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浪速の味 江戸の味(九月)目黒のさんま【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2021年8月19日 作成者: mitsue2021年8月19日

「秋刀魚」は日本の秋を代表する魚です。太平洋に広く分布する秋刀魚は、夏に千島沖に集結し八月下旬には日本列島に沿って南下をはじめます。この頃の秋刀魚は脂質が20%にもなっているということで、焼く時の煙の多さが秋刀魚の秋刀魚たる油煙、いや所以。

古典落語「目黒のさんま」の舞台、東京都・目黒界隈は、将軍が鷹狩に訪れる農村地帯で海とも魚とも縁のない内陸部、現在でも鷹番という地名が残っています。「目黒のさんま」は鷹狩に訪れた殿様の話です。

お供が弁当を忘れたため空腹に苦しむ殿様は、匂いに誘われて農家で焼いていた見知らぬ棒のような魚(もちろん秋刀魚)を所望。止める家来を振り切って、直火で焼いた黒焦げの秋刀魚にかぶりつきます。するとその美味なること、殿には忘れられない味となりました。

屋敷に戻った後も、殿様は秋刀魚を熱望。仕方なく家来は日本橋の魚市場から新鮮な秋刀魚を仕入れますが、食べやすさを考えて、秋刀魚の脂と小骨すっかり抜き、身の崩れた蒸し魚にして殿様の御前へ。そのあまりの不味さに殿様は「この秋刀魚はいずこで求めた」日本橋ですとの家来の返事を聞くと「それはいかん、秋刀魚は目黒に限る」。

この原稿を書いている今日、今年の秋刀魚の高値がニュースで流れました。地球温暖化と近隣諸国の乱獲で漁獲高が年々減っている秋刀魚ですが、この秋もぼうぼうと脂を燃やして焼き上げた秋刀魚を味わいながら、昔の殿様を思い起こしたいものです。これが本当の「往時茫々」、お後の用意がよろしいようで・・・

この国は煙ぼうぼう秋刀魚かな  光枝

今月の季語(9月)月(2)

caffe kigosai 投稿日:2021年8月18日 作成者: masako2021年8月19日

熱帯夜が続いてどんよりと濁った空気も、いつしか透き通り、月や星の光がまっすぐに届くようになってきます。今年の名月は九月二十一日です。その日の月齢は14・1なので、少し満ち足りないように見えても錯覚ではありません。翌日の十六夜の月のほうがまん丸に見えることでしょう。

〈花/桜〉のときと同じことわりで、私たちは〈月〉に対しても「待つ」ということをします。幼いころ、夜ごとに空を仰ぎながら、月が育ちゆくさまを観察したことはありませんか? 詠むことはなかったかもしれませんが、あれはすでに「待つ」行為であったわけです。

初月やまだ真青なる楡の空       古賀まり子

あら波や二日の月を捲いて去る     正岡子規

吾妻かの三日月ほどの吾子胎すか    中村草田男

弓張の月片割れは池に落つ       峯尾文世

朔の月は肉眼で確かめることはできませんが、か細い月を目にすることはあります。これを陰暦八月のみ「初」をつけて〈初月(はつづき)〉と呼びます。月は夜ごとに太りゆき、また、日没のあとに月が空にある時間も長くなっていきます。草田男の句は〈三日月〉を比喩に使っていますが、空にかかる月を指して「ちょうどあのくらい」と思ったのでしょう。やがて月満ちて子が誕生することを意識しながら。〈弓張月〉は弓を張ったように見えることによる呼称。〈半月〉のことです。第四句は月が弓矢で射られ、半分が池に落ちたような面白い詠みぶりです。

陰暦八月の上弦の月(右側が丸い半月)のころまでの、宵に現れ夜半には没する月を指して〈夕月・宵月〉と呼びます。

昼からの客を送りて宵の月            曽良

風に騒ぐ心や須磨の夕月夜            京極杞陽

陰暦八月十四日の夜、つまり十五夜の前夜を〈待宵(まつよひ)〉といいます。この日の月は〈待宵の月〉〈小望月〉です。

待宵や女主に女客                蕪村

婚約のふたりも椅子に小望月           及川貞

そしていよいよ陰暦八月十五日となります。〈十五夜〉です。この夜の月を〈名月〉〈明月〉〈望月〉〈満月〉〈今日の月〉〈芋名月〉等々と呼びます。いかに心待ちにしてきたかが呼称の多さからも推察できるでしょう。

名月や池をめぐりて夜もすがら     芭蕉

けふの月長いすゝきを活けにけり    阿波野青畝

真向に望月あげし村芝居        木附沢麦青

さて「月を待つ」にはもう一つ、その日の月の出を待つ意があります。どの日でもよいわけではありません。十五夜の月の出を、特別なしつらえをして待つのです。青畝のように「長いすゝき」を活けたり、団子を盛ったり、地方やその家ならではの供え物があることでしょう。〈月見〉〈月の宴〉〈月祀る〉〈月の座〉……季語もいろいろあります。人の営為ですからこれらはすべて「生活」の章に収められています。

岩鼻やここにもひとり月の客       去来

やはらかく重ねて月見団子かな      山崎ひさを

三人のふだんの友と月見かな       鈴木花蓑

名どころの何処選まん月見酒     高橋睦郎

新宿の最上階に月祭る         上田日差子

月祀る何もなけれど窓浄く       岩田由美

季語ごとに項目ごとに詠むこともできますが、これらを大きく包むように詠み上げた句があります。

月を待つ情(こころ)は人を待つ情  山口青邨

俳句を詠むときは対象に深く感情移入しています。ときには憑依することもあります。詠む対象が人でなくても(たとえ無機物であっても)、意識下で人(有機物)と同じように捉えているのです。などと理屈をこねること自体が恥ずかしくなるほど、朗々と天翔る一句であると思います。(正子)

カフェきごさい「ネット句会(8月)」互選+飛岡光枝選

caffe kigosai 投稿日:2021年8月7日 作成者: mitsue2021年8月8日

【互選】
連中:桂 都 裕子 すみえ 光尾 良子 弘道 雅子 夕菅女 隆子 利通 あきえ 光枝

桂選
追ひし夢たたんで仕舞ふ夏の果  すみえ
朝経の声の若さよ夏木立  雅子
睡蓮や弾雨の降らぬ空しずか  あきえ

都選
睡蓮や弾雨の降らぬ空しづか  あきえ
回天や海ほほづきを誰が吹く  利通
夏空を自在に少女スケボーと  すみえ

裕子選
朝経の声の若さよ夏木立  雅子
河骨にぎらぎらと日の沈みゆく  光枝
ひとときを地球に浮いて平泳ぎ  雅子

すみえ選
終戦日玄関の靴そろへけり  都
金魚玉ポンポン船の通り過ぐ  利通
ひとときを地球に浮いて平泳ぎ  雅子

光尾選
朝経の声の若さよ夏木立  雅子
銀漢や途絶えしままの友の伝  都
ひとときを地球に浮いて平泳ぎ  雅子

良子選
終戦日玄関の靴そろへけり  都
家よりも向日葵高く描く子よ  桂 
ひとときを地球に浮いて平泳ぎ  雅子

弘道選
朝経の声の若さよ夏木立  雅子
大欅入道雲に仁王立ち  光尾
大文字送りて涼し京の闇  雅子

雅子選
緑陰やゲートボールの音高し  光尾
睡蓮や弾雨の降らぬ空しづか  あきえ
回天や海ほほづきを誰か吹く  利通

夕菅女選
金魚玉ポンポン船の通り過ぐ  利通
回天や海ほほづきを誰か吹く  利通
ひとときを地球に浮いて平泳ぎ  雅子

隆子選
長梅雨の北斗は水を零しけり  裕子
大文字送りて涼し京の闇  雅子
終戦日玄関の靴そろへけり  都

利通選
長梅雨の北斗は水を零しけり  裕子
夏空を自在に少女スケボーと  すみえ
歪みたる陽だまり抱く木下闇  あきえ

【飛岡光枝選】
《特選》

朝経の声の若さよ夏木立  雅子

言葉が過不足なくすっきりとした夏の句。夏木立に響く読経の声が聞こえてきます。

回天や海ほほづきを誰か吹く  利通

人間魚雷と言うも恐ろしきものがあった時代。中七下五は現実の情景であると同時に、海中へ思いを馳せた鎮魂の一句。

ひとときを地球に浮いて平泳ぎ  雅子

同じ着想の句はありますが、ゆったりとした調べが句をより大きくしました。互選でも多くの賛同を得た一句。

《入選》
縺れ行く真白き蝶や梅雨明ける  桂

「縺れ行く」に梅雨が明けたばかりの空気感が感じられます。

大欅入道雲に仁王立ち  光尾

「仁王立ち」に夏の生命力が感じられます。

大夕焼くやし涙はこれつきり  すみえ

この時期の悔し涙となるとオリンピックでしょうか。「大夕焼」がいい。

睡蓮や弾雨の降らぬ空しづか  あきえ

地の静けさと天の静けさと。

終戦日玄関の靴そろへけり  都

なにげない日常が続くことの幸を思いつつ。

考へをまとめるふりの扇かな  良子

ふりをしているというところがミソ。

言の葉は五色の風に星今宵  夕菅女

言葉も初秋の星も今宵は風に吹かれて。

金魚玉ポンポン船の通り過ぐ  利通

金魚玉に映る通り過ぎて行く船を思いますが、金魚玉の中の出来事のような不思議さがあります。

青空を自在に少女スケボーと  すみえ

最後が尻切れトンボのようですが、この句の場合、スケボーが空へ飛びあがった瞬間のような感じがあります。

鮎二匹焼かれて無念反り返る  弘道

料理屋でしたら串打ちをしますが、句は釣りたてを河原で焼いている様子でしょうか。鮎には気の毒ですが、哀れさのなかにおかしみを感じます。美味しそうなのが何より。

ネット句会(8月)投句一覧

caffe kigosai 投稿日:2021年8月1日 作成者: mitsue2021年8月1日

暑中お見舞い申し上げます
8月「ネット句会」の投句一覧です。
参加者は【投句一覧】から3句を選び、このサイトの横にある「ネット句会」欄(「カフェネット投句」欄ではなく、その下にある「ネット句会」欄へお願いします)に番号と俳句を記入して送信してください。
(「ネット句会」欄にも同じ投句一覧があります。それをコピーして欄に張り付けると楽です)

選句締め切りは8月4日(水)です。みなさんの選と店長(飛岡光枝)の選はこのサイトにアップします。(光枝)

【投句一覧】
1 縺れ行く真白き蝶や梅雨明ける
2 歪みたる陽だまり抱く木下闇
3 恋に倦む爪の白さよ灸花
4 緑陰やゲートボールの音高し
5 夕立や白きマスクの流されて
6 追ひし夢たたんで仕舞ふ夏の果
7 長梅雨の北斗は水を零しけり
8 朝経の声の若さよ夏木立
9 大欅入道雲に仁王立ち
10 大夕焼くやし涙はこれつきり
11 大文字送りて涼し京の闇
12 線路越え着きたる茶房氷旗
13 栴檀の木も見ゆる旧家夏木立
14 睡蓮や弾雨の降らぬ空しづか
15 終戦日玄関の靴そろへけり
16 昨夜のこと悔やんでをれば遠き雷
17 考へをまとめるふりの扇かな
18 厚塗りの油彩画のごと夏の山
19 言の葉は五色の風に星今宵
20 銀漢や途絶えしままの友の伝
21 金継ぎを重ね重ねて晩夏かな
22 金魚玉ポンポン船の通り過ぐ
23 含羞も死語となりしか稲の花
24 回天や海ほほづきを誰か吹く
25 河骨にぎらぎらと日の沈みゆく
26 家よりも向日葵高く描く子よ
27 夏空を自在に少女スケボーと
28 何処より流れ着きしか香水瓶
29 炎天や釣り人休む橋の下
30 炎昼や添水の響く京の寺
31 鮎2匹焼かれて無念反り返る
32 ひとときを地球に浮いて平泳ぎ
33 デパートに夏の帽子を買いに行く
34 この空を行けは銀巴里天の川
35 かの日よりつぎつぎ開く芙蓉かな
36 いにしえの夏に坐したり微笑仏

カフェきごさい「ネット句会」8月のお知らせ 

caffe kigosai 投稿日:2021年7月24日 作成者: mitsue2021年7月24日

「ネット句会」専用の投句欄ができました☆
カフェきごさい「ネット句会」は、どなたでも参加自由です。
8月の句会の投句締切りは7月31日(土)です。

・このサイトの右側に出ている「ネット句会」欄より、7月31日までに3句を投句ください。

・8月1日中にサイトへ投句一覧をアップしますので、8月4日までに参加者は3句を選び、投句と同じ方法で選句をお送りください。

・後日、参加者の互選と店長・飛岡光枝の選をこのサイトへアップいたします。

・「ネット句会」欄を設けましたので、投句、選句ともそちらへお送りください。

猛暑、コロナ、オリンピックと今年の夏は句材に事欠きません。どうぞ辛口、甘口、この夏ならではの句をお寄せください。(店長・飛岡光枝)

カフェきごさい「ネット投句」(7月)飛岡光枝選

caffe kigosai 投稿日:2021年7月22日 作成者: mitsue2021年7月22日

暑さ厳しいなか、快調。

【特選】
うみほおづき今は遠くに行きし人  和子

海酸漿はどこか夏の懐かしさを纏っています。句の中七下五は季語によっては曖昧に感じるフレーズですが、この句ではとても活きています。「うみほほづき」、旧かな確認を。

【入選】
バンガロー涼しき星に寝まりけり  涼子

句の形はしっかり出来ていますが、「バンガロー」ではただの場所の説明、かつ夏の季語なので避ける工夫を。

玉解きて風を捉へる芭蕉かな  涼子

こちらも形はよく出来ていますが、「捉える」が少々曖昧で普通。もう一歩踏み込みたい。

夏の雲肩肘を張ることもなし  弘道

夏の雲にもらう大きな安らぎ。夏の雲の句として新鮮です。原句は「肩肘を張ることもなし夏の雲」。出来上がってからもあれこれ見直したい。

今はもう望郷のなか夏の山  弘道

思い出のなかに聳える青々とした夏山。原句は「今はもう望郷のみぞ夏の山」。より大きく、おおらかに。

青葉風浴びて妻の手巻き寿司  弘道

風とあれば吹いているし、吹かれている(浴びている)。「青葉風妻の自慢の手巻き寿司」などより大切な描写に言葉を使いましょう。

華やかに開く湯の中鱧の花  和子

牡丹鱧のこの様子は多くの句にありますが、この句はことばが生き生きと過不足なく描かれています。

夏芝居電光石火殺陣決まる  和子

汗みずくになりながらの熱演の感じはしますが、普通の芝居との差があまり感じられないのが惜しい。原句は「夏芝居電光石火殺陣決まり」。

浪速の味 江戸の味 8月【祭鱧】(浪速)

caffe kigosai 投稿日:2021年7月22日 作成者: youko2021年7月22日

梅雨が明け、一気に暑くなってきました。梅雨が明けると、関西では祭が続きます。日本三大祭の二つ、祇園祭、天神祭でさらに熱気が高まります。

祇園祭では山鉾巡行、天神祭では陸渡御、船渡御という祭の見どころが、コロナ禍のため去年に続き行われません。人の流れを増やさない対策であるのはわかりますが、やはり寂しいです。ただ今年の祇園祭では、巡行はないものの、半数ほどの山鉾が建てられ、午後7時までは鉾提灯が灯り、宵山の雰囲気が少し味わえました。二年続きで、祭がこの様なことになるとは思いもしなかったことです。

天神祭は、菅原道真の霊を鎮める祭として、平安時代から続いています。大阪天満宮のそばの大川から神鉾を流し、流れついた所に斎場を設け、禊祓を行いました。その時、船を仕立てて迎えたのが船渡御の始まりと言われています。

本来であれば、7月25日に本宮を出た催し太鼓、神輿、行列が大川のほとりを歩く陸渡御が行われ、夜になれば奉安船、お迎え人形船、どんどこ船など百を超える船が大川に繰り出す船渡御が行われ、クライマックスには奉納花火が打ち揚げられるのです。水の都にふさわしい華やかな祭です。

そんな関西の祭には、旬の鱧料理がかかせません。その呼び名も祭鱧。骨切りをした鱧をつけ焼きにしたり、湯引きにして酢味噌や梅肉酢で食べたり、天ぷら、鮓にしても美味しいです。来年こそ本来の祭が行われることを祈りつつ、祭鱧で祭気分に浸りたいと思います。

懐かしき船渡御の灯よ祭鱧    洋子

朝日カルチャーセンター「カフェきごさい句会」(六月)

caffe kigosai 投稿日:2021年7月21日 作成者: mitsue2021年7月21日

新宿朝日カルチャーセンターの「カフェきごさい句会」。今月の兼題はサイトより、6月の季語「梅雨の月」、花「山法師」、浪速の味「泉州たまねぎ」です。

【特選】
竜宮城出入りしてゐる金魚かな  涼子

金魚鉢のなかで遊ぶ金魚の様子を描いた。「竜宮城」と大きく出てゆかい。ただし、「ゐる」は金魚の動きを止めてしまうため、消す工夫を。「金魚ひとつ竜宮城を出つ入りつ」など。

夏の月波がさらひぬ忘れ貝  涼子

夏の月で切れる取り合わせの句。寄せては返す波のようなリズムが心地よい。「忘れ貝」とは、万葉集にも詠まれている二枚貝の片方のこと。拾うと恋を忘れるという。「夏の月波がさらひし忘れ貝」。

【入選】
ふり返る遥かな空や山法師  和子

空に浮かぶかのように咲く山法師の白い花。原句は「下り来て遥かな空の山法師」。

湖に暈のゆるるや梅雨の月  涼子

湖面にゆれる月の句はあるが、暈を描いて新鮮。原句は「みづうみに暈を揺るがせ梅雨の月」。

雲ながれ山法師の花飛び立てり  光枝

今月の花(八月) 実桃

caffe kigosai 投稿日:2021年7月20日 作成者: koka2021年7月20日

お雛様に飾る桃の花より、桃の実の方をより好む方も多いでしょう。桃は中国原産ですが、実を楽しむ桃は明治の終わりには水密系の桃に改良が重ねられ、白桃や黄桃など甘みの増した桃が次々とでてきました。 

避暑で毎夏訪れた蓼科の山間の小さな寮の前の谷川。西瓜は買ってきたビニールの網にいれたまま、冷たい流れに冷やしていました。一緒にいれたジュースの缶の文字が水の中でゆれ、時たま小さな魚が走っていきました。

桃だけは沢の水をためた小さなアルミの桶の中に、(そっとね)という母の声を聞きながら沈めました。薄桃色の肌の、赤ちゃんの産毛のような毛茸あたりから透明な泡が立ちのぼりました。十分冷えた頃とりだし、皮をぺろりとむく間も惜しくかぶりつくと、母が(おいしそうな音を立てて食べるのね)と笑いました。あれは白桃だったでしょうか。

桃の紅茶を初めて飲んだのは30年前、イタリアのフィレンツェ郊外のある家に泊めてもらった時でした。庭のテーブルに座っていると、女あるじが水差しから甘い香りのお茶をグラスに注いでくれました。

「何かしら?」それはテ アッラ ぺスカ(桃の紅茶)でした。ガラスの水差しの底には切った桃が沈んでいました。桃を切って熱く出した紅茶に入れて冷蔵庫で何時間か冷やしただけ、砂糖もいれて、と彼女は説明してくれました。

イタリアでは暑さの増すこの季節に飲まれるようで、庭のパラソルの下での冷たい桃の紅茶は喉に心地よくしみていきました。ヨーロッパではこの時期、日本ではあまり見かけない蟠桃という平たい桃をよく見かけます。この時の桃はそれではありませんでした。

イタリア語の「pesca」は、英語では「peach」、学名は「Prunus persica」。 どこかにペルシャを思い起こす名前です。もともと中東を通ってペルシャに入ってきたので、ペルシャ原産と思った人たちが 「ペルシャのりんご」と呼んだことによります。

邪気を払うと言われる桃の力に基き、桃太郎伝説が生まれました。ここらへんで現代の桃太郎さんに登場していただき、今の世界にはびこっている鬼たちをぜひ一気に退治してもらいたいものです。(光加)

今月の季語(八月) 盆の月

caffe kigosai 投稿日:2021年7月18日 作成者: masako2021年7月18日

八月は旧暦と新暦の差異をあまり感じない希有な月です。立秋を過ぎても夏休みと呼ぶなど、そもそも違和感を内包している月ともいえそうですが。夏なのか秋なのかと考えるより、どちらの季語も自在に駆使しながら向き合いたいものです。

〈盆の月〉は歳時記の定義としては旧暦七月十五日の月ですが、八月の月ととらえてこの稿を進めます。現役の方々にとってはお盆休みに帰省するころの月となりましょうか。立秋過ぎですがまだまだ暑く、虫に刺されながら仰ぐ月です。

浴(ゆあみ)して我が身となりぬ盆の月   一茶

昼間の汗を流してすっきり。ようやく自分の身体を取り戻したという感覚は昔も今も同じようです。

さむしろや門で髪ゆふ盆の月    蓼太

「さ」は接頭辞。「さむしろに衣かたしき今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」(『古今集』)などと使います。「さむしろ」を敷いて髪を結うのは宇治の橋姫? いやいや深窓ならぬ「門で」ゆえ、「さむしろ」もさぞかし「狭」い「筵」に違いない、といったところでしょうか。句意はさておき、家うちは暑いけれども、夜の屋外はしのぎやすい気温になっているのです。

身ほとりを固き翅音盆の月   ふけとしこ

裏口に草木の匂ひ盆の月      鷲谷七菜子

盆の月草の山より上りけり     大峯あきら

第一句の翅は虫のはねに使う漢字です。何の虫でしょう。甲虫が過ぎるだけならよいのですが、あまり嬉しいものではない気がします。第二句第三句からは盆の月の若さを感じます。実際には私たちの周りが青々としているだけなのですが、月からも熟す前の青い匂いがしてきそうです。

盆の月しばらく兄と語りけり   黒田杏子

帰省したときの句と受け止めていますがどうでしょう。〈盆三日あまり短し帰る刻  角川源義〉という句もあるように、帰省はするとなると忙しないのですが、してしまうともう戻りたくない。里の家にはいつもと違った時間が流れているようです。

ちちははと住みたる町や盆の月   上野章子

父母ありてこの世まつたし盆の月 上田日差子

盆の月は父母とセットになっているともいえそうです。二句ともに、過ぎてから顧みると切ない句です。

ふるさとに墓あるばかり盆の月   鈴木花蓑

盂蘭盆の供養の句にも月がしばしば登場します。

香煙の中に月あり盆大師       五十嵐播水

盆の島月にどうどう太鼓うつ    橋本美代子

望月や盆くたびれで人は寝る    路通

第一句はお大師さまの境内の景。人々が一斉にくりだし、香煙がたちこめています。第二句は島の盆踊でしょうか。第三句は盆の行事にくたびれて寝静まった下界を照らす満月です。

昔「まあるいまあるいまんまるい 盆のような月が」と歌った記憶がありますが、旧暦の盆の月は十五日の月ですから、まさに盆のような月です。新暦の場合は(休暇取得の都合が重なれば更に)いろいろな形になりそう。この点だけは「差異」を免れないようです。(正子)

 

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • 第三十五回 2026年2月14日(土)13時30分
    (3月は第一土曜日・7日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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