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朝日カルチャーセンター「カフェきごさい」句会(十月)

caffe kigosai 投稿日:2022年11月23日 作成者: mitsue2022年11月23日

新宿朝日カルチャーセンター「カフェきごさい」句会。今月の兼題はサイトより十月の季語「秋めく」、花「ななかまど」、江戸の味「新豆腐」です。

【入選】
ななかまど穂高は白く空青し 和子

ななかまどの赤との対比として描いたと思いますが、白、青と入れ過ぎて散漫になってしまいました。原句は「ななかまど穂高は白し空青し」。

この道は開拓の道ななかまど 勇美

遥かむかしより秋を彩ってきたななかまど。開拓の人々が様々な思いで見た赤い実。

朝寒や熊鈴響く森の中 和子

うすら寒くなってきた時の空気感がよく出ていますが、「森の中」が当たり前なのが惜しい。

山の端にほのかな灯り新豆腐 和子

「ほのかな灯り」の様子をよりしっかりと描きたい。「山の端の灯り初むるや新豆腐」など。

登りきて極楽浄土草紅葉 和子

しっかり描かれていますが、「極楽浄土」が「草紅葉」の様子としては少し大げさかもしれません。

街の端の爪の先より初紅葉 勇美

「街の端」の「爪の先」とは細かすぎました。「爪の先」を生かすと「半島の爪の先より紅葉せり」などでしょうか。一考ください。

日を浴びて山高々と新豆腐 光枝

浪速の味 江戸の味(十二月) 鯛焼き【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2022年11月21日 作成者: mitsue2022年11月21日

「鯛焼き」は、小麦粉、砂糖、重曹などから作った生地を、鯛を形どった金属の型で焼き、餡を入れた和菓子です。

このような説明は不要なほど日本中で食べられている鯛焼きですが、その誕生は明治時代に東京で売り出されたという説が有力です。

鯛焼きの前身である今川焼も様々な呼び名で全国に普及していますが、鯛焼きの存在感にはかなわないのではないでしょうか。それは鯛焼きの形にあります。鯛はもともと形の良い魚ですが、鯛焼きはその良さをより強調し、胸を反らし、大きなしっぽをピンと上げたいかにも美味しそうな姿に発展させました。

鯛焼きの焼き型には、一匹ずつ焼く「一丁焼き」型と複数を一度に焼き上げる型の二種類があります。鯛焼き通の間では、「一丁焼き」を≪天然もの≫、一度に複数焼くものを≪養殖もの≫と呼ぶとか。さすが写真本が出版されるほどの人気者、ファンのこだわりが愉快です。

中身がカスタードのものなど、昔から様々な鯛焼きが登場しています。最近では卵の白身だけを使った「白鯛焼き」、回りの羽が付いたままの「四角鯛焼き」の店も増えました。

鯛焼きを最初に考案したと言われる東京都港区麻布十番の店は、一丁焼きの天然ものです。焼き加減が一匹ずつ違い、少し焦げ目が多いのが特徴。餡はたっぷりしっぽまで。小兵ながらなかなかの面構えです。

マスク生活が続き、明るいニュースも少ないご時世ですが、鯛焼きを懐に凩の町を元気に歩きたいものです。

鯛焼やすこし怒つて焼き上がる 光枝

(俳句は、角川書店『俳句』11月号 結社歳時記「古志」より転載)

今月の花(十二月)寒木瓜

caffe kigosai 投稿日:2022年11月20日 作成者: mitsue2022年11月23日

本来は別の季節のものでも冬や寒とつけば冬の季語として存在する植物があります。たとえば寒椿、冬薔薇、寒木瓜などです。 この季節は実をつける植物は多いのですが、一方花木は少なく、そんな中、寒木瓜(冬木瓜)の花は鮮やかな色でいけばなに賑やかな雰囲気をもちこんでくれる大切な花材のひとつです。

国賓として来日するゴルバチョフ大統領夫人に、いけばなのデモンストレーションをお目にかけることになったのはもうずいぶん昔になります。

観客にむかって何もないところから花材をいけていき、作品が出来上がっていく過程をみせる、というデモンストレーションを大先輩の師範がなさることになりました。夫人の分刻みのスケジュールと聞いた大先輩はいけることに専念したいということで、若かった私が説明係となりました。ゴルバチョフ夫人は、季節の花材を使った作品が次々といけられていくのを、VIPをお迎えする部屋のソファーでくつろいだ様子でご覧になっていました。

木瓜が登場した時、夫人は身を乗り出し(これはなんという花ですか?)と質問をなさり、すぐにロシア語通訳から名前が伝えられました。花の色は淡紅のほか白、紅白の咲き分けのものもあること、いける時は棘に気をつけてーーなどと説明したと記憶しています。花屋がここぞと用意したその木瓜は枝も太く、何より緋色の大きな花は生命感にあふれていました。

会が終わり、夫人のあとから大先輩をはじめ、通訳と私がイヤホーンをつけたSPとエレベーターに乗り込みました。扉が閉まるとライサ夫人が、もう一度あの赤い花の名前を日本語で知りたいというので、(ぼ、け!)私はゆっくりと発音しました。下降するエレベーターの壁に少し寄りかかりながら、ライザ夫人は( ぼ、け。ぼ、け。)と自分の胸にしまいこむように二回繰り返しました。

エレベーターが一階に到着し、扉が開きました。玄関のガラスの向こうにいた警護のSPたちは、夫人を確認したとたん、はじけるように夫人の乗る車の周りを取り囲み低い姿勢で、集まった人々と四方に鋭い視線を走らたのです。夫人の表情は公の人となり、車は警備の車と白バイを先頭にして一時交通遮断された大通りに消えていきました。

夫人の訃報が伝わったのはそれから何年もたっていなかったのではないでしょうか。

今、私も海外からの国賓をはじめ大事なお客様にデモンストレーションをする機会をいただくことがあります。多忙な滞在中、植物の力を借りて少しでもほっとする時間を楽しんでいただけたらーーと願うとき、あのライザ夫人の緋色の木瓜を思い出すのです。

以上の文章を書いて十年が過ぎ、ライザ夫人を本部の会館にお迎えしたのはまたその何十年も前の事になります。

今年の八月、夫君のゴルバチョフ氏もなくなりました。なくなる数年前のゴルバチョフ氏のドキュメンタリーが放映され一種の感慨をもって私は見ていました。

少し不自由になった体、周りを支えるご家族など。それでも声ははっきりとしていました。今ではライサ夫人の傍らで永遠の眠りについています。

こんなバカなことは、一刻も早くやめるべきーーウクライナ侵攻が始まった二月以来そう言っていたといわれるゴルバチョフ氏が、もう少し元気で生きていたら、たとえわずかでも世界は違った方向に進んでいたのではなかろうかと思います。

ついこの間の事、数十年前夫人をお迎えした、まさにその会館の日本間に私は他の花材とともに 寒木瓜をいけました。花は小ぶりで、白い花びらに薄いピンクが時折混じる優し気な更紗木瓜です。

あの真っ赤な華やかな寒木瓜が、夫人の一瞬解き放たれたようなリラックした表情とともに記憶の底からうかびあがり、過ぎた年月の長さを改めて実感したのでした。(光加)

今月の季語〈十二月〉 年用意

caffe kigosai 投稿日:2022年11月17日 作成者: masako2022年11月18日

二〇二二年も歳末となりました。「波」の心配をしながら「来年こそは」と念ずるのが、残念ですが年越しの定番になってきました。ですが、波がおさまってから計画を立てるのはなく、まずは計画を立てようと思えるようにもなってきました。

というわけで、計画通りに粛々と進められるとは限らない年用意、年越し、新年の抱負、……を今からこなしてまいりましょう。

まず今年は〈事始(ことはじめ)〉という生活の季語を意識してみませんか? この日から新しい年を迎えるための仕事を始めるという意味です。農事の事始は明けて二月八日ですが、〈正月事始〉の意で用いるときには十二月十三日です。祇園の華やかな(新型コロナ襲来以前ほどでないとはいえ)事始が映像で流れますから、その夜のニュースは要チェックです。

京なれやまして祇園の事始             水野白川

軸赤き小筆買ひけり事始             小林篤子

二句目の小筆は〈賀状書く〉のに使うのでしょうか。

知らぬ子と遊ぶ吾が子や賀状書く      岸本尚毅

賀状うづたかしかのひとよりは来ず    桂 信子〈新年〉

〈賀状〉のみですと新年の季語ですが、「書く」をつけて年末の季語になります。年末と新年と共通する語の入る季語の例が多々ありますが、「用意する」というニュアンスを付加して年末の季語になることを意識しましょう。

注連飾る去年の釘の曲るまま          赤尾恵以

火の香りしてゐて留守や注連飾り      西山 睦〈新年〉

年末の大掃除、年越し用の買物、飾りつけ、料理や器物、衣類の支度などに、いそいそと忙しなく立ち働くことになります。〈年用意〉はそういったものすべてを指す総称です。

縄の玉ころがつてゐる年用意          高野素十

山国にがらんと住みて年用意          廣瀬直人

正月用のもろもろを売るために立つ市を〈年の市〉といいます。

注連の山その中ぬくし年の市          山口青邨

アマゾンを地球の裏に年の市          和田悟朗

一句目、売られている間は注連飾も物であるところが面白いです。「ぬくし」は実感であり発見です。二句目は、雑駁に売り物が並んだり掛かったりしているさまから、まるでアマゾンだ、本物のアマゾンは地球の裏側だけど、と発想したのではないでしょうか。

そして年年歳歳わが家では頭痛の種になっているのが〈煤掃(すすはき)〉です。いわゆる年末の大掃除ですが、今年こそ、家を浄め年神様を迎える心持ちで、と念じています。

煤掃いて其夜の神の灯はすゞし        高浜虚子

煤払終へ祖父の部屋母の部屋          星野立子

とはいえ押し詰まって句会の予定があるし、と思っているのも私です。逃れるために外出することを〈煤逃(すすにげ)〉といいます。

煤逃げの蕎麦屋には酒ありにけり      小島 健

そのまま〈年忘(としわすれ)〉に突入ということもまたよくある話ですが、さて今年は首尾よく酌み交わすことができるでしょうか。(正子)

髙田正子さんの新刊 『黒田杏子の俳句』櫻・螢・巡禮

caffe kigosai 投稿日:2022年10月28日 作成者: mitsue2022年10月28日

カフェきごさいで「今月の季語」を連載中の髙田正子さんの著書『黒田杏子の俳句』(深夜叢書社、3,000円+税)が刊行されました。

結社誌『藍生』に掲載された連載(2019年1月号から2021年12月号まで)を再構成した本書は、毎月のテーマ(季語)に沿って黒田杏子さんの俳句を分類、鑑賞するに止まらず、エッセイなどからその背景を掘り下げ、作者の俳句の過去から現在、そして未来にまで目を凝らした一冊となっています。

黒田杏子さんの俳句の魅力に深く触れながら、季語の本意を丁寧に読み解いた、実作への手がかりに満ちた本書をぜひご購読ください。(店長)

カフェきごさい「ネット投句」10月 飛岡光枝選

caffe kigosai 投稿日:2022年10月25日 作成者: mitsue2022年10月26日

【入選】
ゆらゆらと池塘に映り赤とんぼ  和子

命を繋ぐために集まってきた赤蜻蛉を、青空ごと映す澄み切った水。ゆらめいているのは命かもしれません。原句は「赤蜻蛉池塘に映るゆらゆらと」。三段に切れてしまい、何が言いたいのかが不明瞭になっています。赤蜻蛉に焦点が当たる句作りを考えてみましょう。

朝日カルチャーセンター「カフェきごさい」句会(九月)

caffe kigosai 投稿日:2022年10月25日 作成者: mitsue2022年10月25日

新宿朝日カルチャーセンター「カフェきごさい」句会。今月の兼題はサイトより九月の季語「台風」、花「野ばらの実」、浪速の味「鷹の爪」です。

【特選】
台風を睨む一徹鬼瓦  勇美

台風が頻繁に来る沖縄の屋根はシーサーが守っていますが、句の家は鬼瓦が守っています。ありそうで無かった台風の新鮮な一句。

【入選】
天の川降り注ぎたり山の小屋  和子

天の川が降り注ぐとはなんと豪勢なのでしょう。内容はよくわかるのですが、句の形が少々不自由なのが惜しい。また「山の小屋」と「山小屋」は違うので注意しましょう。「山小屋へ降り注ぎけり天の川」など。

吊るされて空を引つ掻く鷹の爪  勇美

青空に揺れる鷹の爪が鮮やかです。ただ、引っ掻くとまで言うと爪との理屈が見えてしまうので深みが無くなってしまいます。普通の言い方を工夫してみましょう。

学校へ秘密の近道野ばらの実  勇美

子供は誰でも自分だけの(と思っている?)秘密の近道を持っています。「野ばらの実」がよく効いています。原句の表記は「学校へ秘密の近みち野薔薇の実」。

鷹の爪湯治の窓を彩れり  勇美

宿の窓にゆれる鷹の爪は、香辛料として湯治客の身体を癒すだけでなく、目からも元気にしてくれるようです。鄙びた温泉地の鮮やかな一点。

野分け去り果樹は裸で並びけり  和子

丹精込めた果実の収穫を目前に、台風が襲うことがよくあります。呆然と立ちすくんでいるような果樹の様子。「裸で並ぶ」に冷徹な目が感じられて奥深い一句となりました。

颱風にいなないてゐる摩天楼  勇美

こちらは大都会の台風。摩天楼がいななくという鋭い観察眼。中七の「ゐる」が少々間延びするので、できれば消す工夫を。「颱風に一夜いななく摩天楼」など。

女王の眠り安かれいばらの実  光枝

浪速の味 江戸の味(11月)柚子【浪速】

caffe kigosai 投稿日:2022年10月21日 作成者: youko2022年10月21日

寒くなってくると鍋料理の登場する回数が増えます。ここで活躍するのが柚子です。ポン酢の柚子の香りに食欲が増します。

大阪の箕面市北部の止々呂美(とどろみ)地区は、実生(みしょう)の柚子の産地として有名です。接ぎ木の柚子の木は5年ほどで収穫できるのですが、種から育てる実生の柚子は実をつけるまで時間がかかります。「桃栗三年、柿八年、柚子の大馬鹿十八年」と囃され「そんな言い方はないやろ」と思いますが、じっくり育った実生の柚子は大きく香りがよく保存がききます。それだけに収穫が待ち遠しい貴重な柚子なのです。

江戸時代中頃の箕面では、蜜柑が栽培されていたようです。止々呂美地区では明治時代から柚子が特産品になりました。晩秋の季語になっていますが、収穫は11月中頃から12月中頃にかけて行われます。木の枝には、長く鋭い棘があります。実が棘に触れると傷がつき茶色く変色します。商品価値を下げるので、収穫前に棘を切り落としたり手袋をはめて注意深く収穫作業をします。

吸い物に表皮を浮かべたり、柚味噌、柚釜、柚餅、マーマレード、柚子のシフォンケーキなど、さまざまな料理に使われます。果汁も皮も利用できます。もう少し先になりますが、冬至の日には無病息災を祈り柚子湯に入ります。湯上りの柚子茶でさらに身体が温まります。今年は止々呂美の実生の柚子で元気に冬を過ごしたいと思います。

山里に実生の柚子の熟るるころ   洋子

 

十一月 凩・木枯

caffe kigosai 投稿日:2022年10月18日 作成者: masako2022年10月19日

今年はいつまでも蒸し蒸しと暑く、夏物が仕舞えないとぼやいていましたが、十月初旬にいきなり真冬のように冷え上がりました。あわてて冬物を出した方も多いでしょう。季節は確実に移っていますが、ゆきあいのなだらかだった昔が懐かしくもあります。

ともあれ今年の立冬は十一月七日。〈初冬〉〈はつふゆ〉に入ります。

冬来れば母の手織の紺深し         細見綾子

立冬のことに草木のかがやける      沢木欣一

〈立冬〉〈冬来(きた)る〉〈冬に入る〉〈今朝の冬〉は同義に使えます。沢木・細見夫妻はともに、冬と呼ぶようになった今日の、昨日までとは異なる景や感慨を汲み取っています。

立冬と言葉も響き明けゆく空        髙柳重信

冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ       川崎展宏

同義の季語であっても文字数やリズム、音の響きが異なります。Tの音や促音の入る立冬は弾けるように、「ふ」「ゆ」の音はやさしく響きます。展宏の句は〈冬〉の項の例句ですが、私はいつも冬に慣れきっていないころの句として味わっています。

湯にゆくと初冬の星座ふりかぶる    石橋秀野

初冬の音ともならず嵯峨の雨        石塚友二

〈初冬〉も同様に「ショトウ」と読むか「はつふゆ」と読むかによって印象が変わります。銭湯へ行くときの寒さは「ショトウ」、ひそやかな雨は「はつふゆ」―必ずしもこじつけなくてよいのですが、使い分けを意識したいものです。

これまでもたびたび触れてきましたが、うっかりしやすいものに〈末枯〉と〈枯〉の使い分けがあります。〈末枯〉はまさに文字通り「末」(先端)のほうだけが枯れることを指し、秋の季語です。

名を知らぬまま末枯のうつくしき             有澤榠樝〈秋〉

草山の綺麗に枯れてしまひけり              正岡子規〈冬〉

末枯と枯とでは、残り方もその色合いも異なるはずです。脳内に絵を描きながら味わいましょう。

そしてまさにこの間を吹く強い北風が〈凩・木枯〉です。文字通り「木」を「枯」らす風です。季語の「枯」は枯死することではなく、木の葉を散らしきることですから、木々に葉が無くなったあとの風を〈凩・木枯〉と呼ぶ必要はありません。〈北風〉〈空風〉〈○○颪〉など応じて詠み分けてください。

凩の果はありけり海の音                     言水

海に出て木枯帰るところなし                 山口誓子

「木」に関わる風を海と取り合わせる発想は江戸時代から存在しました。おそらく誓子も言水の句を知っていたことでしょう。「あり」と「なし」は対極にある語です。変貌を詠んだ前句と、消滅の後句、違いを味わってみましょう。誓子の句は昭和十九年作。特攻隊と重ねて鑑賞されたこともあったようです。

木がらしや目刺にのこる海の色              芥川龍之介

こがらしの樫をとらへしひびきかな           大野林火

木枯にさらはれたくて髪長し                 熊谷愛子

凩にまなこ輝く一日かな                     山田みづえ

汝を帰す胸に木枯鳴りとよむ                藤沢周平

 

さて、あなたの凩は、どこをどんな音で吹くのでしょうか。(正子)

 

今月の花(十一月) まゆみの実

caffe kigosai 投稿日:2022年10月16日 作成者: mitsue2022年10月16日

向かって左がまゆみの実(福島光加・作)

 
この秋、帯広で門下といけばなデモンストレーションをすることになりました。 現地の花屋さんに花材を発注しましたが出発直前にご不幸があり、札幌の花屋さんなら一日かければ花材を帯広に送れることから、懇意の東京の花屋さんに橋渡しをお願いしました。

 その頃、東京の私の教室には、美しいピンクの実のたくさんに付いた「まゆみ」が届いていました。ニシキギ科の「まゆみ」は、その名の様にかつては弓を作ったほどしなやかで強く、秋には薄いピンクや白の愛らしい実が付きます。その四角の実は割れてかわいらしい赤い種をみせてさがります。この性質からでしょうか、「まゆみ」は女の子の名前に付けられます。

 北の大都市札幌の市場に「まゆみ」はあるのだろうか。あれば水の入ったチューブに枝の元をいれて発送してくれれば日高山脈を越えても鮮度を保てると思い、数種類の花や葉の発注リストの最後に「まゆみ」を付け加えました。この実を秋の花や枝といけたらさぞ美しいことでしょう。

 帯広のホテルには、大きな段ボール箱が届いていました。古新聞に包まれた花材を次々と開けてはバケツに入れていると、薄い緑の葉を多数つけた70センチくらいの枝が10本でてきました。「これがまゆみ?」東京の花屋さんに確認すると、確かに札幌に「まゆみ」を注文したという返事。でも、美しいピンクの実の姿はひとつもありませんでした。
 
 気を取り直して、他の花材と「まゆみ」をホテルのシャワールームに並べたバケツに、元を水の中で切る水揚げをして入れていきました。

 翌日、この水揚げがきいてピンと新鮮な姿になった他の花材たちの中で、葉だけの「まゆみ」はすでに乾燥がはじまり下を向いていました。一昼夜水をつけないで運ぶことを想定して花材を選んだので、実の無い「まゆみ」を注文することはありえません。注文に「まゆみの(実)」と強調すればよかったのでしょうか。

 がっかりしている時間はありません。帯広出身の門下のご実家の農場に9月に下見に来た時に目をつけていて、切るのを許していただいたものがありました。さくらんぼうをつける桜の枯れ枝、エゾ松、そしてアナベルやコキア。アナベルは切るとすぐ元をたたいてミョウバンを刷り込みました。水揚げの悪いコキアは根ごと堀り、土をつけたままバケツに入れて車に積み込みました。

 広い空の下に広がる日高の山々。帯広の碁盤の目のまっすぐな道路を花材を積んだ車は会場へとスピードを上げていきます。

 「待って!!とまって!!」私の目に飛び込んできたのは道路沿いの緑の中の赤い点。駆け寄ると、それはまさに葉の中にピンクの実をさげている「まゆみ」でした。

 「まゆみよ!」「へえ?ここでまゆみなんて見たことがない」。帯広に住んでいる門下は不思議がりました。道路際の持ち主のわからない「まゆみ」の枝を数本いただきました。葉を取っていくと初々しいピンクの実が現れ、「まゆみ」はデモンストレーションのフィナーレに、千葉から送らせた青竹とともにいけられました。竹も北海道で入手するのは困難なのです。

 いけばなのデモンストレーションは帯広では初めてと聞きました。「蕎麦の茎が作品になるのだ」「自分の家の周りに植えているコキアもいけばなに使えるのね」。ご自分の名前がまゆみで、まゆみを初めて見て自分の名前を改めて考えて興味深かったという声も寄せられました。

 観客の皆さんの拍手と笑顔の中、数々の花材を提供してくださった地元帯広の皆様に心から感謝しました。

 そして、「まゆみ」は?感謝すべきは神様、としか私には思えなかったのです。「まゆみ」はわたしにとって特別な木になりました。(光加)

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • 第三十五回 2026年2月14日(土)13時30分
    (3月は第一土曜日・7日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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