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今月の花(一月)結び柳

caffe kigosai 投稿日:2022年12月17日 作成者: mitsue2022年12月19日

生徒たちはお正月花の稽古に松や千両などの花材のほかに、しだれ柳をいけることがあります。柳は緑のほかに金や銀に色を吹き付けられたものもあります。紅白の餅を枝につけた餅花に仕立てられた垂柳は東京でも近頃手に入れることができるようになりました。

あまり柳が長すぎてお稽古でてこずっていると、結び柳にしてみたら?とその長さを利用してくるりと円を作って結ぶことも提案します。中央の枝から出ているたくさんの小枝で小さな円を作ってもいいし、一からげに枝を束ねて結ぶこともあります。

昔ある料亭で、大広間の床柱にしだれ柳が白玉椿といけてありました。大きく結ばれた輪がダイナミックで、床の間に引きずるように先がたれ下がった柳の姿は、しだれ柳の中でも特に長い、六角柳だったでしょうか。

ふすまが開けられると、日本髪で黒紋付お引きずりの芸者さんが数人現れ、舞がはじまり、終わると「おめでとうございます」と主卓に寄ってきました。青竹で作られたお猪口に青竹のひしゃくで床の間を背にした主客からそそがれたお酒を水白粉が塗られた肌が薄いピンクに透き通る手で受けると、くい、と飲みほしました。かんざしは稲穂と白い鳩。その年初めての席の主客に鳩の目を墨で黒黒と入れてもらうのがしきたり、とききました。

「それは松の内だけね。芸者衆のそういうかんざしは」と、昔は粋筋だったと思われる方が教えてくださいました。

硯と筆が持ってこられ、主客が鳩の目を丸く入れていました。主客はひげ紬という、糸をわざと出して織り出した珍しいものでした。そのあとお姐さんたちは挨拶して裾を引きずりながらそそくさと引き上げていきました。次のお座敷があるのでしょう、新年だからかけ持ちかしら、と思ったことが記憶に残っています。数十人いたその晩のお客の中で最年少のひとりだった私は、見られない世界を見たと思いました。

格式の高い料亭の床の間の大ぶりな結び柳から、いけばなの生徒たちが輪に結ぶささやかな柳まで、新しい年がよい年であるよう、結ばれた線をたどれば終わりのない円のように平穏無事な日々が末永く続きますように、丸く収まりますようにという願いをこめ、結び柳として結ばれます。

どうか、皆様新しい年がよい年でありますように。(光加)

今月の季語〈一月〉 一月

caffe kigosai 投稿日:2022年12月17日 作成者: masako2022年12月17日

二〇二二年二冊目の単著となる『黒田杏子の俳句』を刊行しました。所属誌「藍生(あおい)」に一九年一月号から三年間連載したものを元にしていますが、最初から単行本化を想定していたわけではないので、改めて構成を考えた結果、前後の脈絡を整えることが編集作業の第一関門となりました。資料も整え直すつもりでしたが、「黒田杏子」の誕生日=八月十日までに、ということになり大慌て。手順を飛ばした感もありますが、のんびりしていたらまだ世に出ていなかったかもしれません。

書き足したかった項目もあります。その一つが「一月」です。句をピックアップしたら膨大な量となり、連載一回分には収まり切らなかったのでした。

皆さまの「一月」の作句量は多いですか? 私はたいへん少ないのです。ゆえに「出るわ出るわ」の状況に目眩く思いでしたが、理由もすぐにわかりました。かつて「藍生」には結社をあげてのロングラン企画「観音霊場吟行」があり、〈初観音〉のある一月には必ず吟行計画が組まれていたからです。

そういうわけで連載では(つまり本にも)「初」を分類の柱としました。本文に反映させることが叶わなかったのは次の季語です。

【元日】

ほろほろと酔うて机にお元日『日光月光』

【二日】

檜葉垣の内に句座ある二日かな『木の椅子』

二日はや千人針を刺す童女『日光月光』

【二日灸】

はじめての二日灸といふものを『日光月光』

【三日】

よく晴れて三日の坐り机かな『一木一草』

【四日】

毛衣の四日のをんな鬼子母神『木の椅子』

真間の井に四日の午後のわれのかほ『一木一草』

日の沈むまで鴨を聴く四日かな『同』

【五日】

死者のこゑとてなつかしき五日かな『花下草上』

【六日】

髪剪つて六日の風のあたらしく『一木一草』

六日はも鰥夫六輔六丁目『花下草上』

【七種】

七種や母の火桶は蔵の中『木の椅子』

あをあをと薺の粥を吹きにけり『同』

帯高く七種籠を提げてきし『一木一草』

吹きさます七種の粥天台寺『同』

寂けさの七種爪を剪りてのち『花下草上』

七種の粥いただきぬ百花園『日光月光』

薺摘む疎開者の母摘みしごと『銀河山河』

すずなすずしろはこべらもととのひぬ『同』

※〈七日〉〈人日〉の例はありません。

※〈二日灸〉〈七種〉は「生活」の季語ですが、並列させています。

月齢を季語として使う〈月〉(moon)の例もありますが、その月(month)が始まって何日目かを示す語が季語になることが面白いです。それを詠みこんで欠ける日が無いということに圧倒されたのでした。

〈小正月〉(女正月)(=十五日)や、地域性があるようですが〈二十日正月〉〈晦日正月〉を加えると、一月のひと月を通して日付で詠めます。

いかがでしょう。挑戦してみませんか? (正子)

カフェきごさい「ネット句会」12月 ≪互選+飛岡光枝選≫

caffe kigosai 投稿日:2022年12月10日 作成者: mitsue2022年12月10日

【連中】すみえ 都 桂 良子 裕子 光尾 涼子 酔眼 雅子 みやこ 隆子 利通 光枝

≪互選≫

都選
大根干す海はるかなる峠道 光枝
静けさの身に沁みとほる小夜しぐれ 裕子
ひとひらの花閉じ込めて滝氷る 光枝

桂選
大根干す海はるかなる峠道 光枝
飛騨からの大工を待つも冬構 隆子
耳鳴りの寂しき音に耳袋 雅子

良子選
よぢ上りぐるり螺髪の煤払ふ 涼子
百年の柱磨きて年用意 みやこ
冬ぬくし刺子ふきんの花模様 みやこ

裕子選
耳鳴りの寂しき音に耳袋 雅子
湯ざめして再び試すパスワード みやこ
秋暮れて古書よりゲルベゾルテの香 利通

光尾選
冬ぬくし刺し子ふきんの花模様 みやこ
身に叶ふ椅子を月見の座となせり 利通
湯ざめして再び試すパスワード みやこ

涼子選
どこでもドアぎいと開くや雪の夜 光枝
森深閑遠く熊鈴熊の架(たな) 酔眼
今日もマスク行こ行こ仮面舞踏会 桂

みやこ選
手に顎をのせて火鉢の太宰かな 隆子
狼の遠吠へ抱き山眠る 桂
耳鳴りの寂しき音に耳袋 雅子

すみえ選
百年の柱磨きて年用意 みやこ
開戦日油焼けした花骨牌 利通
耳鳴りの寂しき音に耳袋 雅子

雅子選
飛騨からの大工を待つも冬構 隆子
百年の柱磨きて年用意 みやこ
身に叶ふ椅子を月見の座となせり 利通

隆子選
野良猫の庭に住みつく石蕗の花 裕子
冬ぬくし刺し子ふきんの花模様 みやこ
橋裏に水面の揺らぎ小六月 良子

利通選
森深閑遠く熊鈴熊の架 (たな) 酔眼
橋裏に水面の揺らぎ小六月 良子
冬ぬくし刺し子ふきんの花模様 みやこ

酔眼選
小春日や缶からドロップ何の色 すみえ
大根干す海はるかなる峠道 光枝
よぢ上りぐるり螺髪の煤払ふ 涼子

≪飛岡光枝 選≫
【特選】
よぢ上りぐるり螺髪の煤払ふ 涼子

仏様を清める季語としては「御身拭い」(春の季語)があります。その荘厳な様子に比べ、句は家の煤を払うように仏像にぱたぱたとはたきをかけるような気安さが愉快。「よぢ上る」、「ぐるり」という語でその様子をしっかり描きました。

狼の遠吠へ抱き山眠る 桂

「遠吠へ抱き」が秀逸。絶滅した狼の俤を抱いて眠る山々。

開戦日油焼けした花骨牌 利通

日本軍が真珠湾を攻撃した太平洋戦争開戦の日。「開戦日」との取り合わせの中七下五は、具体的には様々にとれますが、退廃した雰囲気がこの後の暗い時代を感じさせます。アジアへの侵略を続けていた軍隊、そして日本の退廃とも映りました。

耳鳴りの寂しき耳に耳袋 雅子

寒い冬に使う耳袋の心もとなさがよく出ている一句です。原句は「耳鳴りの寂しき音に耳袋」ですが、「音に」とすると理屈がかってしまうのではないでしょうか。

【入選】
冬支度大したことは何もせず 雅子

冬がたいへんな雪国などでも時代が便利になったこともあり、このような思いで冬を迎える方が多くなっているのではないでしょうか。楽といえば楽ですが、一抹の寂しさを感じるのも確かです。

野良猫の庭に住みつく石蕗の花 裕子

時々餌をやっても野良は野良、懐かないのがまたいい(猫派)。冬ざれた庭にひときわ明るく咲く石蕗の花のもと、少しだけくつろいでいる猫の様子が見えるようです。

百年の柱磨きて年用意 みやこ

大黒柱に一年の礼をつくして、年用意の始まりです。

冬ぬくし刺し子ふきんの花模様 みやこ

刺し子の布巾を使っているのか、刺し子を刺しているのでしょうか。花模様がいい。

直会が済んでほろ酔い秋収め 酔眼

「ほろ酔い」に秋の収穫への喜びが感じられます。「酔い」は「酔ひ」。

タイマーのごときゆばりの夜寒かな 光尾

タイマーは「タイムスイッチ」のことですね。(「セルフタイマー」や「ストップウオッチ」だと大変(!))。原句は「タイマーのごときゆばりや夜寒かな」。「や」「かな」なので提句も一案ですが「タイマーのごときゆばりや夜を寒み」なども。夜寒のしみじみとした心細さがよく出ています。

橋裏に水面の揺らぎ小六月 良子

繊細な景を捉え、しっかりと描いた一句。「揺らぎ」と切ったところは立派。

秋暮れて古書よりゲルべゾルテの香 利通

この秋、ある詩集をネット古書店で買いました。新品同様で大満足なのですが、開くたびに煙草の香りが。あまり読まなかったものの書棚に並べていた愛煙家の姿も想像しながら楽しんでいます。句の「ゲルべゾルテ」は虜になる香りとか。作者の青春の香りでしょうか。季語「秋暮れて」も上々。

今年も、カフェきごさい「ネット句会」へのご参加ありがとうございました。来年もみなさんと俳句を楽しんでいきたいと思います。初句会は2月です。どうぞお元気でよい年をお迎えください。(光枝)

ネット句会 投句一覧(12月)

caffe kigosai 投稿日:2022年12月3日 作成者: mitsue2022年12月3日

12月の「ネット句会」の投句一覧です。
参加者は(投句一覧)から3句を選び、このサイトの横にある「ネット句会」欄(「カフェネット投句」欄ではなく、その下にある「ネット句会」欄へお願いします)に番号と俳句を記入して送信してください。
(「ネット句会」欄にも同じ投句一覧があります。それをコピーして欄に張り付けると確実です)

選句締め切りは12月5日(月)です。後日、互選と店長(飛岡光枝)の選をサイトにアップします。(店長)

(投句一覧)
1 小春日や缶からドロップ何の色
2 冬支度大したことは何もせず
3 大根干す海はるかなる峠道
4 野良猫の庭に住みつく石蕗の花
5 鰯ではなく鯛なるぞ鯛焼食ぶ
6 飛騨からの大工を待つも冬構
7 宝くじ売場に並ぶ冬帽子
8 閑かなり猟犬はまだ夢の中
9 どこでもドアぎいと開くや雪の夜
10 狐火やあまたの人にみとられて
11 埋火へ深く埋めん夢ひとつ
12 ミサイル来寝てはをれぬぞ山目覚む
13 よぢ上りぐるり螺髪の煤払ふ
14 秋風や笑う橋場のばんばいて (檜枝岐村)
15 百年の柱磨きて年用意
16 冬ぬくし刺し子ふきんの花模様
17 秋澄むや黙礼かはすウオーキング
18 手に顎をのせて火鉢の太宰かな
19 直会が済んでほろ酔い秋収め
20 実千両決然として庭の隅
21 タイマーのごときゆばりや寒夜かな
22 静けさの身に沁みとほる小夜時雨
23 ひとしきり窓を濡らして初しぐれ
24 橋裏に水面の揺らぎ小六月
25 身に叶ふ椅子を月見の座となせり
26 開戦日油焼けした花骨牌
27 塊りとなりて塒へ冬の鳥
28 ひとひらの花閉ぢ込めて滝氷る
29 狼の遠吠へ抱き山眠る
30 耳鳴りの寂しき音に耳袋
31 バス停の前は海原石蕗の花
32 夕焼けの飛行機雲や神の旅
33 電車待つ下りホームや枇杷の花
34 湯ざめして再び試すパスワード
35 それぞれがいびつ誇るや花梨の実
36 森深閑遠く熊鈴熊の架 (たな)
37 今日もマスク行こ行こ仮面舞踏会
38 氷面鏡辷らせてゆく鳥の影
39 秋暮れて古書よりゲルベゾルテの香

カテゴリー: à la carte (アラカルト), 店長より

カフェきごさい「ネット句会」≪12月≫のお知らせ

caffe kigosai 投稿日:2022年11月26日 作成者: mitsue2022年11月26日

全国的にお天気に恵まれた11月8日の皆既月食。多くの方が楽しまれたのではないでしょうか。道端で見上げているうちに近所の知らない方との会話が弾み、コロナを忘れて思いがけず楽しいひとときを味わうことができました。

「カフェきごさい」ネット句会≪12月≫の締切は12月1日(木)です。どなたでも参加可能です。サイトの「ネット句会」欄から3句ご投句ください。

・このサイトの右側に出ている「ネット句会」欄より、3句を投句ください。

・12月2日中にサイトへ投句一覧をアップしますので、12月5日までに参加者は3句を選び、投句と同じ方法で選句をお送りください。

・後日、参加者の互選と店長・飛岡光枝の選をこのサイトへアップいたします。

今年最後の「ネット句会」、みなさまの力作をお待ちしています。(店長)

朝日カルチャーセンター「カフェきごさい」句会(十月)

caffe kigosai 投稿日:2022年11月23日 作成者: mitsue2022年11月23日

新宿朝日カルチャーセンター「カフェきごさい」句会。今月の兼題はサイトより十月の季語「秋めく」、花「ななかまど」、江戸の味「新豆腐」です。

【入選】
ななかまど穂高は白く空青し 和子

ななかまどの赤との対比として描いたと思いますが、白、青と入れ過ぎて散漫になってしまいました。原句は「ななかまど穂高は白し空青し」。

この道は開拓の道ななかまど 勇美

遥かむかしより秋を彩ってきたななかまど。開拓の人々が様々な思いで見た赤い実。

朝寒や熊鈴響く森の中 和子

うすら寒くなってきた時の空気感がよく出ていますが、「森の中」が当たり前なのが惜しい。

山の端にほのかな灯り新豆腐 和子

「ほのかな灯り」の様子をよりしっかりと描きたい。「山の端の灯り初むるや新豆腐」など。

登りきて極楽浄土草紅葉 和子

しっかり描かれていますが、「極楽浄土」が「草紅葉」の様子としては少し大げさかもしれません。

街の端の爪の先より初紅葉 勇美

「街の端」の「爪の先」とは細かすぎました。「爪の先」を生かすと「半島の爪の先より紅葉せり」などでしょうか。一考ください。

日を浴びて山高々と新豆腐 光枝

浪速の味 江戸の味(十二月) 鯛焼き【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2022年11月21日 作成者: mitsue2022年11月21日

「鯛焼き」は、小麦粉、砂糖、重曹などから作った生地を、鯛を形どった金属の型で焼き、餡を入れた和菓子です。

このような説明は不要なほど日本中で食べられている鯛焼きですが、その誕生は明治時代に東京で売り出されたという説が有力です。

鯛焼きの前身である今川焼も様々な呼び名で全国に普及していますが、鯛焼きの存在感にはかなわないのではないでしょうか。それは鯛焼きの形にあります。鯛はもともと形の良い魚ですが、鯛焼きはその良さをより強調し、胸を反らし、大きなしっぽをピンと上げたいかにも美味しそうな姿に発展させました。

鯛焼きの焼き型には、一匹ずつ焼く「一丁焼き」型と複数を一度に焼き上げる型の二種類があります。鯛焼き通の間では、「一丁焼き」を≪天然もの≫、一度に複数焼くものを≪養殖もの≫と呼ぶとか。さすが写真本が出版されるほどの人気者、ファンのこだわりが愉快です。

中身がカスタードのものなど、昔から様々な鯛焼きが登場しています。最近では卵の白身だけを使った「白鯛焼き」、回りの羽が付いたままの「四角鯛焼き」の店も増えました。

鯛焼きを最初に考案したと言われる東京都港区麻布十番の店は、一丁焼きの天然ものです。焼き加減が一匹ずつ違い、少し焦げ目が多いのが特徴。餡はたっぷりしっぽまで。小兵ながらなかなかの面構えです。

マスク生活が続き、明るいニュースも少ないご時世ですが、鯛焼きを懐に凩の町を元気に歩きたいものです。

鯛焼やすこし怒つて焼き上がる 光枝

(俳句は、角川書店『俳句』11月号 結社歳時記「古志」より転載)

今月の花(十二月)寒木瓜

caffe kigosai 投稿日:2022年11月20日 作成者: mitsue2022年11月23日

本来は別の季節のものでも冬や寒とつけば冬の季語として存在する植物があります。たとえば寒椿、冬薔薇、寒木瓜などです。 この季節は実をつける植物は多いのですが、一方花木は少なく、そんな中、寒木瓜(冬木瓜)の花は鮮やかな色でいけばなに賑やかな雰囲気をもちこんでくれる大切な花材のひとつです。

国賓として来日するゴルバチョフ大統領夫人に、いけばなのデモンストレーションをお目にかけることになったのはもうずいぶん昔になります。

観客にむかって何もないところから花材をいけていき、作品が出来上がっていく過程をみせる、というデモンストレーションを大先輩の師範がなさることになりました。夫人の分刻みのスケジュールと聞いた大先輩はいけることに専念したいということで、若かった私が説明係となりました。ゴルバチョフ夫人は、季節の花材を使った作品が次々といけられていくのを、VIPをお迎えする部屋のソファーでくつろいだ様子でご覧になっていました。

木瓜が登場した時、夫人は身を乗り出し(これはなんという花ですか?)と質問をなさり、すぐにロシア語通訳から名前が伝えられました。花の色は淡紅のほか白、紅白の咲き分けのものもあること、いける時は棘に気をつけてーーなどと説明したと記憶しています。花屋がここぞと用意したその木瓜は枝も太く、何より緋色の大きな花は生命感にあふれていました。

会が終わり、夫人のあとから大先輩をはじめ、通訳と私がイヤホーンをつけたSPとエレベーターに乗り込みました。扉が閉まるとライサ夫人が、もう一度あの赤い花の名前を日本語で知りたいというので、(ぼ、け!)私はゆっくりと発音しました。下降するエレベーターの壁に少し寄りかかりながら、ライザ夫人は( ぼ、け。ぼ、け。)と自分の胸にしまいこむように二回繰り返しました。

エレベーターが一階に到着し、扉が開きました。玄関のガラスの向こうにいた警護のSPたちは、夫人を確認したとたん、はじけるように夫人の乗る車の周りを取り囲み低い姿勢で、集まった人々と四方に鋭い視線を走らたのです。夫人の表情は公の人となり、車は警備の車と白バイを先頭にして一時交通遮断された大通りに消えていきました。

夫人の訃報が伝わったのはそれから何年もたっていなかったのではないでしょうか。

今、私も海外からの国賓をはじめ大事なお客様にデモンストレーションをする機会をいただくことがあります。多忙な滞在中、植物の力を借りて少しでもほっとする時間を楽しんでいただけたらーーと願うとき、あのライザ夫人の緋色の木瓜を思い出すのです。

以上の文章を書いて十年が過ぎ、ライザ夫人を本部の会館にお迎えしたのはまたその何十年も前の事になります。

今年の八月、夫君のゴルバチョフ氏もなくなりました。なくなる数年前のゴルバチョフ氏のドキュメンタリーが放映され一種の感慨をもって私は見ていました。

少し不自由になった体、周りを支えるご家族など。それでも声ははっきりとしていました。今ではライサ夫人の傍らで永遠の眠りについています。

こんなバカなことは、一刻も早くやめるべきーーウクライナ侵攻が始まった二月以来そう言っていたといわれるゴルバチョフ氏が、もう少し元気で生きていたら、たとえわずかでも世界は違った方向に進んでいたのではなかろうかと思います。

ついこの間の事、数十年前夫人をお迎えした、まさにその会館の日本間に私は他の花材とともに 寒木瓜をいけました。花は小ぶりで、白い花びらに薄いピンクが時折混じる優し気な更紗木瓜です。

あの真っ赤な華やかな寒木瓜が、夫人の一瞬解き放たれたようなリラックした表情とともに記憶の底からうかびあがり、過ぎた年月の長さを改めて実感したのでした。(光加)

今月の季語〈十二月〉 年用意

caffe kigosai 投稿日:2022年11月17日 作成者: masako2022年11月18日

二〇二二年も歳末となりました。「波」の心配をしながら「来年こそは」と念ずるのが、残念ですが年越しの定番になってきました。ですが、波がおさまってから計画を立てるのはなく、まずは計画を立てようと思えるようにもなってきました。

というわけで、計画通りに粛々と進められるとは限らない年用意、年越し、新年の抱負、……を今からこなしてまいりましょう。

まず今年は〈事始(ことはじめ)〉という生活の季語を意識してみませんか? この日から新しい年を迎えるための仕事を始めるという意味です。農事の事始は明けて二月八日ですが、〈正月事始〉の意で用いるときには十二月十三日です。祇園の華やかな(新型コロナ襲来以前ほどでないとはいえ)事始が映像で流れますから、その夜のニュースは要チェックです。

京なれやまして祇園の事始             水野白川

軸赤き小筆買ひけり事始             小林篤子

二句目の小筆は〈賀状書く〉のに使うのでしょうか。

知らぬ子と遊ぶ吾が子や賀状書く      岸本尚毅

賀状うづたかしかのひとよりは来ず    桂 信子〈新年〉

〈賀状〉のみですと新年の季語ですが、「書く」をつけて年末の季語になります。年末と新年と共通する語の入る季語の例が多々ありますが、「用意する」というニュアンスを付加して年末の季語になることを意識しましょう。

注連飾る去年の釘の曲るまま          赤尾恵以

火の香りしてゐて留守や注連飾り      西山 睦〈新年〉

年末の大掃除、年越し用の買物、飾りつけ、料理や器物、衣類の支度などに、いそいそと忙しなく立ち働くことになります。〈年用意〉はそういったものすべてを指す総称です。

縄の玉ころがつてゐる年用意          高野素十

山国にがらんと住みて年用意          廣瀬直人

正月用のもろもろを売るために立つ市を〈年の市〉といいます。

注連の山その中ぬくし年の市          山口青邨

アマゾンを地球の裏に年の市          和田悟朗

一句目、売られている間は注連飾も物であるところが面白いです。「ぬくし」は実感であり発見です。二句目は、雑駁に売り物が並んだり掛かったりしているさまから、まるでアマゾンだ、本物のアマゾンは地球の裏側だけど、と発想したのではないでしょうか。

そして年年歳歳わが家では頭痛の種になっているのが〈煤掃(すすはき)〉です。いわゆる年末の大掃除ですが、今年こそ、家を浄め年神様を迎える心持ちで、と念じています。

煤掃いて其夜の神の灯はすゞし        高浜虚子

煤払終へ祖父の部屋母の部屋          星野立子

とはいえ押し詰まって句会の予定があるし、と思っているのも私です。逃れるために外出することを〈煤逃(すすにげ)〉といいます。

煤逃げの蕎麦屋には酒ありにけり      小島 健

そのまま〈年忘(としわすれ)〉に突入ということもまたよくある話ですが、さて今年は首尾よく酌み交わすことができるでしょうか。(正子)

髙田正子さんの新刊 『黒田杏子の俳句』櫻・螢・巡禮

caffe kigosai 投稿日:2022年10月28日 作成者: mitsue2022年10月28日

カフェきごさいで「今月の季語」を連載中の髙田正子さんの著書『黒田杏子の俳句』(深夜叢書社、3,000円+税)が刊行されました。

結社誌『藍生』に掲載された連載(2019年1月号から2021年12月号まで)を再構成した本書は、毎月のテーマ(季語)に沿って黒田杏子さんの俳句を分類、鑑賞するに止まらず、エッセイなどからその背景を掘り下げ、作者の俳句の過去から現在、そして未来にまで目を凝らした一冊となっています。

黒田杏子さんの俳句の魅力に深く触れながら、季語の本意を丁寧に読み解いた、実作への手がかりに満ちた本書をぜひご購読ください。(店長)

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • 第三十五回 2026年2月14日(土)13時30分
    (3月は第一土曜日・7日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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