるのね」。ご自分の名前がまゆみで、まゆみを初めて見て自分の名前を改めて考えて興味深かったという声も寄せられました。

 観客の皆さんの拍手と笑顔の中、数々の花材を提供してくださった地元帯広の皆様に心から感謝しました。

 そして、「まゆみ」は?感謝すべきは神様、としか私には思えなかったのです。「まゆみ」はわたしにとって特別な木になりました。(光加)

今月の花(十月)ななかまど

caffe kigosai 投稿日:2022年9月19日 作成者: koka2022年9月20日

東京のある会館の床の間に大きくいけられた「ななかまど」。葉は黄色がかった薄い緑からオレンジ、そして、赤へと紅葉し、直径五~六ミリほどの艶やかな実の房が葉の間からたわわに下がっていました。十月末の展覧会ではいけることはありますが、その見事なななかまどを大都会の真ん中でみかけたのは、まだ夏を引きずっている九月のごくはじめのことでした。

そのななかまどの葉に傷や痛み、枯れたところがないのは、この作品を生けた作家の方をはじめ、関係者が注意深く毎日手入れをなさっているからでしょう。それにしても、久しぶりに見るあまりにも立派なななかまど、収めたお花屋さんに、秋がもう始まっている北の地から来たものか尋ねてみました。

「これは限られた地域の荷主さんから出されたもので、気候も日当たりも山の最適な場所で、きっと特殊な仕掛けをして大事に育てたななかまどだと思う」という答えでした。もちろんそれがどこの誰なのか、その花屋さんも直接は知らず、その場所に行ったこともないそうです。実際のところ、雨が当たっても条件によっては葉にシミが生じ,葉どうしがすれる風も大敵です。葉をよく見ても水分がなくなって丸まっているものはなく、こういうのをプレミアムななかまど、とでもいうのだろうかと私は写真を撮らせていただきました。

ななかまどは早春、小さな薄緑の葉がお互いをかばうように丸まって出てきて、やがてほどけていきます。葉は奇数羽状複葉、つまり先に一枚、あとは細い葉柄に対についています。

春も遅く、緑を深めた葉の枝先についた花は五弁の小さな花弁をもち、たくさん集まって咲くので遠くからみると白い泡が吹いているように見えます。花をいける時は、花弁がはらはらと散りやすいので気を付けなければなりません。

鳥に食べられずに冬を迎えた秋の赤い実は、雪の中で、葉がすっかり落ちた十数メートルにも達する黒褐色の木肌とよい色のコントラストとなることでしょう。

ななかまどは「七度窯にくべても燃えない」と名前が付いたといわれますが、それだけ瑞々しいということなのでしょうか。名の由来には異説を唱える植物学者もいるということですが、新芽のしたたるような緑色を見ると、この名前が付くほど春の水分を吸って芽吹く美しさから来ているのかとも思います。他に雷電木(らいでんぼく)または雷電(らいでん)という名前でも知られています。

ななかまどの街路樹を最初に見たのは北海道の帯広でした。先日再度訪れたこの町で、つややかな赤、また、オレンジ色の実をつけたななかまどを見かけました。陽の当たるところは紅葉がはじまっていて、その色合いは九月に入っても収まらない東京の酷暑を一瞬忘れさせてくれました。

この十月、私は帯広では初めてのいけばなのデモンストレーションを計画しています。北海道といえば、花屋さんに枝ものはたくさん種類がありそうですが、実はそれほど多くありません。現地の出演者のお知り合いの庭などで、少し紅葉したななかまどを切らせていただき、いけることはできないかしら、さぞ美しいことだろうとひそかに思っています。

「花は美しいけれど、いけばなが美しいとは限らない」勅使河原蒼風家元の『花伝書』の言葉です。この言葉を胸に、どんな花材に会えるか楽しみにしています。(光加)

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「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

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飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
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7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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