カフェネット投句(6月)飛岡光枝選
那智の滝など、水量も高さも豊かな滝に近づくとその風圧と爆音に圧倒されます。句はその迫力を力強く表現しました。原句は「地の底を割り砕かんと滝千尋」。この句の場合は「千尋」が、地を砕くほどの高さがあるのだという説明になってしまいます。より実感のあるシンプルな言葉を。
梅雨入りや朝の玉薬五粒ほど 守彦
原句は「梅雨入りの朝の玉薬五粒かな」。丁寧な暮らしの様子が垣間見える一句ですが、一物仕立ての原句では報告の域。切ることにより取り合わせの句として、季語がより活きてきます。「玉薬」は「がんやく」と読みましたが、表記は普通「丸薬」。「玉」とされたのは作者の思いでしょうか。
【入選】
一刷の朝焼の空金宝樹 涼子
金宝樹の鮮やかな紅と夏の朝焼けの赤。原句は「一刷毛で朝焼けの空金宝樹」。ブラシの木からの連想が出発でもいいのですが、それからより先へ推敲を。
青梅雨に日ごと伸びゆくタワアかな 勇美
大都会の梅雨の様子を描きました。この句も頭からお尻まで繋がる形ではただの報告に。「青梅雨や日ごと伸びゆくビルの群」など。
ワンピース裾ふくらませ薄暑かな 守彦
薄暑は何にでも付きそうで、とてもやっかいな季語ですが、この句の上五中七の描写との取り合わせは上々です。
湧き上がる鳥の合唱風青し 和子
「風青し」が季語としていまひとつ弱く、この句の場合は世界が出来上がらない。「湧き上がる鳥の合唱青嵐」など。
浪速の味 江戸の味(7月)冷し飴【浪速】
大阪や京都、関西の夏の飲み物の一つに「冷し飴」があります。「冷し飴」は「飴湯」を冷したものです。
「飴湯」は、水飴を湯で溶かし、生姜の絞り汁や肉桂を加えた琥珀色の飲み物です。水飴は、麦芽に含まれる酵素アミラーゼで、でんぷんを分解して得られる糖類で、粘液状のやさしい甘さが魅力です。砂糖の三分の一程度の甘さです。
「飴」は『日本書紀』にも「無水造飴」とあり「水無しで飴を造る」ということは水飴が奈良時代にはあったようなのです。これは米水飴で発芽玄米中の糖化酵素を用いて作ったようです。現在の水飴は、効率のよい麦芽を使うことが多いそうです。
米水飴、麦芽水飴は、ミネラルやビタミンを含み、食欲増進、消化を助ける効用があります。健胃剤の生姜や肉桂を加えて作った「冷し飴」は効能からもまさに暑気払いにぴったりです。天秤棒を担いだ飴湯売りのいた昔に思いを馳せ、冷し飴を味わって飲みたいと思います。
コロナ禍の夏の備えぞ冷し飴 洋子
今月の花(七月) 合歓の花
そろそろ汗ばむ日が多くなる6月末くらいだったでしょうか。陽が落ちかけた頃、通りかかった道端の木にピンクの花がぼおっと数輪集まって咲いていました。糸のような花の元の部分は白く、いくつもの小さな扇のようにも見えました。「可愛い!」と思わず駆け寄り手に取ろうとすると「触っちゃだめよ、お花はこれから眠るのだから」と前を歩いていく母に言われました。
じつは。眠るのは花ではなく葉で、花はやっと目覚めたばかり、というのがその時刻の合歓の木の正しい情況なのです。かすかな甘い香りがあります。褐色の木を見上げると子供の私には途方もなく背の高い木に見えました。マメ科の合歓の木は成長すると10メートルにもなるものがあるそうで、この木に生る平たい豆は10センチ近くの長さになって下がります。
葉は柄を挟んで規則正しく並び、大きな柄からまた左右に対生している小さな葉は夜になると両側から中に向かって合わさります。その後垂れることから中国で夫婦円満を意味する合歓という字がこの木にあてられました。
合歓の花の白からピンクへの色のグラデーションは少し蒸し暑くなった気候のなかで、眠気を誘います。葉が閉じたり開いたりする「就眠運動」と呼ばれる行動は、葉のもとの内部の圧力の変化のため、といわれますが、今一つ合点がいきません。
私は日本だけでなく世界各地で珍しい花をいけることがありますが、合歓の木をいけたことはありません。落葉樹であり冬はいけることは不可能です。ではいついけることが出来るのでしょうか?咲いた花も繊細なのでいけておいても長く持つとは思えませんし、夜に向かって咲くなら写真に収めて残すしかないのでしょう。小葉は夜閉じて下を向いてしまうのなら、昼間に花が開いていない状態でいけるしかないのでしょうか。
花の付いた合歓のたっぷりとした葉つきの枝は、きっと夢の中でしかいけられないのかもしれません。(光加)
今月の季語(七月) 祇園祭
思い返せば、オリンピックの延期が決まったころから、各地の行事がどっと中止を決めました。青森のねぶた祭(八月)が中止を発表したとき、とっさに祇園祭(七月)は!? と思ってしまった私です。疫病退散を祈る祭とはいえ、それはそれ、これはこれ。ニュースが祇園祭の中止を告げたのは、それからほどなくのことでした。
鉾にのる人のきほひも都かな 其角
祇園祭は、七月一日の吉符入り(きっぷいり)から三十一日の疫(えき)神社の夏越(なごし)祭まで、ひと月もの間、連日、京のどこかで何かの行事がある多彩な祭です。コンコンチキチンという祭鉦の音が響き始めると、京に生まれ育った人の血が騒ぐ、とも聞きます。
祇園囃子ゆるやかにまた初めより 辻田克巳
何度も繰り返される調べにのって、螺旋階段をのぼるように心が昂っていくのかもしれません。
京とは縁もゆかりもない私の血まで騒ぐのは、年に一度の同窓会のような吟行会を、祇園祭をターゲットに続けているからです。今年で十六回目になるはずでした。誰かがいない年はありましたが、計画ができなかったのは初めてです。
https://yurikobonz.exblog.jp/18550383/ 祇園御霊会(1)両手の会の同窓会
https://yurikobonz.exblog.jp/18582254/ 祇園御霊会(2)京都通いの始まりは
https://yurikobonz.exblog.jp/18692613/ 祇園御霊会(3)貴船川床
https://yurikobonz.exblog.jp/18698511/ 祇園御霊会(4)京の町
今回はいつもと様子を変えて、URLを貼ってみました。祇園祭同窓吟行会を始めたのは二〇〇五年です。ちょうど十年目までのトピックスをブログにまとめたものです。当時のガラ携による撮影ですが、写真付き。気分だけでもよろしければどうぞ。
居祭(いまつり)であった大船鉾(おおふねほこ)が二〇一四年に再建復活し、四十九年ぶりに前祭(さきまつり)と後祭(あとまつり)の構成で執り行われるようになりました。祭も世につれ人につれ。であれば来年の祭はいかなる様式で? 少なくともマスクしながらはあり得ない。さてさて。
毎年新作が生まれる祭ですが、過去の名作をいくつか読んでおきましょう。
暁の涼しき雨や裸鉾 松瀬青々
辻々に鉾の枠組みが建ち上がって、さっと過ぎる雨に打たれています。美々しい装飾はこのあと。
ゆくもまたかへるも祇園囃子の中 橋本多佳子
祭ではなく他に用があった作者でしょう。一日中「ゆるやかに」繰り返されるお囃子の中を、往復ともに抜けたのです。多佳子には〈祭笛吹くとき男佳かりける〉という艶っぽい祭の句もあります。
くらがりへ祇園囃子を抜けにけり 黒田杏子
山鉾の提灯に灯が入りますし、夜店も煌々と電球を点します。がそうした場所をついと逸れると、真っ暗。それが京の町です。
九十の厄こそ祓へ鉾ちまき 深見けん二
山鉾で売られる特製のちまきは食べられません。厄除けの護符です。買って帰り、玄関口に飾ります。
東山回して鉾を回しけり 後藤比奈夫
十七日の巡行当日の「辻回し」のさま。鉾は直進しかできません。辻に到ると、人力の荒技で進行方向を九十度回転させるのです。作者曰く「鉾の前方に立って扇を振る扇方になって、自分が鉾を回しているつもり」とのことです。(正子)
朝日カルチャーセンター「ネット投句」について
カフェきごさい「ネット句会」(6月) 互選・飛岡光枝選
雅子選
風薫る巣ごもりの家開け放ち すみえ
蜘蛛の囲やけふも予定のなき日なり 良子
風評がなんの真穴子ふとりゆく 隆子
桂選
ロボットと会話ちぐはぐ五月雨るる すみえ
はつ夏のネット句会ぞ力こぶ 雅子
永平寺御堂で凌ぐ白雨かな 守彦
弘道選
海峡は雨にけぶれる桜桃忌 すみえ
日に幾たび洗ふ両手や春の暮 光枝
がらんどうの渋谷を闊歩サングラス 都
隆子選
蜘蛛の囲やけふも予定のなき日なり 良子
薫風や磨き立てたる黒座卓 南行
ロボットと会話ちぐはぐ五月雨るる すみえ
すみえ選
若竹や皮脱ぐことももどかしく 桂
スポーツ紙顔に被りて三尺寝 光尾
えごの花病鬼はいつも背後から 都
南行選
蜘蛛の囲やけふも予定のなき日なり 良子
太鼓腹膨らみ凹み三尺寝 光尾
自づから旅のこころや新茶くむ 光枝
裕子選
えごの花病鬼はいつも背後から 都
風評がなんの真穴子ふとりゆく 隆子
国病んで分けても青き梅雨の底 隆子
涼子選
風薫る巣ごもりの家開け放ち すみえ
銀シャリに穴子波うつ握りかな 隆子
初釣りの鮎空中に光りけり 弘道
和子選
海峡は雨にけぶれる桜桃忌 すみえ
バラ大輪やはり女王陛下かな 涼子
自づから旅のこころや新茶くむ 光枝
勇美選
風薫る巣ごもりの家開け放ち すみえ
がらんどうの渋谷を闊歩サングラス 都
国病んでわけても青き梅雨の底 隆子
良子選
二杯目のつまみに叩く胡瓜かな 勇美
手放せぬマスクともども更衣 南行
国病んでわけても青き梅雨の底 隆子
都選
二杯目のつまみに叩く胡瓜かな 勇美
出来たてのいか焼きあつつ緑さす 涼子
コロナ禍や耳にうれしき初燕 裕子
(飛岡光枝選)
【特選】
風薫る巣ごもりの家開け放ち すみえ
心にも初夏の風が吹きぬけます。「薫風や巣ごもりの家開け放ち」。
はつ夏のネット句会ぞ力こぶ 雅子
「はつ夏」が活きています。
きらきらと運ぶドロップ蟻たちよ 勇美
聞こえない蟻たちの歓喜の声が聞こえてくるよう。句のリズムに注意。「きらきらとドロップ運ぶ蟻の列」。
がらんどうの渋谷を闊歩サングラス 都
がらんどうが強烈です。「がらんだう」旧かなご注意ください。
永平寺御堂で凌ぐ白雨かな 守彦
夕立でかすむ御堂が見えるようです。禅寺永平寺ならではの一句。
軽鴨の子は八人兄弟波に乗る 涼子
「波に乗る」で句に命が吹き込まれました。
【入選】
蜘蛛の囲やけふも予定のなき日なり 良子
「蜘蛛の囲」が面白い反面、少々理屈が感じられるのが惜しい。
太鼓腹膨らみ凹み三尺寝 光尾
「三尺寝」としたのはお手柄。中七で切りたい「太鼓腹膨らみ凹む三尺寝」。
手放せぬマスクともども更衣 南行
マスクがいらなくなるのが本当の更衣でしょうか。
若竹や皮脱ぐことももどかしく 桂
若竹の勢いそのままを一句にしました。
瓜の花グラスに浮かべ昼の酒 勇美
涼しさは十分伝わりますが、どこかで見たかなという句ではあります。
ロボットと会話ちぐはぐ五月雨るる すみえ
ロボットと会話が弾むのも少々恐ろしい気もしますが。楽しく実感のある句。
さ緑の丘を登れば妹の家 守彦
妹御への愛情が感じられる「さ緑」です。
風評がなんの真穴子ふとりゆく 隆子
自然界の力強さ。この穴子は美味しいにちがいありません。
初釣りの鮎空中に光りけり 弘道
初鮎を釣り上げた喜び。「中空」でも。
カフェきごさい 「6月ネット句会」 投句一覧
以下の投句一覧より3句を選び、投句と同様にこのサイト内の「ネット投句」へ選んだ句の番号と俳句を記入して送信ください。6月3日中にお送りいただいた選はサイト上にアップします。(ご自分の句は選べません)店長・飛岡光枝
(投句一覧)
1 緑陰の奥より亡き友現れる
2 溜池は光の泉麦の秋
3 万緑の中を群れ飛ぶ白き蝶
4 妹であり母でありたや花蜜柑
5 風薫る巣ごもりの家開け放ち
6 百合の花やさしきことば掛けらるる
7 麦秋や乳母車の子すやすやと
8 白き峰映す代田や冴え冴えと
9 二杯目のつまみに叩く胡瓜かな
10 仲見世や祭り帰りの神輿だこ
11 蜘蛛の囲やけふも予定のなき日なり
12 太鼓腹膨らみ凹み三尺寝
13 人のなき生家に燕帰り来ず
14 出来たてのいか焼きあつつ緑さす
15 手放せぬマスクともども更衣
16 若竹や皮脱ぐことももどかしく
17 散歩道あの庭この庭薔薇自慢
18 硬き殻古老やあらん蝸牛
19 薫風や磨き立てたる黒座卓
20 銀シャリに穴子波うつ握りかな
21 気の利いたことば出てこぬ竹落葉
22 海峡は雨にけぶれる桜桃忌
23 夏帽子来る少年の笑みたたへ
24 瓜の花グラスに浮かべ昼の酒
25 一合の酒は手酌で冷奴
26 ロボットと会話ちぐはぐ五月雨るる
27 日に幾たび洗ふ両手や春の暮
28 バラ大輪やはり女王陛下かな
29 はつ夏のネット句会ぞ力こぶ
30 スポーツ紙顔に被りて三尺寝
31 さ緑の丘を登れば妹の家
32 今年また紅く燃え咲く花デイゴ
33 きらきらと運ぶドロップ蟻たちよ
34 がらんどうの渋谷を闊歩サングラス
35 自づから旅のこころや新茶くむ
36 えごの花病鬼はいつも背後から
37 永平寺御堂で凌ぐ白雨かな
38 青時雨男ずぶ濡れ苦笑ひ
39 露光る延齢草や朝の歌
40 風評がなんの真穴子ふとりゆく
41 初釣りの鮎空中に光りけり
42 国病んでわけても青き梅雨の底
43 軽鴨の子は八人兄弟波に乗る
44 とび出した尻尾から先ず穴子かな
45 コロナ禍や耳にうれしき初燕
本日締切です❣ 6月ネット句会
カフェネット投句(五月)飛岡光枝選
中七で切れる取り合わせの一句。上五中七はよく使われる慣用句ですが、鉄線の花を取り合わせるとこの言葉もいきいきと動き出すようで、俳句の力を感じます。「舞ひ」に、蔓の先でゆれる鉄線の花を思いました。投句は「てっせん花」となっていました。表記ご注意を。
【入選】
葉桜のトンネル抜けて一輪車 弘道
軽いスケッチですが、ことばに過不足がなく情景をよく描き出しています。
魚屋の呼び声高き初鰹 弘道
「高き」が初鰹によく響いています。
唖蝉の急にとび立つ哀れかな 守彦
「急にとび立つ」が唖蝉らしいですが、「哀れ」と「唖蝉」では少々付きすぎ。
屋号のみ紺に白抜き冷し酒 隆子
ことばが多くてごちゃついてしまいました。「のみ」も余計です。「白抜きの屋号はためく冷し酒」など。
茉莉花を髪にさしあふ母子かな 勇美
ジャスミンのやさしい香りのような一句。茉莉花はハワイではピカケと呼ばれフラの踊り子がよく髪にかざします。
山法師咲きて憩へる峠超え 涼子
「咲き」「憩へる」「超え」と動詞が重なるとうるさいと同時に主体が曖昧になります。「山法師咲きて憩へる峠かな」。
柔らかに土踏む音や岩鏡 和子
高山植物の岩鏡、重たい登山靴が岩鏡の花を労わるように乾いた土を踏みしめて行きます。「岩鏡土踏む音のやはらかに」。
鉄線花蔓蒼穹を巻き取りて 和子
言葉を詰め込みすぎて窮屈。より平易な表現を。「青空を巻き取る蔓や鉄線花」。
〇滑らかな語順や簡潔な表現により伝わるのが俳句です。思いがあってもそれをどのように俳句のリズムに乗せるか。身につけるには古典の名句を読み、暗唱するのが一番です(光枝)







