封をされたまま放置されたような二〇二一年でしたが、はや〈冬〉となりました。
中年や独語おどろく冬の坂 西東三鬼〈三冬〉
冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ 川崎展宏
今年の〈立冬〉は十一月七日。ちなみにその夜は三日月です。このところ月moonの季語を追ってきましたが、今月から月は〈冬の月〉となります。
立冬のことに草木のかがやける 沢木欣一〈初冬〉
生きるの大好き冬のはじめが春に似て 池田澄子
耳鳴りは宇宙の音か月冴ゆる 林 翔〈三冬〉
とはいえ〈十一月〉はまだまだ暖か。「冬のはじめが春に似て」とはそのものずばりです。
あたゝかき十一月もすみにけり 中村草田男〈初冬〉
草田男も十一月はあたたかいと言っています。十二月に入るにあたり、さあいよいよ冬本番と覚悟を決めたのでしょうか。年の瀬を意識せざるを得ない頃合でもあり、その年の過ぎた日々への未練を感じるのは私だけでしょうか。
邂逅の心集へば冬ぬくし 稲畑汀子〈三冬〉
冬ぬくきことも不安となる世かな 馬場駿吉
新型コロナ感染者数が激減している現在只今の私たちの心情に合致しそうな句を見つけました。 もちろんそういう句ではないのですが。
〈冬ぬくし〉は寒いはずの冬の暖かさを本来は喜ぶ季語です。昨今の温暖化により、受け止め方が変則的になってきていますが、本意を念頭に読めば、季語の効き目がより明らかになるはずです。
さて、冬のあたたかさをこの上なく愛でる季語があります。
玉の如き小春日和を授かりし 松本たかし〈初冬〉
〈小春日和〉の〈小春〉とは陰暦十月(ほぼ陽暦十一月)の異称、月monthの名前です。つまり小春日和とは十一月のよき日和、という意味ですから、初冬限定の季語となります。三冬使える〈冬ぬくし〉とはその点がまず異なります。
そして「玉の如き」の句の効果とも言えそうですが、つやつやの玉(ぎょく)のようなめでたさがあります。小春日和から温暖化を連想する人はいないのではないでしょうか。
水底の砂も小春の日なたかな 梅室
小春日やりんりんと鳴る耳環欲し 黒田杏子
小六月花のももいろ朱にまさり 飯田龍太
水底にも日なたがある、という第一句。明るい砂が見えているのでしょうか。真昼の太陽がとろんと映っているのでしょうか。いずれにしても水に激しい動きはなさそうです。
第二句は、小春日より木枯が好きだったという作者の三十代の句。りんりんは心の響きでもあるでしょう。
十一月には朱より「ももいろ」が適っているという第三句。十一月はももいろのあたたかさなのかもしれません。
〈十一月〉の字音数は六音です。面白いリズムの句が詠めそうでもありますし、音数を持て余しそうでもあります。似た意味合いで音数の異なる季語はこのようにいろいろあります。選ぶ楽しみも堪能してみてください。(正子)