【連中】すみえ 都 桂 良子 裕子 光尾 涼子 酔眼 雅子 みやこ 隆子 光枝
≪互選≫
都選
東京に生きて冬芽に励まされ 隆子
追羽根やはつしと返し恋仇 雅子
汐待の一人来ている雛の市 隆子
すみえ選
追羽根やはつしと返し恋仇 雅子
ふんはりと春泥に墜つ紙ひかうき 都
丁稚やうかん売つて軒端の梅三分 隆子
桂選
リビングのひとりに広き余寒かな みやこ
東京に生きて冬芽に励まされ 隆子
願かけのかはらけ投げて春を待つ みやこ
裕子選
空まさを真つ逆さまに寒の底 すみえ
着ぶくれて乗換駅に迷ひけり 良子
ふんはりと春泥に墜つ紙ひかうき 都
みやこ選
富士の背は火焔のごとき寒夕焼 裕子
山眠る長逗留の湯治宿 酔眼
追羽根やはつしと返し恋仇 雅子
涼子選
ほんたうの鬼のゐる世や豆を打つ 光枝
ふんはりと春泥に墜つ紙ひかうき 都
丁稚やうかん売つて軒端の梅三分 隆子
光尾選
空まさを真つ逆さまに寒の底 すみえ
リビングのひとりに広き余寒かな みやこ
着ぶくれて乗換駅に迷ひけり 良子
良子
ほんたうの鬼のゐる世や豆を打つ 光枝
初参り礼深くなり長くなり 光尾
次々に春泥踏んで帰還兵 都
雅子選
ほんたうの鬼のゐる世や豆を打つ 光枝
東京に生きて冬芽に励まされ 隆子
丹頂の舞ふ蓋とりて雑煮餅 良子
隆子選
願掛けのかはらけ投げて春を待つ みやこ
着ぶくれて乗換駅に迷ひけり 良子
小寒や秩父宮は着膨れて 酔眼
酔眼選
リビングのひとりに広き余寒かな みやこ
冬ぬくし島にひとりの郵便夫 良子
息白し既読スルーのスマホ閉じ 光尾
春になり昼の時間が長くなったある日。単純な情景ですが、眺めている橋がまるで幻のように感じるのは季語の力でしょう。もしかしたら、あちらから眺めるこの橋も、そして自分も幻なのかもしれません。
願掛けのかはらけ投げて春を待つ みやこ
京都の神護寺はじめ、高台にある神社仏閣などで行われる土器投げ。今では考えられませんが、東京北区の飛鳥山でも江戸時代には大人気だったとか。句は冬の終わりの土器投げ。「願掛け」という言葉が春を待つ心に通じます。見晴るかす田園にははや霞がたなびいているよう。
黒々と大地脈うつ野焼あと すみえ
草木の芽吹きを促す野焼き。「大地脈うつ」と、黒々とした焼野原に潜む生命力を力強く描き、存在感ある一句となりました。
汐待ちの一人きてゐる雛の市 隆子
「汐待ち」も「雛市」も、少し前の時代のなつかしい匂いがあります。汐待ちの船乗りでしょうか、雛人形は家で待っている娘さんへのお土産かもしれません。潮の香りのする雛市の浮き立つような気持ちが滲みます。
【入選】
テレビより砲声聞こゆ炬燵かな 光尾
原句は「テレビより砲声聞こゆ我炬燵」ですが、下五は散文のような説明になってしまいました。俳句では掲句のように「かな」が使えますので、ぜひ参考にしてみてください。ここ一年、日本人がみな感じている思いを一句にしました。
夫とゆく初めての宇治風花す 都
原句の下五は「風花に」。こちらも説明的。掲句がベストではありませんので、句の形を含めてぜひ工夫してください。「宇治」という地名が心に響く一句。源氏物語から脈々と続くことばの手触り。
はればれとマスク外して初湯かな 雅子
マスクを外してもいいと言われても恐々の日々。この「はればれ」には、心から安心して初湯を楽しみたいという願いが感じられます。
追羽根やはつしと返し恋仇 雅子
初々しい恋心、新春らしい一句です。
雑煮餅丹頂の舞ふ蓋とりて 涼子
粛々といただく雑煮椀。原句は「丹頂の舞ふ蓋とりて雑煮餅」、入れ替えただけですが句の様子が変わります。
窓越しに猫に挨拶春浅し 桂
初春の明るい日射しが感じられます。原句は「窓越しの猫に挨拶春浅し」。
丁稚やうかん売つて軒端の梅三分 隆子
「丁稚」ということばの働きでしょうか、おきゃんな(古い?)紅梅の様子が目に浮かびます。
左義長や頬の火照りに団子焼く 涼子
よく詠まれる内容ですが、しっかりと描けています。
次々に春泥踏んで帰還兵 都
戦が終わり兵士たちが故郷に帰還し、春泥の「春」の喜びが現実になることを切に願います。「次々に」が、句を生き生きとさせています。
風花の朝比奈越えて父母の墓 涼子
鎌倉の朝比奈でしょうか、地上より少し気温が低い峠道は風花が舞う季節。ご両親への思いを風花に託しました。原句は「風花す朝比奈越ゆれば父母の墓」。