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今月の花〈一月〉蛇の目松・若松

caffe kigosai 投稿日:2024年12月27日 作成者: mitsue2024年12月29日

福島光加の作品
(左が蛇の目松)

12月に入ると、花市場ではお正月に飾る松市が開かれます。月初めの日曜かそのあとの日曜日で、何日かして千両市があります。

「今年の松は色がでている」「小ぶりだ」などの情報が入り、月末のお正月花のお稽古に生徒さんたちが松を決める時に役に立ちます。私の先生の代からお付き合いのある花屋さんの、知り合って何十年のスタッフに「先生、今年は蛇の目松はとても高いですよ!」と言われたときは驚きませんでした。いつまでも続いた夏の異常な暑さは、人間だけでなく植物にいままでにない影響を及ぼしたことは、花が高くなっていることからも想像はつきました。

大王松、若松、根引きの松、五葉松のほかそれぞれに表情のある松をいけるのは年末の楽しみです。その中でも来年は巳年なので蛇の目松をいけると決めていました。蛇の目松は中心から黄色い葉が先に行くほど緑になります。去年は、葉がたくさんしっかりとついていて、枝も微妙な曲線を描く蛇の目松を手に入れることができました。私の住んでいる東京では松を飾るのは松の内、つまり1月7日でおしまい、というのが正式らしいのですが、近年になく美しかったので年神様を粗末にしては罰が当たる、という理由をつけて1月の最後の週まで飾っていました。

「日本は照葉樹林文化、冬になって葉が散ってしまう樹々が多い中、常緑樹の松の姿に神聖なものを感じたのでしょう」と、なぜ新年に松をいけるのかを教室の外国の方たちに説明しました。日本の神様は一神教でないからGodではなく小文字のgodあるいはgodsで、新しい年は松に年神様をむかえて始まるのです、と。

日本の植物にもいろいろな意味があるのね、と言ったのはウクライナの3人のお子さんを持つお母さん。彼女は自分の国でデイドウクと呼ばれる、クリスマスにテーブルの真ん中に置く麦の束の飾りを持ってきてくれました。ウクライナは世界でも知られた麦の生産国です。手作りの飾りには国旗の色の青と黄色の小さな花がちりばめられていました。

彼女たちには生えてから3~4年の若松をいけてもらいました。今年の若松は房が美しく、酷暑の夏をこしてもきれいな緑色でした。ふと見ると、中のひとりが片端から若松の房を曲げています。半年前に日本に来た方で、お正月を迎えるのは初めてです。「なぜ曲げるの?すっとした姿で葉も色もきれいでしょう?」と言うと、なんだか単純だからと言います。私の英語の説明が不十分だったのだろうか。初めてならまずこの房の形を生かした方がいい、と言いかけて、複雑な思いが私の内をよぎりました。本当なら大学生活を満喫している年齢です。自分の思い通りになる植物。そして居たい場所にいられない自分。

日本のお正月の、街角の門松や飾りやいけばなを見て、次の年にお正月花をいけるときには彼女は変わっているだろうか。状況が好転して日本を出ているだろうか。

私は去年素敵な蛇の目をいけたので、今年は緑の房が特に美しい若松をその特徴を生かし、世界の平和を願っていけることにしました。

今年も私の植物の物語にお付き合いいただきありがとうございました。皆様にとって来年がより良い年となりますよう。(光加)

第二十一回 カフェきごさいズーム句会報(飛岡光枝選)

caffe kigosai 投稿日:2024年12月25日 作成者: mitsue2024年12月25日

第二十一回カフェきごさいズーム句会 (2024年12月22日)句会報告です。
「カフェきごさいズーム句会」は、どなたでも参加いただけます。ご希望の方は右の申し込み欄からどうぞ。見学も大歓迎です。

第一句座              
【特選】
ともかくも冬至は餃子の欠かせない     周龍梅
(ともかくも冬至は餃子欠かせない)
冬薔薇人待つごとき蕾かな         斉藤真知子
(冬薔薇人待つごとく蕾あり)
しまひ湯の妻に柚子の実ひとつ足す     斉藤真知子
北国の不機嫌の並ぶ牡蠣の口        高橋真樹子
(北国の不機嫌並ぶ牡蠣の口)

【入選】
いづこより湧きゐる水や冬芹田       村井好子
(いづこより湧きでる水や冬芹田)
仕舞風呂捥ぎたての柚子一つ足し      藤倉桂
何編むにあらず真紅の毛糸買ふ       葛西美津子
数へ日やまだ捜し物してをりぬ       前﨑都
(数え日やまだ探し物見つからず)
侘助に聞かれてゐたり独り言        葛西美津子
ときどきは気が乗らぬ日も猿回し      斉藤真知子
野川てふやさしき名もて川枯るる      たきのみね
(野川てふやさしき名もて冬枯るる)
鬼ごつこ銀杏落葉をまき上げて       鈴木勇美
手渡せることも喜びお年玉         高橋真樹子
(手渡せることの喜びお年玉)
マッチ擦る祖母の手夜の玉子酒       たきのみね
討入りの日我ら句会に集ひけり       前﨑都
冬麗の真白き富士へ一機かな        伊藤涼子
(冬麗の真白き富士へ一機行く)
三姉妹大中小に着ぶくれて         鈴木勇美
(三姉妹大中小と着ぶくれて)
寒風を行くただ人に会わんため       たきのみね     
(寒風を行くただ一人に会はんため)
初詣この大杉と幾十年           花井淳
移り住み京の雑煮に馴染みけり       斉藤真知子
鴨の陣水にゆはへてあるやうな       葛西美津子
指先の触るればふはり冬木の芽       村井好子
(指先に触れる確かさ冬木の芽)
我めがけヒマラヤ杉の落葉降る       伊藤涼子

どの家も冬至の風呂の沸くころか      飛岡光枝

第二句座(席題・雪だるま、冬帽子)
【特選】         
喜びのでんぐり返る雪だるま        周龍梅
もう誰の手にも負へずよ雪まろげ      葛西美津子

【入選】
どこまでも父の冬帽目じるしに       矢野京子
(雑踏を父の冬帽目じるしに)
今日買ひし冬帽子今日失くしけり      村井好子
男来る今年も同じ冬帽子          斉藤真知子
再会のうれしさにある冬帽子        斉藤真知子
(再会のうれしさにあり冬帽子)
イーハトーブ抱きしめ歩む冬帽子      藤倉桂
泣きべその片目となりぬ雪だるま      葛西美津子
夜勤明け耳まで被る冬帽子         上田雅子
髪怒る冬帽風に奪はれて          藤倉桂

出棺の胸元に置き冬帽子          飛岡光枝

今月の季語〈一月〉正月の遊び

caffe kigosai 投稿日:2024年12月18日 作成者: masako2024年12月24日

今では、正月だからといって特別な遊びはしなくなったように思いますが、昭和のころには、正月らしいと思う遊びが確かにありました。今月は季語という観点から遊びをみていきましょう。

まず〈歌留多〉。「競技かるた」を題材にした漫画の人気と相まって、今では正月に限らぬ遊び(競技)となりました。もっとも「競技かるた」のルールが現在行われているものになった(統一、制定された)のは明治37年といいますから、地域や老若男女を問わぬ普遍的な遊びといえます。俳句では新年の季語となります。

日本の仮名美しき歌留多かな                後藤比奈夫

女御女帝うしろ姿の歌かるた                  野見山ひふみ

さまざまに世を捨てにけり歌かるた          綾部仁喜

比奈夫の「歌留多」には草書体の文字が並んでいそうです。ひふみの「かるた」は絵札のほうです。2024年のNHK大河ドラマ「光る君」では女君たちが平気で顔を見せていましたが、本当はそうではありません。描くための苦肉の策の「うしろ姿」でしょう。仁喜の「かるた」は視覚で判断するならば絵札ですが(坊主めくりをすると出家者のなんと多いことかと思います)、分かっている人には歌さえあれば、というところでしょう。

〈絵双六〉

版元は「いせ辰」道中絵双六                  文挟夫佐恵

下駄を履く双六はやく上がり過ぎ          伊藤白潮

元祖ボードゲームといえましょう。東海道五十三次ならば、振出しは日本橋、上がりは京ですが、浄土への道を描いたものなども…。夫佐恵の「いせ辰」は、和紙とその細工物で有名な店。白潮は、ひとり手もち無沙汰になって、庭へ出たのでしょうか。

〈双六〉には〈盤双六〉と〈絵双六〉があります。「光る君」が双六に興じるときは、対座した二人が、竹や木の筒に入った賽を振り、相手の陣に早く入ることを競う盤双六をしたはず。子どもの遊びであった絵双六が盛んになったのは、江戸時代初期だそうです。

〈福笑〉

福笑よりも笑つてをりにけり         稲畑汀子

福笑目鼻集めて畳みけり                 藤松遊子

他愛ないと思いつつもなぜか大笑いすることに。片付けるときまで面白いです。私の記憶では正月休み限定の遊び。皆さまはいかが?

〈羽子板〉〈羽子つき〉

羽子板の重きが嬉し突かで立つ            長谷川かな女

大空に羽子の白妙とゞまれり               高浜虚子

青空の太陽系に羽子をつく                  大峯あきら

かな女の句を読むと、初めて自分の羽子板を手にしたときが思い出されます。虚子とあきらはほぼ同じ景を見ながら、全く異なる印象の句を詠んでいます。さてあなたなら、どう表現しますか?

〈手毬〉

手毬唄かなしきことをうつくしく             高浜虚子

焼跡に遺る三和土や手毬つく     中村草田男

〈独楽〉

独楽強しまた新しき色を生み         橋本榮治

傷にまた傷を重ねて独楽の胴         戸恒東人

手毬は女の子、独楽は男の子の遊びとされがちです。が、俳句には性別を表さないことのほうが多いです。先入観を破って詠み且つ読むと、何か発見があるかもしれません。

時代により地域により、遊びはいろいろ。あなたならではの一句を是非どうぞ。(正子)

第二十回 カフェきごさいズーム句会報(飛岡光枝選)

caffe kigosai 投稿日:2024年12月8日 作成者: mitsue2024年12月8日

第二十回「カフェきごさいズーム句会」 (2024年11月9日)
句会報告です。(  )は添削例。
「カフェきごさいズーム句会」はどなたでも参加できます。ご希望の方は右の申し込み欄からどうぞ。見学も大歓迎です。

第一句座              
【特選】
枯蟷螂己の影に鎌挙ぐる        藤倉桂
松林を抜けて浪音けさの冬       葛西美津子
(松林抜けて波音けさの冬)
破る子も居らぬ障子をまた張りぬ    上田雅子
(破る子も居らぬ障子を貼りにけり)
冬立つや退院の空澄み渡り       前﨑都
枯れ蟷螂鎌振り上げて息絶えて      前﨑都
(枯れ蟷螂鎌振り上げて息絶えぬ)

【入選】
雪吊や夜はきらめく星を吊る      伊藤涼子
立冬やお香の型をジャスミンに     周龍梅
(ジャスミンの形のお香冬に入る)
唇を紅はみ出して七五三        矢野京子
(唇の紅はみ出して七五三)
スナップをきかす箒や落葉掻      村井好子
少年の少し大人び冬立ちぬ       たきのみね
(少年の少し大人び冬に入る)
墨を擦る手に力増し冬に入る      周龍梅
(墨を磨る我手に力冬に入る)
冬来る鰹節けづる愉しさよ       前﨑都
凩の山蘆にかかる竹箒         葛西美津子
(凩の三廬にかける竹帚)
祖父が打つ極太うどん冬に入る     藤倉桂
木枯一号通勤の列黙々と        伊藤涼子
立冬の風を突つ切れフリスビー     赤塚さゆり
少年や木枯連れて戻りくる       斉藤真知子
吹き過ぎて凩の柿あかあかと      葛西美津子
(吹き吹きて凩の柿あかあかと)
いと小さき熊手なれども手打ちかな   斉藤真知子
はぐれてはまた綿虫に分け入りぬ    高橋真樹子

蟷螂の枯れし目玉に闘志あり      飛岡光枝

第二句座(席題・小春、大根)
【特選】         
大蛸を広げて干して小六月       矢野京子
泰山の小春日和を浴びながら      周龍梅
(泰山の小春日和の中にかな)
念じつつ大根を煮る夜のあり      たきのみね

【入選】
迷ひきし猫に名をつけ小春かな     斉藤真知子
大根の白き太さを鰊漬け        高橋真樹子
(大根の白さ太さを鰊漬け)
小春日や村も眠つてをりにけり     伊藤涼子
(小春日や村の眠つてをりにけり)
どこまでも大根畑を三崎まで      伊藤涼子
(どこまでも大根畑三崎まで)
約束のやうに尻もち大根引く      葛西美津子
手料理は大根づくし祖母の家      赤塚さゆり
潮風の三浦大根引きにけり       葛西美津子
飲み友の大根一本下げて来る      前﨑都
(飲み友達大根一本下げて来る)

夜徹し能大根汁は湯気上げて      飛岡光枝

浪速の味 江戸の味(十二月) 王子の稲荷寿司【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2024年12月4日 作成者: mitsue2024年12月4日

甘辛く煮付けた油揚げを袋状に開き寿司飯を詰めた「稲荷寿司」は、全国で広く親しまれています。江戸でも天保年間には店で売っていた記述があるようです。稲荷寿司の名前の由来は諸説ありますが、油揚げが稲荷神の使いの狐の好物だからという説が一般的です。

東国三十三稲荷総司との伝承を持つ東京都北区の王子稲荷神社は、その住所「岸町」が示す通り切り斜面に建つ神社です。落語「王子の狐」は人を化かそうとした王子稲荷の狐が反対に騙され酷い目に会うという噺ですが、神社周辺はさも狐が巣穴を掘りそうな地形です。今はだいぶ整備されていますが、私が初めて訪れた三十数年前は今にも狐が出てきそうな風情で、狐の巣だったという穴も境内に残っていました。

当地はまた「王子の狐火」の民話でも知られています。その昔、大晦日の夜に関八州の狐たちがこの地の大きな榎の下に集まり装束を整えると、官位を求めて王子稲荷へ参殿したということです。その行列の狐はそれぞれ狐火を伴っており、近隣の人々はその数を数えて翌年の豊凶を占ったとのこと。

狐が集合する榎は「装束榎(しょうぞくえのき)」と呼ばれ、広重の『名所江戸百景』には「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」として、狐火を浮かべた狐が集まる様子が描かれています。

王子では大晦日の夜から元日にかけて、狐顔の化粧や狐のお面を付けた参加者が裃姿で王子稲荷へ参詣する「大晦日王子狐の行列」が行われます。狐火ならぬ提灯を手に持ち、正装をした狐の行列が続きます。

王子周辺には老舗の稲荷寿司屋さんがありますが、最近では変わり稲荷寿司を販売する店も登場しています。写真の稲荷寿司は、ゴルゴンゾーラチーズ、いぶりがっこ、柚子、焦がし葱などが入っており、マヨたまごが一番人気のようです。

変わり稲荷寿司といえば、油揚げの中に蕎麦を入れた「蕎麦稲荷」を出す蕎麦屋さんがあります。今年の大晦日は裃を付けた狐たちを思いながら、年越し蕎麦稲荷をいただくのもいいかもしれません。

狐火に案内されて除夜詣  光枝

今月の花(十二月) ひいらぎ南天

caffe kigosai 投稿日:2024年11月29日 作成者: mitsue2024年11月29日

そろそろ年賀状はどうしようか、と新しい年を意識するようになるころ、いけばなに関係している私は南天を思います。南天と呼ばれる植物でも、全く別の種類や科が違う南天もあります。

飯桐南天はイイギリ科で、水平に伸びた枝から赤い実の房が下がる風情がなんとも言えなく気に入っていますが、十一月も末となると枝物を扱う花屋さんでも、なかなか手に入りません。運よく購入した実の付いた枝をとっておいて、乾いてもまだ光沢のある実だけを使っていけることになります。赤い色は葉が落ちた自然の中でよく目立つので鳥がついばむのでしょう。

新年には祝い花としてつやつやとした赤い実を付けた実南天をかざり、実の周りに放射状に延びた脇枝についた、先のとがった葉も鑑賞します。難を転じる、ということで 家の鬼門に植えたりすることがあります。赤だけでなく、白い実の南天もあります。葉は、箱に入ったお赤飯にも添えられます。これはメギ科の植物に分類されます。

その前に稽古に出てくるのがメギ科の細葉ひいらぎ南天。いけばなでは岩南天と呼ばれます。岩南天という植物はつつじ科で他にあり、しばしば混同されます。稽古に使うものはごつごつとした茶色の木肌で、切れば中は黄色く、葉は厚め。色の変わらない緑の葉先がとがっていて、手にチクり、と刺さるので気を付けます。花は黄色で秋に咲きます。あまり曲線を描かないので、初歩の方たちのお稽古に「枝先に着いた葉の位置を目安に、枝を何度の角度に傾けていけてください」と指示するのにわかりやすいのです。

さて、私の一押しは、メギ科の「ひいらぎ南天」です。茎の先に集まって着く葉がダイナミックに360度展開するところが気に入っています。ひいらぎの葉のように光沢のあるその葉を見ると、ひいらぎと同じように(近寄るな!さすぞ!)と言わんばかりに尖った部分があります。

花が咲くのは春で、小さな黄色の花が房のように付きます。やがて秋も深くなり、ひいらぎ南天が紅葉し始めると白い粉を薄くまとったような黒い実が結ばれているのを見ることがあります。

葉は黄色や赤となり、やがて茶色になっていきます。こうなると紅葉する植物の宿命で落ちていきます。その前の、大ぶりで大きく曲がった枝の先の、歌舞伎役者がパッと見得を切ったように広がった葉の姿がカッコいい!と思わせる、ひいらぎ南天です。いよつ!!千両役者!(光加)

今月の季語〈十二月〉 風邪

caffe kigosai 投稿日:2024年11月14日 作成者: masako2024年11月19日

風邪をひく人が増えてきました。酷暑疲れが拭いきれないうちに、寒暖差の激しい天候とさまざまなウィルスの跋扈にさらされ、抗しきれなくなったようです。新型コロナウィルスも決しておとなしくなったわけではありません。あれにもこれにも気を付けよ、といわれる昨今。結局のところ、自身の免疫力が頼みということでしょうか。

忌々しい〈風邪〉ですが、冬の季語です。ひいてしまったら、詠みましょう。

風邪の子の餅のごとくに頰豊か                        飯田蛇笏

風邪ひけば二重まぶたになる子かな                 鶴岡加苗

とほくから子供が風邪をつれてきぬ                 鴇田智哉

この子はこんなにもちもちの肌であったか、とか、まぶたが二重になっているわ、やっぱり具合が悪いのね、とか、日ごろの元気な姿を知っているがゆえの気づきがあります。子や孫を看病しているうちに、風邪をもらってしまうことも多く、子どもがケロリとするころ、大人が寝込むこともよくあります。

年よりは風邪引き易し引けば死す                    草間時彦

大げさなと思った方はまだ「年寄」ではないのでしょう。ですが、年は取ってみないと分からないもの。しかと覚えておきましょう。

風邪の身を夜の往診に引きおこす                   相馬遷子

かぜの子に敬礼をして風邪心地                       細谷喨々

医師俳人の句です。仕事柄、貰い風邪も多いに違いありません。安静が一番の良薬のはずなのに、往診に夜道へ出てゆく遷子。子どもがひくのは「かぜ」、よこしまな大人がひくのは「風邪」と使い分ける喨々は、小児科の医師です。

店の灯の明るさに買ふ風邪薬                          日野草城

迷惑をかけまいと呑む風邪薬                          岡本眸

風邪ごこち薬なければ白湯飲んで                   中坪達哉

明るい薬局と暗い薬局があれば、明るいほうを選ぶかもしれません。なんといっても気の持ちようが大事。眸も、これを呑めば大丈夫、治る治ると暗示をかけて服用したことでしょう。達哉の、薬の代わりに白湯というのは理に適っていると思います。大方の不調は冷えによるものらしいです。身体を中から温め、休めれば、「風邪ごこち」は消えてしまいそうです。

一輪の薔薇に去りゆく風邪の神            山口青邨

薔薇で治るのは珍しい例かもしれませんが、お見舞いと深紅の薔薇(と勝手に決めている)を差し出されたら、ぱあっと心が明るくなることでしょう。

薬ではありませんが、効くとされるものに〈玉子酒〉があります。

かりに着る女の羽織玉子酒                           高浜虚子

「女」の前で〈嚏〉でもしたのでしょうか。風邪も方便になるのかもしれません。

亡き母に叱られさうな湯ざめかな                    八木林之助

まずいと認識しながら改められない習慣もあります。一度風邪をひいてしまうと、気を付けるようになるのですが。ひいてしまったら保温と睡眠、そして作句を薬として治るのを待つことにしましょう。(正子)

浪速の味 江戸の味 11月【おじやうどん】(浪速)

caffe kigosai 投稿日:2024年11月9日 作成者: youko2024年11月13日

おじやうどん

きつねうどん

十月も夏日が続き、やっと秋らしくなったと思ったら、もう立冬。一気に冷え込んできました。こんな時は温かいうどんが食べたくなります。

江戸落語に「時そば」がありますが、上方落語には「時うどん」があります。

その冒頭は、〈売り声には、それぞれ季節感というものがございます。金魚売りてなものは夏のもんですな。「き~んぎょ~え、金魚」ああ夏やなという気がいたします。一方、冬の売り声の代表といえばうどん屋さんですな。「うど~んや~え、おそば」〉とテンポよく始まります。兄貴分の清八と弟分の喜六の二人連れがうどんを食べたくなったものの、二人の持ち合わせは十五文。十六文のうどん代に一文足りません。それであきらめる二人ではありません。うどん一杯を注文し、二人で半分こしようとなりました。清八が先に食べ、半分残したるといいながら、喜六がやっと鉢を受け取ったらうどん二筋のみ。じゅるるると汁を飲んであっという間におしまい。このやりとりが「あるある」で笑わせます。一文足りない支払いの様子は江戸の「時そば」と一緒で、八文まで数えたところで「今何どきや?」と聞き、うどん屋は「へい、九つで」と答えると「十・十一・・・・十六」と一文ごまかして勘定を済ませ、「ほなさいなら」。これに味をしめた喜六が「明日わいもやったろ」と次の日、小銭を懐にいそいそと昨日より早い時間に出かけます。うどん屋を見つけてうどんを食べ、そしていよいよ支払いです。昨日と同じように、八文目まで数えたところで「今何どきや」と聞くとうどん屋が「へい、四つで」と答えたもので、「五つ、六つ・・・」と十六まで数えて支払い、結局払い過ぎとなりました。あほらしい噺ですが、こすいことを考えたら、こんな目にあうんやでというオチが面白いです。

「時そば」のほうが、知られているかもしれませんが、明治時代に、三代目柳家小さんが上方落語の「時うどん」を江戸落語に伝えたと言われています。

やはり、大阪は出汁が命のうどんです。代表格は「きつねうどん」。甘辛く炊いた油揚が出汁のきいたうどんによく合います。きつねうどん発祥の店が、心斎橋にあります。明治26年創業で、いまも変わらず人気店です。大きな油揚がどんとのっています。出汁もきれいに飲み干すと、身体が温もってきます。その老舗のうどん店にはもう一つ名物うどんがあります。おじやとうどんが出汁で一体となった「おじやうどん」です。おじやは雑炊です。戦時下の食糧不足の時に、ありあわせの材料を入れて誕生したそうです。現代のおじやうどんは、卵、かまぼこ、穴子、椎茸、葱等いろいろ入って出汁の旨さをさらに倍増させています。寒い夜は、「時うどん」で笑って、おじやうどんを食べてほっこりすることにします。

こんな夜はおじやうどんで温もろか    洋子

第十九回 カフェきごさいズーム句会 句会報(飛岡光枝選)

caffe kigosai 投稿日:2024年11月5日 作成者: mitsue2024年11月5日

第十九回「カフェきごさいズーム句会」(2024年10月12日)句会報告です。(   )は添削例。
「カフェきごさいズーム句会」はどなたでも参加できます。ご希望の方は右の申し込み欄からどうぞ。見学も大歓迎です。

第一句座              
【特選】
後の月眠りの国に母おはす      葛西美津子
秋の灯や手に馴染みたる熊野筆    矢野京子
荒涼の山くだりきて七竈       鈴木勇美
泥の海有明の月も遥かなり      藤井和子
(有明の月遥かなり泥の海)

【入選】
昆布締めにして艶めくや新豆腐    花井淳
(新豆腐昆布締めにして艶めける)
秋惜しむ店また一軒閉まりしと    周龍梅
(秋深し店また一軒閉まりしと)
今年米笑顔の君に供へけり      上田雅子
りすが来るまでは団栗そのままに   高橋真樹子
裸電球みんなで吊し秋祭       前﨑都
稲穂刈る嫗は一人影小さく      藤井和子
(稲穂刈る媼一人の影小さく)
ひと切れの松茸なれど土瓶蒸し    斉藤真知子
(ひとひらの松茸なれど土瓶蒸し)
無花果食ぶ薄き唇つやめかせ     赤塚さゆり
鯊を釣る蠢くゴカイ恐るおそる    前﨑都
(鯊を釣る蠢くゴカイ恐ろしき)
おひとりさまひとつ新米ならびおり  早川光尾
(おひとりさま一袋新米ならびおり)
名月を口実にして夫を呼ぶ      川鍋千栄子
秋の陽に干してけふから羽布団    上田雅子
窓開けて金木犀を一人占め      川鍋千栄子
いかにせむ卓に鎮座の大南瓜     斉藤真知子
(いかにせむ土間に鎮座の大南瓜)
焼さんま骨うつくしき母の皿     伊藤涼子

胡桃割るための金づち胡桃割る    飛岡光枝

第二句座(席題・茸、芒)
【特選】         
抱へ持つ舞茸の塊秋田人      花井淳
日暮れまで芒のなかの二人かな   上田雅子

【入選】
無造作に茸並べて田舎店      たきのみね
丈高く客間に活ける芒かな     上田雅子
同級の女ばかりの茸狩       矢野京子
一篭の茸さまざま鍋にせん     葛西美津子
茸取り名人常に孤独かな      前﨑都
お夜食に小さく握りし茸飯     赤塚さゆり
(夜食とて小さく握り茸飯)
毒茸ゆきづりの人誘ひけり     斉藤真知子
大阿蘇や見ゆる限りの芒山     斉藤真知子
(大阿蘇や見ゆる限りは芒山)

旅人の一夜宿りし薄かな      飛岡光枝

今月の花(番外編) アダンの実

caffe kigosai 投稿日:2024年10月30日 作成者: mitsue2024年10月30日

「田中一村展」が東京都美術館でひらかれています。

東洋のゴーギャンと呼ばれるこの作家の一枚の絵が、私に「アダンの実」を教えてくれました。今回の展覧会のポスターやチケットにはこのアダン(阿檀)の実が描かれた代表作「アダンの海辺」が使われています。1908年に生まれ、1977年に奄美大島で一生を終えた田中一村は、50歳にして絵を描くため首都圏から奄美大島に移住しました。子どもの頃はその画才により神童と呼ばれていました。

東京都美術館の会期は12月1日までありますので、機会があればぜひ足を運んでみてください。植物を中心として、熱帯の島にしかない美しさをふんだんに味わうことができ、島の独特の空気の中、自分の表現を追求しようとする彼の情熱がひしひしと伝わってきます。

私が田中一村の絵を知ったのはずいぶん前の事ですが、アダンの実の実物を見たのは数年前でした。生徒と一緒に開いた展覧会で、お花屋さんに勤めていた一人がこのアダンの実を金色に染めて作品にしたのです。

表面はパイナップルにも似ているけれど、形はパイナップルに比べると丸い。花屋さんの社長さんから、もういらないから持って帰っていいと言われ、色もあまりきれいでなくなったので色を付けました、と彼女。私は熟してオレンジ色になる前の色をみたかったと思ったものです。展覧会の後もらい受けしばらく眺めていましたが、触ると少し柔らかくなり、匂いも出てきたので捨てました。

学名はpanndanus tectorius、タコノキ科、英語でscrew pine。「たこのき」と呼ばれるのは、根がタコの足のように成長していくからだということです。このタコノキ属の名前が「パンダヌス」と言い、同属の小さなものが観葉植物として育てられているそうです。

その一つでしょうか、アダンと同属のパンダヌスの名を冠して売られている葉があります。長さは1.5メートルくらいになり、そのままでは輸送するのに葉が傷ついてはという気づかいからか、鋭角にかくかくと折りたたんでそのままでもいけられるような形にしてもって来られたこともあります。

葉の縁に縦に濃い緑の斑のはいったパンダヌスが、このアダンと近縁だったということを初めて知りました。アダンの実と、このいけばなで使うパンダヌスの関係は、牧野富太郎先生ならずとも「植物学は面白い」と思ったものです。

この十月、年に1回デパートで開かれる展覧会に緑のアダンの実をいけておいでの方がいて「あ、これだ」と観察することができました。お話を聞きたいと思いましたが聞きそびれました。全国はもとより世界から出品者が集まるので、この方も南の島のご出身かなと思ったのです。

南の国の面白い形の実は数えきれないほどあります。田中一村が描き、展覧会でいけられるアダンの実。世界は繋がり広がっていく、と感じる、いけばな作家としてはいけばなをしていてうれしい瞬間でもあります。(光加)

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「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

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飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
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5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
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福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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